彼を観(見)ていたのか…361日目
殺人事件の死体損壊容疑で逮捕された元俳優の男(20)に関し、ネットでいろんな情報や意見が引き続き出ている。これ以上積極的にこの件を追いたいと思うわけではないが、どうも「最後に出演した舞台は八千草薫の『黄昏』で……」という情報が脳みそにひっかかり、気になってしまった。
ここ数年、観劇した舞台のチラシとチケットは保存している)探したら、当時のチラシが出てきた。記憶に残る舞台だったが、彼のことは気づいてもいなかった。が、目に入っていたわけだ。
『黄昏』2018年8月10日~27日、@新宿・紀伊國屋ホール。
全席指定8000円。
作:アーネスト・トンプソン、演出:鵜山仁(文学座)。出演:八千草薫、村井國夫、朝海ひかる、松村雄基、伊藤裕一、若山耀人。
八千草薫を観にいった芝居、実はがん闘病中(当時未公表)
当時は、とにかく芝居を観ようとしていた時期。特にテレビにもよく出ている有名人を舞台で生で観るとどうなのか、の確認作業などもちょくちょくやっており、この時は、「年をとっても相変わらず可愛らしい顔立ちだが、とても気が強いと評判の」八千草薫を観るのが主目的だった。八千草を生で観たのは、この時が最初で最後。
何が記憶に残っているかというと、正直に書くが、八千草の演技のおぼつかなさである。老婦人の役とはいえ、台詞がたどたどしく、明らかに思い出せない状況。それを、夫役で13歳下の村井(当時74歳くらい)が必死にフォローしていた。観劇後の帰り道、前を歩く客2人が「八千草さんを観るのもこれが最後かも」とやや残念そうに話していたことも覚えている。それくらい、衰えははっきりしていた。
八千草はこの時87歳。ほぼ一年後の翌2019年10月に88歳ですい臓がんで亡くなっている。wikiで改めて確認すると、2017年末にすい臓にがんが見つかり、手術を受けて2018年8月のこの舞台『黄昏』に出演(がんは当時未公表)、2019年には肝臓にもがんが見つかり、4月放送開始予定のドラマ『やすらぎの刻~道』の主演を降板し、休業。同年2月にがんを公表、同年10月死去。
がん闘病を知る前は、やはり年をとって衰えたんだな、と思っていたが、最後の最後まで気力を振り絞って頑張られた方なのだ。好みの俳優さんではなかったが、敬服し、改めてご冥福をお祈りする。
紀伊國屋ホール全席指定8000円の舞台に6人のひとりで出演
この舞台に、彼が出ていた。当時15歳くらいか。
自分は、テレビによく出ている有名人の八千草と村井、松村雄基くらいしか認知していなかったし(宝塚にも詳しくないので朝海ひかるもようわからん、すみません)、書いたように、八千草を注視していた。
が、そこに彼はいて、板の上で演技をし、自分は確実に彼の演技を目にしていたのだ。客席から舞台まで10数メートルくらいか、その同じ空間を共有していたのだ。
これは衝撃で。
映画『曇天に笑う』(2018年3月21日公開)以降表だった活動をしていない、と報道したメディアもあり、映像>舞台の世界観がメディアや世間では当たり前なのか、残念と思う(ギャラは確かに映像>舞台だろう)。が、2018年8月の舞台『黄昏』は、きちんと表立った主流の舞台だ。
文学座など新劇系舞台人がメーンの活躍の場とする、新宿・紀伊國屋ホールで全席指定8000円。演出も文学座の鵜山氏。なかなかのものだ。帝国劇場や日生劇場など有楽町界隈、渋谷や赤坂などで催される“商業演劇”は一万円超えも珍しくないが、演劇の作り方からして、舞台装置やかかる人数・金額が違う。
多くの役者の憧れの場でもあろうところにいて
そう、決しておちぶれてなどいない。有名俳優と共にそこに立つ。無数の舞台役者たちの憧れの場でもあろう。
きちんとやっていれば、役者としての経験を更に積んでいけた場。
それが、あまりに。なんというか。
一か月半ほど前に撮影されたという渋谷での街頭インタビュー動画も見てしまった。「金」。
皆さまのご健康を。
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