キャラ弁1号 「おじいちゃんとゾンビ」
不器用なことを忘れてキャラ弁
その日は、娘の幼稚園での初めてのイベント。遠足の日だった。娘に喜んでもらいたい、その一心で、私は生まれて初めてのキャラ弁を作った。
「キャラ弁?そんな手のかかるもの絶対にしない」
これは過去の私の意見である。娘の可愛さに意見など簡単に変わるものだ。愛情ってすごい。お弁当の蓋を開けた瞬間にニッコリとする、その顔を想像するだけで「やってやろうじゃないか」という気になるので、本当に不思議だ。
はじめはキャラ弁にする気なんてなかった
年少さんの遠足のお弁当なので、量は少なめで食べやすいようにしてくださいと言われていた。少なくても喜んで欲くて、前日から娘が大好きなミートボールと薩摩芋の甘煮を作った。野菜もちゃんと食べてほしいから、可愛らしくくり抜いたり、飾り切りしたりした。万端の準備を終え、床につく。ここまではよかった。
眠りにつくまでの時間、お弁当のことを考えていた。食べやすいようにおにぎりにして…詰めていって…と。その時に思いついてしまったのだ。おにぎりを可愛くしたら喜ぶんじゃないかって。量が少ない分、質で勝負と言うわけだ。うっすらとキャラ弁グッズが必要なんじゃないかと思いもしたが、時間が時間だし、ぶっつけ本番なしでいくしかないと思った。妙な自信すら湧く。私なら出来るんじゃないかと!
いよいよおにぎりを作る時が来た
娘はわかめごはんが好きなので、素を入れて丸い形を作った。ここまではいつも通りのことだからスムーズである。問題はここからだ!我が家にあるハサミはこちら!
コレで顔のパーツを作っていくわけである。娘への愛情とやる気につき動かせれている私は、チャレンジしはじめた。「私なら出来る!」と自信みなぎる女は数分後に後悔した。
「うまくパーツが切れない!」不器用×年季物キッチンバサミ、相性は最悪である。器用な方ならこれでもきっと可愛らしいキャラ弁を生み出せるのであろう。しかしながら不器用な私は、小回りのきかないキッチンバサミに苦戦しながら、目なのか口なのか何なのかわからない部位を量産した。
冷静に考えれば、クッキングシートに切りたいパーツを描いて切ればいいのだが、生来の面倒くさがりとこのままやり抜くんだとう意地が発動した。諦めるという選択肢は無論ない。失敗するごとに海苔を口に運んでいたのだが、海苔の食べすぎでお歯黒になるかと思うぐらいだった。
お弁当だけ作っていられないのがママ業
「ふぇーーん、ママーーー!」
海苔と格闘している私の耳に、我が子の泣き声が聞こえてきた。年少の頃の娘は起きる時、何故か泣く子だった。娘の相手をし、朝食を準備し食べさせ、トイレの様子を見て…と放置されるキャラ弁(仮)。
無情にもすぎていく時間。手のかかる3歳児。徐々に冷めゆくキャラ弁(仮)と諦めきれない私。もちろん遅刻する訳にはいかない。遅刻したら置いていかれてしまう。焦る気持ちをどうにか落ち着けるべく深呼吸をしながら、海苔との最終戦に挑んだ。失敗作もとっておけばその中で1番良いものを選べただろうに、残念なことに食べ尽くしていたので、この最終戦でできたものが顔になるのである。
さて、結果は最初にご覧になっていただいた通りだ。この何ともいえぬ面々をおにぎりに貼っていかねばならない。
事件勃発!海苔、米を拒否!
ご飯が冷めすぎたからか、海苔がうまくくっつかない!くっつけようとすると、海苔が浮いてくるのだ。
くっ!なぜ!何故このタイミングで拒否するのだ!
あなた達、本来は仲良しでしょうが!
心の中で叫んだ。これでは‘キャラ弁で娘ニッコニコ計画’は失敗に終わってしまう。慌てて私はグーグル先生に助けを求め、マヨネーズで貼るという技を知り、何とか無事に貼ることができたが、もうなんか可愛くない。しかしもうこれ以上、私にはどうにもできない。最後の足掻きだ。ケチャップでほっぺを足してみた。
「ねぇ…今日のお弁当なんだけど…ママ頑張ったんだよ☆」
娘になるべく失敗を悟られぬようお弁当を見せてみた。
その時我が家に天使が降臨した
大袈裟な表現かもしれない。私にはそう感じられたのだ。娘のあの一言で。
「わぁ!ニコニコとパンダさんだー♡」
キャラ弁がどんな素晴らしく、美しく、可愛らしいものかをまだ知らぬ娘。3歳のピュアガールは、私のガッカリ弁当をキャラ弁へと昇格させてくれた。もうこの笑顔を見られただけで私は幸せだ。苦労も疲労も吹っ飛んだ瞬間であった。
無事に娘を送り届けた後、母に画像を送った。「今日、遠足。キャラ弁頑張った」と一言添えて。数分後、想像の斜め上の返信が返ってきた。
「おじいちゃんお弁当?かわいいね!横はドクロ?」
思わず吹き出す。そんなわけあるかい!何だその、ビフォーアフターみたいなキャラ弁!娘のキャラ弁でそんな斬新な組み合わせはしない。
「いや、ニコちゃんとパンダだから。」
と送り返した私。大人目線で見たら、そうなるよねと本心では思った。ただ…「おじいちゃんとドクロ」だと娘が悲しむだろうから、「おじいちゃんとゾンビ」にしておこう。
後者の方が朗らかな最強おじいちゃんがゾンビをボッコボコに倒して、街を救うなんてね。素敵なストーリーができそうだから。
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