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実るほどこうべを垂れる稲穂かな

職業柄、芸能人とよく仕事をする。
それはもう、芸能人といってもピンからキリまでいる。それはもういろいろ…

売れるためにギラギラしてるお笑い芸人
尖ったキャラが売りでも普段は真面目な芸人
修羅場をくぐりぬけた結果どんな現場にも対応出来る人気アイドル
かと思えば、よほどストレスを溜めているのか言われたことすらできない無気力なアイドル
打ち合わせではめちゃくちゃダルそうなのに本番が始まった瞬間キレッキレで仕事をこなすマルチタレント
人気も実力も人柄も全てが神の声優

…ピンからキリまで。

芸能人って大変だ。
事務所の方針、自分がやりたいこと、ビジュアル、トーク、歌唱力、演技力。
色々なことに気をつかって、それを武器に生きていかなきゃいけない。たまにやさぐれた芸能人と仕事をすると、なんとなく気持ちはわかる。そうだよね、疲れちゃうよね。

それでも「トップクラスに売れてる芸能人」というのは何かが違う。

我々末端のスタッフにも細かい気配りをしてくれ、仕事においてはこちらの意図を汲み取り、期待以上120%のパフォーマンスを見せてくれる。これが一流芸能人。努力を怠らなかった人間の姿だ。

…さて

話は変わるが、私にはこの芸の世界で「お師匠」と崇める方がいる。芸歴数十年。すでに大ベテランの域に達したプロフェッショナルだ。

ひょんなことから週に1回一緒にお仕事をさせて頂くこととなり、深くお話をさせていただくうちに、息子のように可愛がって頂くようになった。

「実るほどこうべを垂れる稲穂かな。」
この人のためにあるような言葉だ。

■お師匠の言動シリーズ
・特に用事がないのにフラリと事務所に来ては「元気?みんなで食べてね」と美味しいスイーツを差し入れてくださる
・依頼事項になかった私がやる予定の原稿仕事を半端ないクオリティで仕上げてきた上に「なんかやりたくなっちゃって…これ、あなたの手柄にしちゃってくださいね。」とおっしゃる
・年賀状は毎年びっしり手書きのメッセージ付き。一体何枚書いてることやら。
・年下だろうと仕事に関しては全て敬語。仕事が終わるとフランク。
・年下だろうとなんだろうと自分が知らないことは常に教えを乞う。「教えてくれてありがとうございました、大変勉強になりました」毎回これ。
・ファンから写真・握手・サインを求められると、「私でよろしいのでしょうか、ありがとうございます!」と対応。(あなたじゃなきゃダメですw)
・専門分野の指導になると鬼のように厳しい。でも指導が終わると仏。

お師匠のことならいくらでも語れる。
どれほどの徳を積めばこんな人になれるのだろう。

お師匠のエピソードの中で、最も印象に残っているもの。
とあるパネルディスカッション形式のイベントでお師匠が登壇された際、「芸事とは」という議題になった。ベテラン芸能人ならではのお師匠に向けられた質問だ。

お師匠はこう答えた。

「芸の道、是即ち己の生きた道なり
「人の真似はいくらでもできるし、演じること歌うことなんていくらでも上手くつくれる。でも、本物には敵わない。経験した人には敵わない。本物は本物の感情からしか生まれません。いつかAIが人の仕事を奪うこともあるでしょう。でも人間の芸の道をAIが奪うことはないでしょう。似せることはできます。でも越えられない。さぁ、たくさん恋をして、たくさん友人を作って、たくさん楽しんで、たくさん悲しんで、失敗して、人を恨んで、また信じて。そのぶん、表現しましょう。」

気づくと私は泣いていた。

「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」
いつだってお師匠は私のずっと先にいて、今日もこうべを垂れている。

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