あるレジェンドプログラマーさんのこと

前に勤めていた会社でお世話になっていた安原祐二さんがその会社を退職されるらしい、と聞いたのが1ヶ月ちょっと前のことでした。

それを聞き、辞めたあとはどうされるのかが気になる一方で、安原さんにはいつも業務に限らずお世話になっていたし、ふとした瞬間に垣間見える思慮の深さなどをいつも学ばせていただいていたことを思い出しました。

転職した今でもふと判断に悩んだ時に安原さんならどうするだろう、と想像するくらいにはぼくの中で規範である方なのですが、安原さんはこういうところが凄かったなあ、ということをふと帰省の道すがら思い返してみたくなった、という主旨の記事です(公開は年明けてからになっちゃいましたが!)

※安原さんをご存じない方は先に次の記事を読んだ方が良いかもしれません。この記事では触れない安原さんの経歴などがわかります。
https://warapuri.com/post/168401898011/utjスゴイ人列伝-安原祐二

実装者に思いを馳せる

何か技術の話をする時、安原さんは「この人はこういう考えでこの実装をしたんだとおもうんです」みたいな話し方を時折されていました。

一般的にはそれがどんなものでどう役立つのか、嵌りどころはどこか、みたいな実益に直接繋がる話はよくされると思います。実際ぼくとかはそういうところだけで話しがちです…。それをもう一歩進めるとその原理や歴史的な経緯などにも目が向くのかなと思いますが、安原さんはそれらも理解した上でさらに「歴史的な経緯」の中にいる面識もない人々のことを考える方なのだと感じました。

原理などを知っておいたほうが応用が利くということは分かっていましたが、それらがあるのはそれを最初に思いついた見知らぬ誰かがいるからこそ、という考えてみれば当たり前の気づきがありましたし、そういうことを意識するようになってからは何かの技術を学ぶのがもっと楽しくなったと思います。

安原さんは最近 voicy を始められていて、ぼくは新しい回が出る度に聞いているんですが時折実装者のことにも言及されている様子が伺えます。ぼくは PHP は触ったことないんですが、PHP 回が好きなのでリンクを張っておきます。
https://voicy.jp/channel/2462/244364

講演スキルについて

安原さんの講演を一度でも見たことがある方ならわかると思いますが、安原さんの講演は非常に面白いです。何かの塾講師をされていた時期があると聞いたことがあるので、そこで培われたスキルなどもあるのだとは思いますが扱う内容が割とビジュアル的には地味だったり高難度だったとしても初心者が興味を持って聞けるのは常人離れした技だ…!と常々感じていました。

具体例を挙げるとすれば Unite Tokyo 2019 の DOTS についての講演でしょうか。DOTS は既存のものとは全然異なる仕組みで、(未だにそうですが)仕様もフワフワしていて非常に講演者泣かせなお題だったのではと思います。実際かなり資料作成に苦戦されていたような覚えがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=ydHbtssCrMw

この講演は「今触るには早いけど技術的に面白いから紹介したい」という語り口で始まり、実際めちゃくちゃ面白かったです。そして講演後には DOTS を触ってみたという人をかなり見かけました。DOTS に関する記事も講演をきっかけに増えたと記憶してます。

ウケが良くなるよう細かい技巧も尽くされていますが、このぶっちゃけ加減や本当に面白いと思っているであろうことが伝わってくる感じが題材問わず高い評価を得る理由の1つなのだと思います。また voicy 以外にも長尺の動画とかも見たいなあと思うことしきりです。

「生意気」

前職へは安原さんの業務を一部引き継ぐために就いたのですが、その関係で入って1年くらいは色々な話を伺ったり研修らしきものを受けたりしていました。で、確か入って初日のことだったと思います。他の社員のどなたかに口頭で「生意気な記事を書いていた子」としてぼくが紹介されたことがあってめちゃくちゃギョッとしたことを覚えています。

前職に就く前のぼくは今は亡き個人ブログに Unity 周りの技術記事を投稿していました。最後に投稿した記事は確か、シューティングゲームで時々見かける所謂「へにょりレーザー」を Unity で作るという内容でした。シューティングゲームに関する記事は安原さんには厳しく見られたのか…?それともその前の C# の言語機能に関する記事が不味かったのか…?などと考えつつ、初日にギョッとすることを言われたものですからその後の行く末に不安を覚えたのでした…。全くの杞憂でしたが。

それから1年ほど、ここでは割愛しますが本当によくしていただきました。1年経ち、契約社員から社員になるか、ゲームプログラマーになるために辞めるかという話が上がり、実際に社員枠を取れるか※ はさておきその判断はぼくに委ねていただけることになりました。結果社員になることにしたのですが、その前後でぼくも知らない社内での手配などでお手数おかけしたと思います。また同時に、どうするか決めかねていたところにいろいろと安原さんに関するお話を伺いました。

20歳からプログラミングを始めたこと、働き始めてみると当時の先輩は大したことないように感じられたこと、逆に自分たちも同じようにすぐに下から同じように疎まれるようになるんだと思っていたらそうはならず、できる人として接されてそれはそれで…という状態だったことなどなど。人よりも出来すぎるとこういう悩みがありえるのか…と当時は驚きました。あと、若い人が自分よりできる状態は、人によっては若い人のことが生意気に見えるのかもな、とも思いました。

それから数年経ち、安原さんがUnityインターハイ(現 Unityユースクリエイターカップ)で参加者の面談を担当されるようになりました。その時に参加者に対しては勿論言っていなかったものの一部参加作品のソースコードに対して「生意気な…!」というような言葉を確か使われていて、一瞬、数年前のことを思い出しました。が、それは明らかに悪い意味ではありませんでした。この記事とか読むとよく分かると思います。
ソースコードとUnityインターハイ|ヤスハラユウジ|note

これは都合の良い解釈ですが、入社当時に発せられた「生意気な記事」と言われたのも、安原さん的にはインターハイ参加者に向けるような褒めの意味合いがあったのかもしれません。かつての安原さん自身と重ねつつ、若者が拙いながらに頑張る姿に向ける賛辞みたいな…いや、やっぱインターハイ参加者の時のような明るいトーンではなかったと思うのでぼくの場合は本当に駄目だったのでしょう。怖いので今後ご本人に会う機会があってもこの話題は避けようと思います。

※前職は毎年年初に支社ごとに今年は何人採用してよい、みたいな枠を与えられ契約社員から社員になれるのは順番待ち。それ以上に採るには本社に交渉みたいな仕組みだった

思い遣りと敬意

安原さんを悪く言う人を見たことがありません。これは思うに、思い遣りが半端なく、相手への敬意が払われているからだと思います。

例えばぼくは前述のように前の会社には安原さんの業務の一部引き継ぎ役として、具体的にはユーザーサポートの仕事をするために入っていたのですが、アレな問い合わせをしてくる人や怒り感情が文面に滲んでいたりする問い合わせなどはその内容のまま受け取って少なからず嫌な気分になってばかりでした。ところが安原さんにこれどうしましょうと聞きに行くと絶対に「その方の境遇はこうかもしれないよね」と最大限好意的に解釈されていました。

また、文章であれ会話であれ、安原さんの言葉には常に敬意が備わっていると思っています。それは先程のインターハイ記事を読むと十二分に伝わるのではないでしょうか。補足しておくと、記事の文章は記事用の疑似人格とかでは決してなく、普段通りの安原さんなんですよね。凄くないですか…!最大限好意的に解釈してくれる上に敬意を持って接していただけているのが分かる相手に、嫌な感情を持つなんてあり得るか、という感じです。ほんとに。

ぼくは素がひねくれているので人の悪いところばかり見るし悪い方に捉えてばかりなのですが、安原さんの考え方を知ってからは改めようと肝に銘じ続けています。


以上、ちょっと端折ったりしている部分もありますが、以前のことを思い返しながら書いてみました。他にも本のこととか、懸垂のこととか、Uniteのタイムラインのこととか、時折見えたブラック安原さんのこととか、今思いつくだけでもいろいろネタはあるのですが、それはまたの機会があれば、としたいと思います。

ではまた。


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