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(偽)最終回について

作中の時期についてはテレビ版最終回、タロウが消えてはるかと再会する前。
タロウのいないドンブラザーズでの活動に限界を感じ出しているはるかという設定。

1話、10話、夏映画、20話、そして最終回と、本編は大事なポイントで必ず授賞式の天丼が来るのでこの漫画も冒頭は絶対「身に余る光栄です」だと決めていた。

ドンブラザーズという物語は、冒頭から新人戦士として仲間入りするはるかの視点で語られることで物語世界へのスムーズな導入と設定の開示が為される。さらには現役女子高校生漫画家という、ちょっと変わり者だが憎めないキャラのおかげで桃井タロウとはるかの間にいわゆる「俺様彼氏に振り回される図太いヒロイン」という少女漫画的な味付けが加わり、特撮シリーズでは珍しい瑞々しいムードが醸されていた。
実際この序盤パートが魅力的でドンブラにハマった人は多い。かくいう私もその一人で、「還暦過ぎの大ベテラン脚本家が馴染みのスタッフと組んだスーパー戦隊46作目」というコテコテの定番商品がなんでこんな新鮮な魅力に満ちているのか驚きの目で見守っていた部分が大きい。
改めて初回から観てみるとヒトツ鬼に憑かれる人々の描写はそれなりに丁寧だし、あっという間にタロウ以下各登場人物のキャラが立つ神技はもう井上敏樹の十八番だし、はるかの素直な疑問や感想はツッコミと論点の整理を兼ねており、視聴者をおいていかないよう機能している。次々現れるヒトツ鬼と戦いつつドンブラザーズ及び桃井タロウというシステムが明かされていく流れも後から言われるほど唐突ではない。むしろこの辺りまではいわゆるスーパー戦隊らしい戦隊(ただしちょっと味が変)を手堅くやってる印象だ。
この、はるか視点の少女漫画的アプローチで語られるドンブラザーズの物語は15話「おかえりタロウ」で一区切りを迎え、ここから物語世界はさらに角度を付けて急上昇&急降下を繰り返し、1話完結ものの特権だとばかりにやりっぱなしコント、ニチアサ同期のライダーいじり、果ては自らの過去回を使った天丼ギャグ等々狼藉の限りを尽くし、ニチアサの戦隊枠を荒らしていく。

考えてみればはるかとタロウの物語は15話である程度の決着がついてしまい、その先を描こうとすればそれは私たちのあまり好まざる展開になった可能性が高い。例えば43話「トキかけ、ナゾかけ」で仄めかされた何がしか。あっちの世界のはるかがあれほど拘って描き続けた漫画のヒロインが最後に結ばれる相手はどう見てもタロウなのに、付き合ってるのはお金持ちで短歌を嗜む真一。さらにこちらのタロウに対して向ける憎しみの謎。否が応でもドロドロな人間関係を想像してしまうがそこはニチアサ向きでないとサラッと流して終わる。これはあくまで彼らが「別時空のドンブラザーズ」だからであって、もし今回のこのメンバーの話だったら……なつみほ問題どころじゃないトラウマ展開を繰り広げていた可能性もある。まあジェットマンのアコが恋愛ドラマとは距離を置いていたように、まだ10代の少女をヘビーな愛憎の坩堝に叩き込むのを良しとしないニチアサ的倫理ガードが働いたのかもしれない。
いずれにせよ、中盤から終盤にかけて物語の中軸も獣人や脳人たちとのあれやこれやにシフトし、比較的大きな話が動いていく中ではるかは一歩後ろから真一と一緒にタロウを見守るポジションに収まっている。

こうしてやりたい放題を尽くした物語の決着はどう付けるのか。オーラスはなんらかの形で初回と対応させてくるだろうからはるかとタロウの二人で〆るだろうとの予想はできたが、井上大先生がタロウとソノイ役の二人を呼んで会食したと聞き(脚本家もタロウの最後を誰に託すか、はるかとソノイのどちらがいいか迷ったのかなー)と勝手な想像をしていた。私個人としてはソノイがその役を任されたことには全く文句はなくてむしろ一番相応しいとも思っているけれども、はるかバージョンも見てみたかったというのはある(だから変な漫画を描いたんだけど)。


そんなこんなの「(偽)最終回」な訳ですが(前置きが長い!)序盤の雰囲気のまま最終回を迎えたらどうなるか、という思考実験みたいなもんです。見開きでババンとタロウの登場シーンを描いてみたかった。本当は神輿と天女の舞もあったはずなんですが、絵面的にどうしても面白が勝っちゃうんで……

このネタ自体は10話の後くらいから頭の中にあったんですが、長いことこねくりまわした後にFLTとかドンゼンなんかが加わってこういう形に落ち着きました。
ちなみに霊体(?)となったはるかがあの姿なのは丹波哲郎師の大霊界理論(あの世で人は一番輝いてた時の姿になる)(うろ覚えでごめんなさい)によるものです。


一番気に入ってるところ。誰も褒めてくれないから自分で褒める

追記:これ言うの忘れてた。この漫画を描くにあたって常に意識にあったのは映画「タイタニック」のラストシーンです。劇場で観たときそれまで一切泣けなかったのにあのラストでブワっと来た。ああいうのには弱い














作者としてはあのタロウは今際の際のはるかが見た夢だと思って描いていますが、もしかしたらそうじゃないのかもしれない、まだまだ違う世界があるのかもしれない、そう願うことは自由だよね・・・というおはなし<了>


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