ジャンプ+ ゆく恋、くる恋 十三恋弾読切祭 感想

2020年の年末から2021年の年始にかけて、ジャンププラスで「十三恋弾読切祭」が開催された。十三日にわたって、一日一作、恋愛ものの読切を連載するというものだ。
ジャンププラスでは不定期に読切が連載されているが、好みにハマる良作も多い(いつか感想まとめられたらいいなあと思っている)ので、今回の読切祭も期待して読み耽った。
同じジャンプと言えど、十三作もあると作風や画風などを見ると十三様の作品がそろった。そこで、あくまで個人的な好みという前提ではあるが、自分が好きな順に簡単に感想をまとめてみた。各感想にリンクも貼っているので、興味がわけば読んで頂き、好きになればぜひいいジャンして欲しいと思う。
この記事が、少しでも多くの良い作品に出合う一助になれば幸いである。

1.呪いにかけられて〜ちんちん爆発恋物語〜

今回の読切祭で自分が一番好きな作品はこれ。文句なし。
タイトルからしてすでにどうかしてるが、もちろんストーリーもおかしい
主人公はたつろう(勃つろう)、ヒロインはノロイ(呪い)、サブヒロインは白金玉姫(金玉)と一貫して頭がおかしく、「相手のち◯ち◯が勃起したら死ぬ呪いをかけた主人公が逆にその呪いにかけられ、真実の愛で呪いを解く」というストーリーも最早さすがの一言。

しかしキャラクターの動きや話の流れ、魅せ方のどれもがハイレベルで、読後感が素晴らしく良いのが逆に腹が立つ始末。良い意味で何を読まされてたんだと前向きな気持ちになれる。

大まかに分けて、世界観や設定を説明する序盤・ヒロイン(ノロイさん)と距離を縮める中盤・2人の関係性の変化と物語の結末を描く終盤に分かれるのだが、それぞれの展開で中だるみがなく、飽きが来ない
序盤は、
「ち ○ ち ○ 爆 発」「え ら い こ っ ち ゃ」
「生物として一番生きたいと思った瞬間に○ねえ」
「朝だちはセーフにしてやるよ」

といったセンスに溢れすぎてるワードで世界に引き込まれ、中盤は『キュインキュイン』が合図になる非日常的状況がスパイスになっていて、終盤はそれまでの登場人物と気持ちの流れが綺麗に結末に向かって収束していくさまが美しい。

さらっとうまいなと思ったのが、サブヒロインの白金玉姫が無駄なキャラになっていないところだ。主人公のたつろうがノロイさんへの気持ちを自覚するトリガーになるわけだが、「かつて主人公が好きだと思っていた人」という当て馬的なキャラとしてではなく、「ちょっと電波」という一見無駄にも見えるキャラ付けが、読者へのミスリードとなっているのが見事だった。

また、こういう漫画は、恋愛を主軸にすること・ページ数が限られていることから世界観の説明がどうしても省かれてしまいがちだが(同じ読切祭の中だと「漆黒少女と白の憧憬」や「キメラと体目当ての博士」がわかりやすい)、ノロイさんの出自という、現実世界とは少し違う本作の世界観をさらりと説明し、恋愛だけでなくそちらの結末まで描写し、読者に受け入れさせるというところまでやってのけているのがすごい。

絵柄(うまいし個人的には好みである)・タイトル・作風など、人によってはっきりと好き嫌いが別れそうだと感じたが、自分にはガッチリとハマった作品だった。今後の作品も楽しみにしたい。

2.探偵なんですが

あまり頭で考えていなくても、雰囲気で好きになれた良作。かなり好みなのだけど、雰囲気が好きだと、好きな理由を説明しづらくて困ってしまう。

「探偵事務所の息子と彼を好きなクラスメートの女子が遊園地で張り込みする」という、珍しいプロット(実際自分も見たことなかった)なのだが、これが意外とハマる。彼とお近づきになりたいヒロインが張り込みに同行するのも自然だし、探偵としては素人である彼女が張り込みに付いてきた意味がちゃんとあるということ(こういう漫画だと2人のどちらかが無駄に足引っ張ってヘイトをためたりしがち)、さらに2人でいることで主人公の成長と恋愛としての接近も描くという、かなりちゃんとした構成になっている。
個人的には、漫画的なトラブル(どちらか片方がミスして見つかりそうになるとか)を起こさずに2人の成長と相性の良さを描けていたのが特によかった(ヒロインがナンパされる展開はあったが、それくらいはまあ…)。

主人公、ヒロイン、主人公の父それぞれのキャラクターも個性的でありながら嫌味がなく、魅力的。いかにキャラクターを好きになれるかが本当に重要なのだと実感する。ヒロインとの父の掛け合いも軽快で好き。
「はてち以外嫁とは認めん」
「そこが可愛いんだけどな」「それもわかりみ」
ヒロインと主人公それぞれが恋に落ちる過程も丁寧だった。「花丸」に惹かれる(きっかけになった)というのは、なかなか良いセンスしてるなあと思う。

強いて言うと、絵の華というか、爆発するところが薄いのかなという気もするが、個人的にはかなり好みである。

3.正反対な君と僕

ストーリーや設定に奇を衒った目新しさはないが、それでも基本と正道を丁寧に積み重ねた真っ直ぐな気持ちよさに、作者の個性がうまく絡まった良作
「明るい女子と大人しい男子」という組合せはもはやステレオタイプの一つだが、互いが互いに惹かれる理由と心の動きを一つ一つ描いているので、鈴木さんも谷くんも、ただの記号ではなくて1人の人間としての存在感がある

こういう作品だと、「モテない男」サイドが主人公となり、「陽キャのギャル」がヒロインで「なんで自分を好きになったんだ?」となる構図の方が多いような気がする(同じ読切祭だと「探偵なんですが」がある。あれ、あんまり多くないか?)。しかしそれとは逆に陽キャとしての内面・悩みから、なぜ正反対な男を好きになるのかが丁寧に描かれていて素晴らしい。
男側(谷くん)のモノローグはどうしても少なくなってしまっているが、キャラクターも手伝って、あまり不遇というか不自然には感じなかった。

絵もうまく、それでいて個性的で、決めゴマもデフォルメも個人的にはかなり好感触。そのおかげで、大きいシーンを結ぶちょっとしたコマや、キャラクターの動き、擬音までも愛おしくなる
特に、「走れ!スズキ!名に恥じぬ速度見せつけろ!!」「ドゥルワー!!(エンジン音)」「遅」のシーンは勢いあって好き。

4.隠さんのかくしごと

「あ〜こういう感じね」と謎の上から目線で読んでいたら、最後で見事に裏切られた。

人外ヒロインとの恋愛ものも昨今はありふれてきてはいるのだけれど、この作品の優れているところは「普通の男女の恋愛ものである」というミスリードができているところだと思う。
序盤に噂として「呪い」というワードを伏せておいたのも丁寧。まあ実際そういう力が隠さんにあるかは知らんけど。

「登校時に全員が検温する」というコロナ禍の新しい生活様式が終盤の展開に対するトリガーになっているというのは、ずいぶん前に学生ではなくなった人間からすると「もう今はこうなってるのか...」と困惑してしまった。
とはいえこういう新しい生活の要素を組込んでいくのはうまいし今後も必要なことだと思う。登場人物がガラケーからスマホを使い始めるのと同じように。

「○○さん」系統は個人的にはもう満腹なのだが、食わず嫌いすることなく読まないと面白い作品には出会えないなと実感した
絵柄も好みだったので、別の作品にも期待したい。

5.陰気なアイツは半キュバス

漫画におけるキャラクターの「人間性」の重要さを実感した作品。

ヒロインのそらは陽キャでギャルでありつつ人間が出来ていて、クラスの中での立ち位置でもそれを示しているのがうまい。ちゃんとエロイことにも興味津々なのも人間味がある(男側の茜が人間ではないことの対比かも?)「半キュバス」である茜も「内面を見てほしい」という動機がきれいで共感を呼ぶ

お色気に寄せてきているが、それで魅力を出せるほどに絵が上手く、そこは適性があってうまく合致しているのではないだろうか。羽を出すと服がはじけ飛ぶとかは「そうはならんやろ」と思ったりする部分がある一方、お父さんの保育士という仕事が、インキュバスの人を魅了する能力に耐性を付けるという合理性に繋がっていたりするのは地味にファインプレーで良かったかなと思う。

6.悪い書道部員

比較していくと順位は低くなってしまったのだが、個人的には好みの方に入るくらいだ。

「悪い書道部員がクラスの真面目な女の子の体に文字を書く」という意味不明なプロットで、比較的短いページでインパクトを残して終わってくれた。
この際、悪い書道部員がなぜ悪くなったのか、とかはどうでも良くて、ヒロインが謎の性癖に目覚める過程だけをちゃんと描いてくれているのが割り切っていてよかった。これは、後述する「かぎぎつね」とは(画力など合わせて)対照的だなと個人的には思う。

画力、魅せ方などはまだまだ発展途上なのだろうと思うので、今後はもっと上手くなった画力と魅せ方で、もっともっとぶっ飛んだ話を見てみたい

7.ラブコメディはお嫌いですか?

2ページ目の「いいスイングだ…‼︎」で笑ってしまったのでもう自分の負けだと思って読んだ。

絵もうまく、要所要所の演出も好感触。
しかし、ヒロインの矢野さんが、主人公が惚れるような「控えめな性格だが笑顔が素敵で友達も多くみんなから好かれる慈愛の天使」であることが読者である自分には伝わってこなかったのが残念。みんなの前で筆箱とか投げてるし。

ページ数の都合もあるだろうし、そもそもギャグテイストではあるのだが、やはりそれぞれの演出や行動に「理由」がちゃんと欲しかったように思う。
主人公はなぜ少女漫画的な行動にこだわるのか(これは説明されているけど、主人公の人間性に結び付いていないように思う)、ヒロインはなぜそれが嫌いなのか、そんな二人が惹かれあうのはなぜか。
その理由が彼らの人間性と相まって、行動や思いが「必然的だ」と感じられれば、たとえギャグ的演出であっても恋愛漫画としての深みが出たような気がする(考えすぎか.......)。

8.かぎぎつね

絵柄も魅せ方も綺麗な秀作であると思う。
しかし自分にハマらなかったのは、「どうして主人公は狐の像に惹かれたのか?」があまり入ってこなかったから。

無機物や神様に恋愛感情を持つというのは、嗜好の一つとしてあることは理解できる。しかし、「なぜその対象でなければいけないのか?」という理由づけがないと、個人的には納得できかねるのだ。
人対人の恋愛においても重要であるし、ましてや一般的に特殊である嗜好に関しては特に、読者に向けてそう見せるべきだし、何より主人公の動機づけとして大変重要だと思う。
神様との恋愛ものは、SNSなどでよく題材になってきてはいるのだけれど、ありふれてきたからと言って「この人でなければ」という動機を描かない理由にはならないと考えている。

そういう目で見ると、主人公の「神様の隣に立ちたい」という決意を「ひたすら徳を積み続ける」という行動に変えた思いはさぞ強かったのだろうと想像はできるのだが、結局のところ「かっこよかったから」以上の理由が読み取れなかったのが残念だ。

9.漆黒少女と白の憧憬

最後の演出は、言われてみればなるほど予想できたかもしれないと思うが、それにしても圧巻の見開きであった。
漫画としての強みを分かった演出が見事で、目を奪われる。

「色を奪われ、『黒』が害となった白だけの国で、謎の黒髪少女と恋をする」という設定は非常にわくわくさせてくれる。
しかし、そのわくわく感が「設定から来るもの」であったため、その設定に関してあまり回収されないまま終わってしまったのが個人的には不完全燃焼だったように思う。

「『黒』という存在はこの国の最重要課題と言ってもいいはずなのに、黒の少女に対して研究されている様子がない」
「浄化という手段があるということは、『黒』もある程度研究が進んでるんじゃないの?」
「倒せないほど強いから黒龍を封印したはずなのに、あっけなく倒される」とか。

特に、『黒』が人々に生活に害を及ぼしまくっているからかなり重要な課題のはずなのに、その研究をする主人公に「もっと世間に役立つ研究をしてくれ」というシーンがあったり、この世界の設定と「優秀だが変わり者」な主人公の演出がかみ合っていないように思えた。こういうところで引っかかりを覚えると後が入ってこない性格を私がしているので、どうにもすっきりしない感じになってしまうのだ。

主題が恋愛漫画であるということはもちろん理解しているが、世界観が魅力の一つである以上、そこにも解決というか筋の通った論理性を求めてしまった。
ただ、設定の着眼点が良いのは間違いなく、終盤の『色』と『欲』を結び付ける考え方もなるほどと思わされるなど、この作者しか描けない世界がきっとあるのだろうと感じることができた。

10.キメラと体目当ての博士

心ではなく「体目当て」に愛があるという切り口の恋愛漫画。「見た目が好き」という漫画は見たことがある気がするが、そこにキメラという要素を混ぜることで、見た目を愛する必然性が出てきているのが独特だと思う。

ただ、「漆黒少女と白の憧憬」と同じように、「独自の世界観をゼロから作り上げたために、それに関する整合性や風呂敷の畳み方に難がある」という弱点を抱えているように思えた。
そもそも限られたページ数の中で「出会い~成就までの恋愛を描く」ことも容易ではないし、それにプラスして「世界観の説明・描写」「それを絡めたオチのつけ方」などを作らないといけないわけで、恋愛を描くという制約がある中では、やはり難易度は格段に上がるのではないかと思う。

「DNAを取るなどしているが、具体的に研究している様子がない」
「研究が終わったと言っているが、そもそも何の目的で研究していたのか?(研究が終われば検体を処分するだけで、元に戻すとかする様子もない)」
「104もの研究所を破壊してきたというのに、いくらなんでも博士サイドが気づくのが遅すぎる」
「研究所を脱走するだけでなく破壊してきたことへの、本人からの説明が何もない」
など、消化不良な点が多いように思えた。

「漆黒少女と白の憧憬」も同じような問題を抱えていたが、演出なども踏まえるとあちらに軍配が上がる気がするためこの順番になった。しかし、絵柄の柔らかさ、特に毛並みのモフモフ感が伝わってくるような質感の出し方、作者の愛が良く伝わってくる点は好きである

11.自分大好き愛瀬さん

軽快なテンポと愛瀬さんの人間性ですらすらと読ませてくれた。昨今大事にされてきている自己肯定感を、ひたすら誇張してキャラクターにしているのは、漫画らしくてとても好ましい。

しかし、正直なところ「裏切られなかった」というのが残念なところではある。
「自分が大好き」な愛瀬さんと「そんな愛瀬さんが大好き」な主人公が推しを同じくするオタクのように恋愛関係へと進んでいく流れは、最初はなるほどと思わせるものの、そこからの展開にやや物足りなさを感じた。
主人公への恋愛感情を自覚する愛瀬さんの姿も良いのだけれど、悪くないのだけれど、どこか予想の範囲内であって、何か裏切りが欲しかったなあと思ってしまう。


12.市瀬さんのせいで集中できない

2つ目のお色気枠。タイトルだけ見ると主人公の男子高校生が市瀬さんという美人のお姉さんのせいで集中できないように見えるのだが、本当は逆で、市瀬さんの方が男子にドキドキしているという展開。

タイトルがミスリードになっている感じかと思いきや、市瀬さんの裏事情は開始5ページでばらされてしまうので、読者にとってはあまり意外感がない。主人公は長いこと練習してきた積み重ねがあるのだろうけれど、それは読者に伝わってこなかったのが残念なところ。
開始5ページの裏切り以降は特に上下する展開があるわけでもなく、市瀬さんがドキドキしているだけ、というシーンが続く印象になってしまった。

オトナで悪いお姉さんが実はウブ、という設定は正直大好物ではあるのだが、そこに作者ならではのエッセンスと裏切りの展開が欲しいというのが正直なところであった。

【殿堂入り】へっぴり嫁VSものぐさ太郎

レジェンド・漫☆画太郎先生によるいつもの通りの怪作
これは他の十二作品と比べて順位をつけること能わず、泣く泣く殿堂入りとしました。

相変わらず「読みながらご飯が食べられない」ギリギリのラインを突いてくる漫画であるが、まあ正直かなり笑ったし好きである。ページをめくるごとの顔芸には抵抗できず笑うしかなかったし、珍しくハッピーエンドでほのぼのしたと思えばラストのページでまた笑うしかなかった。というか最後のこれがやりたかっただけやろ感が凄い

約60ページのフルカラーで(ここにも狂気を感じる)絵本のような雰囲気を醸し出しているのが何か腹立ちますが、まあ恋愛しているので恋愛漫画なんでしょう(適当)


総評

「同じジャンルの読切を毎日読み比べる」という体験はなかなかしたことがなかったため、新鮮であると同時に、特に恋愛漫画において自分が重要視しているものがわかった気がする。

①主人公・ヒロインのキャラクターを好きになれるか
②それぞれが恋に落ちていく理由に必然性があり、不自然でないか
③その作者にしか出せないと思わせる味があるか
④世界観が独自である場合、その設定やストーリーに齟齬がなく一貫しているか

こうして挙げた要素が順位にも表れており、自分が無意識に大事にしているものがわかったのは大きな収穫だった。さらに言えば、これらは他のジャンルの漫画においても同じように重要であると思う。
②は一見すると恋愛限定ではないかと思えるが、恋愛を「その漫画の目的」と言い換えても良いと思う。「好きな人と結ばれる」が海賊王なり火影なり、あるいはその各章での目的にすり替わるだけの話であるはずだ。

素晴らしい作品・作者に出会えただけでなく、これから自分が漫画を読んでいくにあたって、その価値基準が明確になったので、より作品を読む時間が楽しくなっていくように思える。次はどんな作品と出会えるだろうか。

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