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デフ・レパードはすごい!〜英国が生んだダイアモンド・ヒーローズ〜:オジ&デス対談 第9弾 Vol.3

 Vol.1〜2では、2023年11月の来日公演の話を中心にしてきましたが、今回からはもう少しDef Leppard(デフ・レパード)の音作りについて、その「すごさ」に迫っていきます。ガチのマニアの方には物足りない部分もあるかもしれませんが、デフ・レパードの魅力を少しでも多くの方に知っていただければ嬉しいです。


デフ・レパードのギターは"魔法使い"タイプ

デス:(Vol.2までで話したように)ライブも素晴らしかったんだけど、既に言ったように、その前後に改めてデフ・レパードのアルバムを片っ端から聴いてて、デフ・レパードは音楽的にすごいバンドだなってことを再認識した。
 前回の対談前後にはBon Jovi(ボン・ジョヴィ)を集中的に聴いていたわけだけど、Bon Joviとデフ・レパードはずっとレーベルメイトだし、仲もいいし、一緒にライブやったこともある。あの時代のアメリカ代表とイギリス代表って感じがあるよね。

オジサン:わかります。

デス:で、Bon JoviもMötley Crüe(モトリー・クルー)もデフ・レパードも、ジャンルとしてはハードロック/ヘヴィーメタル(HR/HM)にカテゴライズされるし、一見すると似たような音楽をやってるバンドに見えなくもない。まぁ、確かに似たところもあるんだけど、でも、根本的にはみんなそれぞれに違うことをしてるんだよ。特に、最近デフ・レパードをよく聴いてみたことで、オレが今まで思っていた以上にデフ・レパードにはデフ・レパードしかやっていないことがけっこうあることがわかった。オレと違って、昔からのファンは当然のように認識してることではあると思うけど。

オジサン:たとえば、どういうことです?

デス:それが、前にも言った"音響に凝ってる"っていうことで、それは、特に『Hysteria(ヒステリア)』以降のアルバムに感じることなんだよね。正確には『Pyromania(炎のターゲット)』くらいから、だんだんそういうニュアンスは出始めてたけど、それが極まったのはやっぱり『ヒステリア』かなぁーって感じ。
 あの時代の他のバンドのスタジオ作業と比べても、『ヒステリア』の手間ひまのかけかたはちょっとレベルが違う。しかも、ただひたすらHR/HM的な方向性で凝るのではなく、U2とかThe Police(ポリス)みたいなタイプの凝り方もしているんだよね。タイトルトラックなんかはポリスの〈Every Breath You Take(見つめていたい)〉にちょっと似てるし…

オジサン:あの〜、U2とかポリスみたいな凝り方ってのはどういう凝り方なんですか?

デス:説明が難しいんだけど…

オジサン:そこを頑張ってお願いします。

デス:U2やポリスってのは、もともとはパンクとかニューウェイブの流れから出てきた人たちだよね。

オジサン:はい。

デス:だから、そもそも音楽性のベクトルがHR/HMとは違うんだよね。

オジサン:そうですね。

デス:それで、当然、スタジオでの音の作り方にも違いが出てくる。たとえば、80年代のU2は"空間を生かした音作り"とでも言えばいいのかな…。そういう音作りをしてる。

オジサン:うーん…。じゃあ、逆にHR/HMの音作りの特徴ってのをザックリ言うとどうなるんです?

デス:まぁ、一口にHR/HMといっても当然バンドによるんだけども…、たとえば「ドラムの音がぶっとくてデカい」とか「ベースがブンブンしてる」とか、どっちか言うとゴツい方向に凝ろうとするんだよね。

オジサン:なるほど。

デス:ポリスとかU2みたいなバンドの場合、音響がゴツくなっても仕方がないじゃん?

オジサン:そうですね。

デス:オレもプロでもないから、あんま専門的なことは言えないけど。あと…そもそもHR/HMとパンク・ニューウェイブ系だと楽器のプレイスタイルとかが全然違うわけじゃん。

オジサン:ちょっと話が脇にそれるかもしれないんですけど、デフ・レパードってリードギターが2人いる割には意外とギターがあんまり喧しくないですよね。

デス:そうそうそう!そうなのよ!ちなみにオレが10代の頃にデフ・レパードにあんまハマらなかったのは、ギター少年的にちょっと物足りないと思ったから。

オジサン:ああ!なるほど!

デス:今思えば浅はかだったけど。

オジサン:デフ・レパードも必要なところでちゃんとソロとかも弾いてますけど、無駄に長いソロはないし、やたらテクニックを見せつけるような…「ギターを聴け!」っていう部分が意外と少ないんですよね。

デス:そうなんだよ。
 で、ちょっと話を戻すけど、たとえばU2のサウンドにとって、ジ・エッジのギターの個性って欠かせないものだけど、ただエッジの存在感はHR/HM的な派手さとは別種類のものだよね。

オジサン:そうですね。

デス:デフ・レパードのギターって、バンドのイメージがHR/HMであることと裏腹に、スタジオでの音響に関しては、強いて言うなら、エッジのギターっぽい…。

オジサン:変にギターが主張し過ぎることがなくて、曲の中にうまく溶け込んでる、みたいな感じですかね?

デス:うん。

オジサン:つまり、"空間を生かす"っていうのは、やたらジャキジャキとギター、ベース、ドラムが耳に残る感じでは無くて、もっと曲全体の中にギターがあって、ドラムがあって…っていう感じですかね?個人技よりも協調性重視で、かつ協調の仕方も他のHR/HM系ギターとは一味違う、と。

デス:そうそう。HR/HMでありながら、ズシズシザクザクとメタリックに刻むギターもあんまないんだよね。

オジサン:なんとなくわかってきた気がしますよ。

デス:あとね、「空間系のエフェクター」ってのがあって、…。

オジサン:???空間系のエフェクター???

デス:うん。ギターのエフェクターには「歪み系のエフェクター」とか「空間系のエフェクター」とか何種類かカテゴリーがある。

オジサン:歪み系ですか。

デス:「歪み系」ってのは…、オジサンも聴けばすぐ分かると思うけど、オーバードライブとかディストーションとかみたいな音を歪ませるやつ。歪ませてない状態のギターってのは…ほら、今のここ(BGMとしてかけていたデフ・レパードの〈This Guitar(ディス・ギター)〉なんかは割とクリーンに近いトーンで、そこにディストーションをかけると、「ジュワーン」「ギュィィィーン」ってもっとノイジーなロックらしい音になる。他にもファズとか音の歪ませ方にも色々あるけど。そういう感じ。

オジサン:じゃあ、空間系のエフェクターってのは、どういう感じなんです?

デス:空間系は、たとえばリバーブとかディレイとか。リバーブは音が残響するようなエフェクターで、エコーがかかった感じになる。ディレイってのは…

オジサン:遅れるんですか?

デス:そう、山びこ。

オジサン:「ジャーン」って弾くと、「ジャーン~…ジャーン~…」って山びこるんですか。

デス:そう。で、ジ・エッジはそういう空間系のエフェクターを効果的に使ってるんだよ。効果的かつ割と思いきり使う人っていうか…。

オジサン:ふぅ〜ん。そうなんですねぇ。

デス:エッジに限らず、同世代のニューウェイブ系のバンドにはそういうサウンド作りが割と多いと思う。プログレッシブロックやサイケデリックロックも空間系が多いけど、ニューウェイブのそれとはちょっとニュアンスが異なるかな。

オジサン:じゃあ、HR/HM系はどっちかっていうと歪み系エフェクターがメインって感じですか?

デス:そうだね。空間系も使うけど、どっちかというと歪みが最初に目立つ感じ。色んなエフェクターを使うのはみんな同じでも、どのエフェクターがより目立つかの違いというか。
 ちなみにアンガス・ヤング(AC/DCのギタリスト)はほとんどエフェクター使わないのが特徴。

オジサン:なるほど、なるほど。ボク、少しわかってきましたよ!

デス:まあギターマニアに言わせると「それは違う!単純化しすぎだ!」とか異論もあると思うけど、オレもぶっちゃけ色々忘れてるし、かなりアバウトな話し方をしてます。

オジサン:充分マニアックだと思いますけどねぇ…。

デス:で、エッジのギターって激しく歪んでるイメージはあんまりないでしょう?透明感のあるクリアーな音で、でも、なんか不思議なゆらゆらふわふわ感がある。説明が難しいんだけど…、あ、HR/HM系のギターが戦士タイプだとすると、エッジのギターは魔法使いタイプですよ!とか言ってもわかんないか(笑)。

オジサン:(笑)。ボク、ゲームあんまり知らないですからね。でも、この対談を読んでくれてる人にはわかるかもしれないので、その喩えも入れときましょう。

デス:(笑)。今のはドラクエっぽい喩えです。

オジサン:で、デフ・レパードは、そういうある意味ではHR/HMらしくない音作りをしているってことを改めて認識したってことですよね?

アルバムの裏ジャケを並べてみましたよ

Let there be Drums〜陰の主役、ドラムに注目せよ!〜

デス:さっき、ギターがそこまでうるさくないってことをオジサンが言ってたけど、たとえばデフ・レパードの代表曲とされる曲の中だと、〈Pour Some Sugar on Me(シュガー・オン・ミー)〉とか〈Rocket(ロケット)〉とか〈Let’s Get Rocked(レッツ・ゲット・ロックド)〉とかもそうかな?この辺の曲は、ロックらしいノリのいい曲だよね。ちょっと騒々しくてヘヴィーな感じもするくらい。

オジサン:そうですね。

デス:でも、この3曲ってのは、ヘヴィなイメージの一方でギターが全く弾か
れていないパートっていうのが曲の中でけっこうな割合を占めてるんだよね。

オジサン:確かに。ドラムとヴォーカルだけだったり。クイーンの〈We Will Rock You〉を彷彿とさせますよね。

デス:そう。そこにベースが入ることもあるけど、ギターはあんま弾かれてなかったり。しかも、デフ・レパードのドラムのプレイってのは、割とシンプルなわけだよ。千手観音みたいにやたら手数が多かったりしないで、ミニマルというか。まぁ、それはデフ・レパードの演奏全体に言えることかもしれなけど。ギターもむやみやたらに速弾きとかしないし、ベースもスティーヴ・ハリス(IRON MAIDENのベーシスト)みたいにガンガンガンガン目まぐるしく弾くわけじゃないし。でも、デフ・レパードの楽曲に必要な音はすべて鳴ってるんだよ。ギターが鳴ってないパートなんかがかなりあっても、不思議とかったるい感じにならない。

オジサン:そうですね。物足りない感じにならないですよね。

デス:あれも、リズムにしてもビートにしても、ジョー・エリオットの歌い方もそうだし、ベースやドラムの音質や音量、そういう色んな細かいものを、レコーディングや楽曲制作の時点ですごく計算して練りに練って作ってる。ギター抜きでも、このパートがデフ・レパードらしく成立するにはどうすればいいか、とか考え抜かれてる。でも、ほら、もともとHR/HMってのはギターが花形じゃんね。

オジサン:そうですよね。モトリー・クルーなんかはギターの音がめっちゃ大きいですし。

デス:ギターがウザいほど出しゃばってくるのがHR/HMっていうジャンルな
わけだよ。

オジサン:そうですね。どっちかって言うとギターが鳴ってる時間が一番長いみたいな…。

デス:しかも、特に『ヒステリア』の頃っていえば、ギターヒーロー全盛期なんだよ。その時期に、派手でテクニカルなギターヒーローっぽい路線でも、(アイアン・メイデン的な)流麗なツインリード推しで行くわけでもなく、ちゃんとHRに軸足を置きつつも、そうではない方向で勝負してる。ああいう音の作り方で成功してるバンドって他にあんまりいないと思う。HRバンドでありながら、ひたすらHR的なアプローチをするわけでない。そこが凄さでもあり個性でもある。
 ある時期からのGuns N' Roses(ガンズ&ローゼズ)やBon Jovi、Aerosmith(エアロスミス)みたいに、ブルージーな曲だったりファンキーな曲だったりっていう、ルーツミュージックとミックスする方向で「脱HR」するバンドはいるけど。

オジサン:今のBon Joviはカントリー味もだいぶありますからね。

デス:そうそうそう。でも、デフ・レパードの場合は、HRとそれ以外のジャンルとの融合のさせ方が今挙げたようなバンド達よりさらに独特な気がする。別の音楽ジャンルを演奏方法だけで取り込むだけではなくて、むしろ音響で勝負してるところが珍しいというか。

オジサン:さっきから「音響で」「音響で」って繰り返してるのが、言葉での説明に苦戦してる感じがありますね(笑)。
 さっき、ちょっとドラムの話が出ましたけど、手数が多いプレイじゃないっていう、あれは、物理的な制約もある程度は関係してはいるんでしょうね。
 ご存知ない方のためにあらためて説明すると、ドラマーのリック・アレンは車の事故で左腕を失ってしまって、両足+右手でドラムの演奏をしているので、千手観音みたいにズタタタガシャガシャドコドコドコ!っていうのは、さすがに物理的に不可能になってるというのはありますよね。その制約がデフ・レパードをある種特殊な方向に進ませたっていう側面があるとは思うんですよね。

デス:そうそうそう、多分そうなんだよね。

オジサン:ある種の制約がある中で、どうやって楽曲を作っていくかっていう方向にシフトしたからこそ、『ヒステリア』以降のああいう「デフ・レパードのスタイル」みたいなものが完全に確立された、ってのはあると思うんですよ。もちろん事故がなかったとしても、順調に素晴らしいアルバムを作り続けただろうとも思いますけど。

デス:でも、あれだよね。リックが『炎のターゲット』の後で腕を失って、リハビリして、そのリックがドラムを続けられるように独自のドラムセットを開発して、それでさらにレコーディングに臨んで楽曲を完成させてって…それだけでもすごいよね。その上、割とドラムが目立つ曲が多いんだよ。制約はあるんだけど、妥協している感じは一切ない。制約がある中で独自のサウンドを目指してる。

オジサン:そうですね。限られた条件があるにはあるけれども、その中でベストなサウンドとかそういうものを模索しているんですよね。「ここまでしかできないから、これでいいよね」みたいなものではなくて。だから、それが、独自の形を作ってるんじゃないですかね。

デス:そうそう。で、繰り返しになるけど、やたら手数足数が多い叩き方をしているわけではないのに、ドラムが一番目立っているパートもあるし、全体的にドラムが目立っているんだよね。もちろん、単純にドラム音量をデカくしてるとか、他の楽器の音量が小さくなってるとか、そういう強引な目立ち方でもない。

オジサン:曲の中でビートやリズムが印象的なんですよね。

デス:そうそうそう。〈シュガー・オン・ミー〉はエアロスミスとRUN-DMCのコラボにヒントを得た曲らしいし、メロディだけでなくビートやリズムのセンスも良いんだよ。

オジサン:すごいことですよね。でも、れっどさんには〈ロケット〉のLed Zeppelin(レッド・ツェッペリン)オマージュみたいな間奏部分は「だるい」とか言われちゃうわけですけど(笑)。

デス:まぁ、そこは好みだよね。ただ、あの部分も色んなサウンドコラージュからなってて凝ってるし、アルバム全体を通してもSEの入り方とかすごくよくプロデュースされた作品になってるんだよ。

オジサン:まぁ、れっどさんも昔は歌メロ中心の聴き方だったから退屈だったんでしょうけど、今聴けば違うんじゃないですかね。

デス:ところで、デフ・レパードって言ったら、名前がさ…バンド名のレパード(Leopard)の綴りをLeppardにしたのはLed Zeppelin(レッド・ツェッペリン)へのオマージュって言われてるけど…。

オジサン:そうなんですか?

デス:うん。でも、特に『ヒステリア』辺りからのドラムは、プレイスタイルとしては、(ツェッペリンの)ジョン・ボーナムじゃなくて、どっちかっつーと(The Rolling Stonesの)チャーリー・ワッツかなぁみたいな。

オジサン:"ずんどこドラム"と言われるチャーリー・ワッツですか。

デス:そう。ジョン・ボーナムみたいにやたらと叩きまくる感じじゃなくて、チャーリー・ワッツみたいなミニマルなツボをおさえたビートっていう感じ。でも、このドラムの一音一音が割と豊かな音で…

オジサン:ズシっとしてますよね。

デス:うん、このズシっとしたかんじはレッド・ツェッペリンの影響って感じもする。もちろん80年代にはそういうビッグなドラムサウンドが流行ってもいたんだけど、単に流行ってるから適当にやってるということではなくて、そういうサウンドをデフ・レパードは意識的に効果的に使っている。

オジサン:リックのドラムって電子ドラムですよね?そのせいか、音がズシっと詰まってるけど残響がある感じっていうか。

デス:あとはちょっとメカニカルなサウンドになってるよね。それはドラムだけじゃなくて、アルバム全体のサウンドがなんだけど。もしかしたら、ドラムのサウンドがそうだから、それを生かすためにアルバム制作をしている間に、こういう「近未来的」な音というか、デジタルな感触のHRになっていったのかもしれないね。ジャケ写もサイバーパンクとデヴィッド・クローネンバーグの映像を足したような感じだしさ。

オジサン:ところで、デフ・レパードって…名前がけっこうイキってますよね。

デス:そうだねぇ。

オジサン:ただ、「デフ・レパード!」って名前のイメージと楽曲のイメージが微妙にズレてるような気がしなくもなくて、その辺も誤解されてたりするのかな?って気もしますね。

=Vol.4に続く=

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