権利と自由意思なるもの

 自由や平等といった理念が他の俗信や宗教と異なるのは、それがフィクションであり発明された嘘であることが分かっているにも関わらず、その実在を信じなければいけない点にある。これを信じないとする者は、まず第一に自己の権利を保証する論理的後ろ盾を無くすことになる。いわゆる”大文字の他者”において、この権利なるものは少なくとも未だ疑われてはいない。

 自由意思の存在は否定しうる。問題は、一度それを否定することで連鎖的に個人の責任や罪罰の存在も疑うことに繋がり、近代以降の社会の基盤全体を揺るがしかねないために、公には決して疑われはしないということにある。公然の秘密。

これらの概念に対する信頼が崩れ去るとき、政治的正しさやリベラリズムを基礎づける素朴な思想的後ろ盾は失われ、どれほどのイデオロギー的混乱が生じるのかは殆ど想像もつかない。ローマカトリックが宗教改革によって西欧における信仰の絶対的な立場から退いた時、正義理念の離散がどれほど生じたか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?