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賭博者

2023年12月30日
会社の冬休み初日。冬休みは一月四日まで。今日は友人の忍野(おしの)が主催の横浜の中華街での忘年会が開催される日である。コロナ禍前までは毎年開催されていたのだが、コロナ禍により三年ほど中止になっていた。ちなみにこの忘年会の名称は「みかちゃん」という。
ボーカロイドの「いーあるふぁんくらぶ」の歌詞に出てくる「みかちゃん」に由来しており、ボーカロイドが好きな忍野が名付けた。この曲は神戸の中華街が舞台であるが、さすがに飲み会のために関東圏に住んでいる皆が神戸の中華街まで行くのは現実的ではないので、横浜の中華街となっている。以前までは12月30日頃の夜に開催されていたが、友人らの間で子供を持つ人が増えたため、早めに上がれるようにと午後2時開始となった。

私の家の最寄り駅から横浜の石川町までは三十分少々ではあるが私は正午頃に家を出て、横浜で途中下車をしなくてはならない。何故か。明日の大晦日のコミケの入場券を買うために横浜のアニメイトに行かなければならないからだ。私にとっては七年ぶりの参加となる。
私は行くつもりはなかったが、二週間ほど前に友人の森からLINEで「知り合いがコミケに出店をするのだけど、自分はコミケに行くのは初めてで心細いので同行してもらえないだろうか」と要請を受けたので、夕方に帰省する以外に用事がなかった私は同行することにした。
Twitterで調べてみると私の好きなマンガ家、島本和彦も「ちぃかわ」のパロディ本を出すとのことで、私はこれを買うことにした。

私はコミケに何度か行ったことはあったが、そのときは入場券は必要なかった。コロナ禍になってから入場券が必要になると知ったのは、数日前だった。調べてみると、当日にコミケの会場でも買えるが、前売り券の方が安く、当日の半額ほどになっている。前売り券を扱っている店を調べると横浜のアニメイトで売っているようだ。
それならちょうど今日、中華街に行くので途中で買っていこうと思った次第である。

しかし、コミケのチケットを買う前にやらなければならないことがある。何か。競輪の車券を買うことだ。
私が先の有馬記念で枠連で取れたことは前回の日記に書いたとおりである。そのことを会社の先輩の菅野に話すと、彼は立川競輪場で重賞があることを教えてくれた。菅野はギャンブルが好きで、競馬も競輪もやる。以前は競艇もやっていたらしいが、今は自宅から近い立川の競輪場に足を運んで車券を買うことが多いらしく、時折、仕事の合間に自分が買った車券とレースの映像を私に見せてくれた。先日は「20万(円)くらい取れたよ」と当たった車券を見せてくれた。
その菅野が「30日にデカいレースがあるんだよ」と教えてくれたのが、この日の立川競輪の11レースのG1だ。菅野曰く、そのレースは今年のレースで活躍した選手が集まるらしく、プロ野球で言えばオールスターゲームのようなものであり、競馬で言えば有馬記念で、強豪揃いらしい。
その中でも特に9番を走る「脇本、こいつが来るよ」とのことだった。聴くと、脇本は実績は充分ではあるが懸念事項があり、それは夏頃に大怪我をして、今回がその復帰戦ということだった。実績があるとは言え、復帰戦でいきなり勝てるのだろうか。しかし菅野が見せてくれた競輪新聞の予想では、上位に入る予想がされていた。
それならちょっと買ってみるか。私は競輪をやったことがなかったが、菅野と競輪新聞の予想を信じ、競輪のオフィシャルサイトから、11Rの脇本を軸に五組の車券を買った。一組につき二百円、それを五組で千円だ。
また、これとは別のレースの車券を3連単で一つだけ、百円のみ買った。有馬記念のときと同じように、選手のこれまでの実績と、オッズを元に予想したのだが、当てる自信はなかった。大きな目的は、車券の買い方とレースがどういうものかをチェックするためである。
競輪のホームページからはレースの様子が無料で観られるので、自分が買ったレースのみ観てみることにした。
五分後。私の予想はビギナーズラックとはいかず、ハズれだった。しかしどういうものかは理解した。11レースの出走時間はちょうど、みかちゃんと重なるので、(スマホから見ることは可能ではあるが)レースは観られない。とりあえず私は車券をネットで買ってから横浜へ向かった。

横浜駅から徒歩五分ほどのビブレの八階にあるアニメイトへ行き、十人以上が並んでいるレジの列に並んだ。私の前に並ぶ殆どが若い女性で、私のようなおっさんは場違いのようだった。しかし何も気にしていないように見せながらレジの店員にコミケのチケットを購入したい旨を告げると、なんと売り切れとのことだった。全く予想していなかったのでがっくり来たが仕方がない。代わりに、というわけではないが、アニメイトと同じフロアにブックオフがあったのでそこでブラブラしていると、「ラブクラフト全集1」という文庫本が目に入ったのでそれを買った。ラブクラフトは森見登美彦や私の友人知人でも好きな人がいたので、これがそうなのか、と興味があった。

ブックオフを出た私は中華街へと赴き、店で友人らと合流した。子連れの友人が二人いたのだが、その子らを合わせると十四人と言う大所帯だった。久しぶりに会うメンツも多く楽しい会となったのだが、私はそのときでも気になることがあった。競輪の結果である。

有馬記念のときは払戻金が自分の口座に自動的に入り、その通知がメールで来たのだが、レースが終了したはずの時間になっても一向にメールが来ない。競馬と競輪ではシステムが違うためメールが来ないのかもしれない。
まさか、あんなに期待していた脇本が来なかったのだろうか。やはり、いきなりの大レースは厳しかったのではなかろうか。
私は忘年会及びその二次会でトイレに行く度にそのことが気になっていた。

午後11時頃。帰宅した私はパソコンの前に座り、スーパーで買ったアイスを熱い緑茶と一緒に食べつつ競輪の結果を確認した。
果たしてー。
脇本は九人中、八位だった。そして私は脇本と一緒に、有力視されていた一番の古性(こしょう)をメインに買っていたのだが、古性は四位。
私の買った五組の組み合わせは全てかすりもしなかった。
脇本おおお! そして菅野おおお! 全然来なかったじゃねーか!
私は休み明けに菅野に文句を言おうと心に決めた。



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