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ハロウィン、東京、30年後。

 遂に昨年は死者数が1000人を超え、渋谷、新宿、港区はほぼ壊滅状態となった。世界から”年に一度、東京が死ぬ日”と呼ばれているXデー。そしてそれはあと三時間後に迫っている。 

 平成後期から発祥国の文脈を全く無視した形で日本で流行したハロウィン。そういえば、この頃から行き過ぎた若者は問題視されていた。それから30年あまり経った現在、ハロウィンは顔を隠すために仮装をした暴徒が、富や財を持てる者を襲撃するイベントへと成り果てていた。きっかけは、暴徒化した若者に命の危険を感じた警官が彼らに発砲し、初の死者が出た20年前に遡る。それ以降、毎年10/31には仮装をした若者が暴徒と化し、高級住宅街や繁華街、中央省庁を標的にし、暴れ狂っていた。 

 当然、国も手をこまねいていたわけではない。暴徒鎮圧後、中国の”天網”を元にした人工知能による集中管理型の監視カメラシステムを都内一帯に張り巡らし、犯人の特定に総力を挙げた。それにより、一時逮捕者が続出し、暴徒は激減した。が、その5年後のハロウィンの日、世界的サイバーテロ組織が、”天網”に捕捉されない「天盲」と呼ばれるチップを開発、公開。これを埋め込み、仮装して完全に身体を隠した状態になると、特定される確率は、天網がそれに対応できるまでのおよそ24時間前後の間に限り、1%以下になるという…。この説明に狂喜乱舞した群衆はこれがアップデートされ、公開される10/31の間、再び暴徒と化すことになった。その結果、大多数の住民は泣き寝入りするしかなくなってしまった。 

 だがその翌年、困憊していた住民一人一人に送られてきた”あるもの”が戦況を一変させる。 国を頼りにできないことを嘆いたある資産家の老人が作ったらしいそれは、一見ただの銃と弾丸なのだが、弾丸にはどうやら1%のカカオが含まれているらしい...。悪戯者にお菓子を報復するという”Trick or Treat”を嘲ったようなその銃に住民たちは救いを求め、国は正当防衛の権利 を与えた。そして当然ながら、死者数はこの年から桁違いに増えていった。絵に描いたようないたちごっこだ。死者数が千人を超えた昨年はついに都庁が半壊し、 スクランブル交差点では爆発事件が起こり、テレビ局はジャックされた。 

 そして一年が経った。もうすぐ、さらなる地獄を見ることになる住民たちはいま、戦々恐々としながら家にこもって銃を手入れしている。そして数分後こんなメッセージが届き、彼らは鼓舞されるのだ。 

「殺されたくなかったら、ギフトを持て。Trick or Treat...今年も戦争が始まる。」

ーーーー15年間、使い慣れた万年筆でこう手記を記した老人は、住民たちへ用意していたメッセージを退屈そうに送信した。そして一瞬ニヤリと口を綻ばせたのち、メッセージを送信したその手で秘書に内線をかけ、満足そうに葉巻を燻らせた。灰皿の中では彼の大好きなチョコレートの包み紙が静かに赤く揺れている。

Trick or Treat...今年も戦争が始まる。

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