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現代音楽の演奏会を観た

現代音楽の演奏会を観てきました。「秘儀」という管楽合奏の組曲(この言葉が適切かわからない)の演奏会です。普通はコンサートで1個だけやってお腹いっぱいになる曲を9曲全部演奏し、しかもそのうちの1曲は世界初演であるという凄まじい会です。
わたしは吹奏楽にも現代音楽にも明るくなくて、なんとなく面白そうだからという理由で聴きに行くことにしたのですが、思った通りというか、思った以上に面白かったです。

失敗した点が二つありました。一つ目は座席を適当に取ったらめちゃめちゃ前の方の席で、関係者みたいに見える位置になって恥ずかしかったことです。舞台の全景もちょっと見えにくかったです。ただ管楽器奏者の人の手元をガン見することができたり、今は譜面をタブレットに表示することがあるんだ!(違うかもしれない)ということに気づいたりできたので、これはこれでよかったかもしれません。もう一つは、スマホの電源を確実にオフにしていたのですが、社用の携帯をポケットに入れっぱなしにしていてそっちの電源を切っていなかったことに、最後の第IX楽章(世界初演)の演奏が始まる直前に気づいたことです。社用の携帯なので休日に鳴ることはなく結果何事もなかったのですが、鳴っていたらと想像するだけで恐ろしいことです。これはかなり反省しています。

記憶が混濁していて第何楽章での出来事だったのかわからなくなっているのですが、印象に残っている点が7つほどありました。

一つ目は全体的な話ですが、トランス感が恐ろしくかつ心地よかったなということです。かなり呪術的なハーモニーと、聴衆と奏者の心をじわじわと昂らせるような音の強弱っぷりを聴いて、普段聴いている西洋の音楽と全く異なる種類のトランス感を覚えました。脳のこれまで使っていなかった、なんだけどもどこかで使ったことがありそうな、そんな部位に弱火で熱が加えられて、気がつくと日が強火になっていてその部分が沸騰するかのような、そんな感覚を覚えました。東京都武蔵野市でこれを聴いていたからよかったものの、東アジアのよくわからん集落で聞いていたらたぶん無事に帰ることはなかったのではないかというような恐ろしい、そして心地よい感覚でした。

二つ目は日本の伝統音楽とのシンパシーを感じたことです。第II楽章だったと思うのですが、木管楽器や金管楽器で奏でられているフレーズが、まるで日本の古典的尺八の楽曲を演奏しているように思えるものがありました。わたしは尺八を演奏したことがある人間なのですが、まさか吹奏楽の舞台でそのことを思い出すと思わず、驚きました。作曲者の方が東アジアの音楽を取り入れているということをパンフレットに書かれていたので、意図的にそうしている要素もあるのだろうと思います。西洋の楽器でここまで日本の古典的な楽曲のような音が出せるということに新鮮な驚きがありました。

三つ目は印象的なティンパニーの一撃です。楽曲の最後にティンパニーをドンと叩いて奏者が気を失うような感じで倒れ込む場面があったと思うのですが、あの一発にこれまで聞いたどの音とも違う、呪術的な響きというか、全聴衆の魂が数センチずつずれるような響きでした。こんなにも印象的な1音を出すことができるんだ、と思いまして、打楽器の深遠を感じました。

・四つ目は「どっからこの音鳴ってるの?」と思わせる謎の音作りがあったことです。途中で明らかに鳥の囀りのような音が聞こえたり、「シンセサイザー使ってる???」と思うようなSFチックな音が聞こえたり、「わたしの知っている吹奏楽の音じゃないぞ??」という音がたくさん聞こえてきました。わたしは楽器の演奏ができるバンブラPというゲームを遊んでいます。このゲームでは狂ったマッドサイエンティストみたいな作曲者たちが、今まで誰も出したことがないような音を出してかず多くのプレイヤーを驚かせているのですが、その音に遭遇した時と同じ体験を吹奏楽の舞台で得られるとは思っていませんでした。

五つ目は秩序と無秩序のバランスが面白いなということです。たしか第IV楽章だったと思うのですが、規律的にスネアドラムが一定のリズムを刻んでいて、その中で他の楽器たちがうねりにうねりまくった訳のわからないフレーズを奏で、やがてスネアドラムの規律がうねりに飲み込まれていく……というような曲だったと思っています。
秩序があった方が無秩序が際立ちます。秩序の中でやる無秩序はとても秩序だっているし、無秩序の中でやる秩序は極めて無秩序です。全員が無秩序をやる方がよっぽど簡単なところで、秩序と無秩序が同居している感じがとても面白いなと思いました。おそらくこういう種類の秩序と無秩序の混在は、音楽でしかできないんじゃないかなという気がします。文章では無理ですし、絵でも無理で、多分映像でギリギリできるかできないかくらいじゃないかと思います。

六つ目は第VIII楽章のティンパニーとんでもなかったなということです。これはすみませんが「とんでもねえ」としか言葉が出ないです。パンフレットにティンパニーが活躍すると書いてあったのですが、その通りすぎて凄すぎて笑えてくるほどでした。

ティンパニの活躍の後、コーダ。

七つ目に、これはまた全体的な話ですが、これだけの訳のわからないものをやり遂げることがすごいと思いました。2-3時間ほどの演奏会で、難易度も分量もとんでもないものを1日でやり遂げるというのはとんでもないことです。作曲者の方が「9種のインドカレーを立て続けに食べるようなもの」とおっしゃっていましたが、吹奏楽を知らない身分からするとかぐや姫のお題を九つ持ってきて全部焼いて食うぐらいの感じだと思いました。関係者の並々ならぬ熱量を曲目の全てから感じて、強いエネルギーをもらったように思います。

以上、吹奏楽にも現代音楽にも造詣が深くないのでだいぶ的外れだったり自明すぎたりかもしれないですが、感じたことを書いてみました。もう一度同じことをやってくれというのは酷な話なので、多分もう今後聞けることはないのですが、だからこその美しさというものがあると思います。聴きに行けてよかったなと思うばかりです。

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