見出し画像

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

夢にしてはハッキリとした声を聞いて男はゆっくりと目を開く。時計は見ていないがおそらく深夜の3時くらい。男の寝室に、見知らぬ老爺が立っている。老爺はこちらをまっすぐ見つめながら、もう一度男に問う。

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

なぜこの老爺が自室にいるのか。なぜこのような質問をしてくるのか。突然のことで頭が混乱して身体がうまく動かない。

「あの、ど、どなたですか?」

男がやっとの思いで言葉を絞り出すと、老爺は表情ひとつ変えず、

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

と再び問うてきた。おそらく何を聞いても、無駄であることを悟った。この質問に答える以外に、この老爺をどうにかする方法はないのだろう。

男は記憶を手繰り寄せた。30年あまり恋人はいないが、性欲だけは人一倍あった男は、毎日何かしらをおかずに自慰行為をしている。それはときにアダルトビデオであり、ときに漫画であり、ときに無断転載されているエロ画像をまとめたブログであった。男はボーカロイドにさほど興味を持たず生きてきた。だから、能動的にボーカロイドで抜こうと思ったことはおそらくない。しかし、エロ画像のまとめのようなブログや、Pixivのオススメイラストを経由して、抜いていないとも言い切れなかった。正直に回答するなら、「わからない」が正解だ。だが、その正直な回答で、この老爺が満足するかわからない。「抜いていない」と答えると、「なぜ抜いていないのか」と激昂した老爺に殺されるかもしれない。「抜いた」と答えると、「神聖なボーカロイドを汚すな」と激昂した老爺に殺されるかもしれない。「わからない」と答えると、本当に抜いていたときに「お前は愛を持って抜いていないのか」と激昂した老爺に殺されるかもしれない。

どれを答えても殺されるかもしれないなら、せめて正直に答えた方がいい、男はそう考えた。

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

考えが決まった頃、老爺はまた同じ質問をした。男は唾を飲み、「わからない」と答えた。

老爺は「そうか。」と一言口にすると、そのまま歩いて男の寝室を出ていった。あまりにもあっけなく終わったことによる衝撃で、男はさらに混乱した。追いかけるか通報するか迷っているうちに、男は強烈な眠気に襲われて、気がつくと眠っていた。

夢だ。今自分が夢の中にいるとハッキリと確信している状態だ。何やらアイドルのライブの客席にいるようだ。3Dでモデリングされたキャラクターが舞台上に現れると、周囲の観客たちがどよめく。真っ赤な衣装にロングヘアの髪型をした、お姉さん的なキャラクターだった。音楽がかかり、キャラクターが踊り始めた。歌声は妙に機械がかっていた。これはボーカロイドだ、そう男は確信した。それゆえになんとなく、この明晰夢は老爺が見せているものではないか?と思うようになった。だとすれば、この明晰夢を見せることによって、自分を試そうとしているのかもしれない。

キャラクターの動きは妙に扇情的で、エロチシズムを感じようと思えば感じることができた。しかし、アイドルライブの客席で、男性器を丸出しにして自慰行為をするわけにはいかない。男が理性を持ってパフォーマンスを見るのに集中していると、周囲からグチュグチュという異様な音が聞こえるのに気がついた。周りを見回すと、客席にいる男たちが皆一様にパンツを下ろし、舞台上のキャラクターを見ながら男性器をしごいていたのである。あまりにも異様な光景を見て、男の身体が硬直した。ちょうど隣の観客の男性器から白い液体が勢いよく噴出されたところで、男は目を覚ました。

起床後、夢に出てきたキャラクターが誰だったのかを調べた。「ボーカロイド 赤」で検索するとすぐに、MEIKOというキャラクターに行き着いた。衣装の感じから、このキャラクターでおそらく間違いないだろう。しかし、夢で見るまで一度も見たことのないキャラクターであった。夢は深層心理にあるものが出てくるから、一度も見たことないものは出てこないのが普通だ。だとすると、なおさらこれは老爺が見せた夢なのかもしれない。しかし、なぜそんなことを……?

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

次の日の晩も、老爺は訪れた。男は昨日より強気に、「誰なんだ」「警察を呼ぶぞ」と問いかけたが、老爺の様子は昨日と全く変わらず、同じ質問を繰り返すだけだった。

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」
「わからない」
「そうか。」

昨日と同じやりとりをして、老爺はまた部屋を出ていった。男はまた強い眠気に襲われ、眠りについた。

夢だ。今自分が夢の中にいるとハッキリと確信している状態だ。昨日と同様、アイドルのライブの客席にいるようだ。昨日と唯一違うのは、出てきたのが少年だったということだ。オレンジと黄色の中間のような髪色をした、溌剌はつらつという感じの少年だ。彼は歌いながら踊っていた。昨日のMEIKOのような扇情的な動きはしていない。これなら昨日と同じことにはなるまい、と思い、男はパフォーマンスに見入っていた。しかし、数分ののち、客席からはまたグチュグチュという不穏な音が聞こえた。周りを見回すと、昨日のMEIKOのときのように、無数の観客たちが男性器をしごいていたのである。こいつらは、少年の溌剌としたパフォーマンスを性の対象と捉えているのか?また隣の観客が射精したところで、男は目を覚ました。そして強烈な吐き気に襲われ、トイレに駆け込んでいった。

吐き気の正体はなんだったんだろうか。昨日と見たものは一緒だった。ライブパフォーマンスをするボーカロイド、そしてそれを見て射精する観客。しかし、MEIKOのときにはない、強い嫌悪感を男は覚えた。

男は再び夢に出てきたキャラクターのことを調べた。「鏡音レン」という子だそうだ。「鏡音リン」という女の子とセットで出てくることが多いようだ。だとすると老爺はなぜ、レンだけを夢に出したのだろうか。

次の日の晩も、老爺は訪れた。起きていて老爺が部屋に入ってくる決定的な瞬間を押さえようかと思ったが、強烈な睡魔でそれもできなかった。

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」
「わからない」
「そうか。」

また同じやりとりをした。老爺は部屋を去り、男は眠りについた。

夢だ。今自分が夢の中にいるとハッキリと確信している状態だ。昨日と同様、アイドルのライブの客席にいるようだ。昨日と違うのは、観客席に誰もいないことだ。男が不思議に思って周りを見回すと、ステージ上にキャラクターが現れた。初音ミクだ。

男は唯一、初音ミクだけは知っていた。特徴的な色と長さの髪、すらりとした出立ち、そしてなぜか手に持っているネギ。そんな自分にとってはスターである初音ミクが、自分だけのために姿を現してくれたのだ。初音ミクは昨日までのキャラクターと同様に歌って踊り始めた。彼女の踊りは、いつになく扇情的なものだった。露出の多い服を着ているわけではない。しかし、ボディラインのハッキリとした服を着て踊る様は、男を妙に興奮させた。よく、「AV女優の裸よりクラスメイトのパンチラの方が興奮する」という言説がある。男にとって初音ミクは知っているキャラクターだから、その補正があるのかもしれない。そして、男はこの老爺が毎晩現れてからというもの射精をしていなかった。それゆえに、男の睾丸は劣情でパンパンになっていたのである。

男は、観客たちが昨日までしていたように、パンツをゆっくりと下ろした。そして、踊り狂うミクを見ながら、男性器に刺激を加え始めた。この自慰は老爺が見ているような気がして、不思議な背徳感がある。ミクの歌がサビに入ると、男の興奮は最高潮に達する。

男が目を覚ますと、パンツの中がぐっしょりとしていた。これが自慰による射精なのか、夢精なのかはわからない。だが、男にとってはこれが初めて「ボーカロイドで抜いた」と断言できる瞬間であった。

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

次の日の晩も、老爺が現れた。男は、待っていたとばかりに目を開いた。

「じいさん、昨夜ゆうべはありがとう」

男は立ち上がり、老爺に握手を求めた。

「あんなにいい射精は初めてだった。俺がこれまでしてきたのなんて、子どものお遊びみたいなものだったのかもしれない。本当にありがとう。」

老爺の目を見て、男は礼を言った。心からの本心だった。

「お前はボーカロイドで抜いたことがあるのか」

しかし、老爺は男の手を取らない。表情ひとつ変えることなく、昨日までと質問を繰り返すだけだ。つれない人だ、と思い、男は自信を持って答えることにした。正直な回答をすれば、老爺は帰るはず。そして、抜いたという事実がわかれば今日を最後に来ないかもしれない。

「はい。抜きました。」

男が答えると、時間が止まったかのような静寂が訪れる。老爺はしばし硬直した。そして身体を小刻みに震わせ始めた。

「嘘をつくな!!!!!」

老爺は激昂してそう叫び、懐からサバイバルナイフを取り出した。突然のことに驚き、男は床に倒れ込んだ。

「えっ!?そんな、いや、嘘じゃないです、たしかに、たしかにぼくは……」
「お前のこれまでのおかずはすべて知っているが、その中にボーカロイドはなかった。昨日までのお前は正直に語っていたのに、どうして嘘をついた!嘘つきは殺さなければならない。」
「ま、待ってくれ……ぼくはたしかに昨日初音ミクで……」

「お前が昨日夢で見たのは初音ミクではない。あのキャラクターの胸はもられすぎていたのだ。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミクの胸を盛るな。初音ミ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?