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力は入れるより抜く方が難しい

わたしは体がゆがんでいるので整骨院に通っています。そこではプロレスの技のような施術を受けるのですが、体に力が入っていると指摘を受けることがあります。体に力が入っていると施術がうまくいかず、しかも痛いということで、いいことなしなのですが、本人としては全く力をかけているつもりはなく、どうしていいのかわからないことがあります。しかも、意識すればするほど、その部分が気になってきて、余計に力が入ってしまうような気すらしてきます。どうしていいかわからないでいると、整体師の方は体のどこかをトントンと叩いてきます。気が付くとふっと何かの力が抜けるのです。そのたびに、無意識のうちに何らかの力が入っていたことに気づいて愕然とします。

ピアノを習っています。ピアノを習っていることについてはいずれ書こう書こうと思ってなかなか書けていないのですが、日々非常に楽しく鍛錬をしています。いろいろな癖を指摘される中で、「腕に力が入っている」と言われることがあります。わたしとしては全く力を込めているつもりはないのですが、先生に言われたことをやってから再度鍵盤に向かうと、腕が軽くなったような感覚になります。いったい何の魔法なんだ……と思いながら、家に帰るとどうすれば力が抜けたのか忘れてしまいます(どう考えても忘れたらダメですが)

自分の感覚がおかしいのかもしれないのですが、このように、「力が入っている」ということに気づくのは難しく、さらにそこから「力を抜く」ためには特別な知識が必要であるという風に思います。きっと今椅子に座って文章を書いているときも、体の余分な箇所に力が入っていて、無駄なエネルギーを使って無駄に疲れているのでしょう。こうした余分な力が働くのは、体の部位だけではなく、思考についてもそうなのかもしれません。

先日、人事からの指令で、新入社員研修のお手伝いをする先輩社員枠に選ばれました。具体的には、研修の一環で、自由な発想で新人たちが考えたアイデアに対して、先輩目線というか、多少現場を知っている人の目線で品評をする、という役どころに任命されたのです。とても光栄なことです。自分よりも年下の人が考えたアイデアなので当然粗削りなところがあり、ツッコミどころはあります。いいところも見つけつつ、半分褒めて半分改善点を言う、というところを意識して行ったのですが、これが本当に難しかったです。目線が近い、ということもあるせいか、改善点として挙げたポイントが、「自分たちが内心でうすうす感じつつも目を背けていた点だった」とか「本質を貫いていて一番言われたくない点だった」というものになってしまい、明らかにわたしのコメントを受けた新人さんたちが悲しそうな顔をしていました。これには強い罪悪感を覚えました。まるで、人間の赤ちゃんを拾ったオークが、強く抱きしめているうちに赤ちゃんを殺してしまったときのような罪悪感でした。自分が新人の時に同じ研修を受けたとして、同様のクオリティのものが出せたかというと絶対にそんなことはないと思えるほどいい内容でしたし、確実にいいポイントをしっかり褒めたつもりでした。しかし、マイナスが大きすぎて前半部分の褒めも嘘くさく聞こえ、悪い印象しか残らなくなってしまったようでした。砂糖入りのコーヒーを提供したつもりが、砂糖入りのコールタールを飲ませてしまったようなものだったのではないか、と思います。褒めと指摘は、バランスが重要なのでしょう。

おそらく、ある程度経験を積んでくると、「1年目の社員ってこの程度ですよね」ということがわかっていたり、「彼らの成長につなげるにはまずはこういう点を改善してもらって、次の段階では……」とか、そういうアドバイスができるのだと思います。事実、上司ポジションの人がした品評に対しては、新人さんたちはそんなにへこんでいませんでした。わたしの場合は自分のことしか見えておらず、100%のコメントしかできなかったのです。それも、本来力を籠めるべきとは違うところに力が入っているせいで、ピントがずれていて、ムダに強いダメージを与えてしまうものになっているのだと思います。

かといって、じゃあ、10%のコメントをすればよかったのかというとそういうわけでもなく、おそらく、そういう手の抜き方をすると研修の講師にも、そして新入社員たちにもきっとバレていたことでしょう。芯のある音を鳴らしつつも音量の小さい音を鳴らすことができるように、芯のあるまっとうなコメントをしつつも、相手のレベル感に合って、やる気を的確に高めることができるコメントもできるのだと思います。

整体師やピアノの先生のような、余分な力を抜くコツを教えてくれる魔術師がいれば、と思うのですが、仕事においてはそんな術を持っている人にまだ出会えていません。ただ、そういう人と出会う必要があるのだ、もしくは、そういう技を覚える必要があるのだ、と常に肝に銘じておくことが、パワハラ上司にならない第一歩なのかもしれません。ニンゲン、ワカラナイ……オソロシイ……

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