同じことは、もうできない
ご覧くださいまして、誠にありがとうございます。
8年ほど前に、仕事で無理が祟り体調を大きく崩してしまうという経験をしました。結果的に半年以上、休職していました。
体調がある程度快方に向かい、一人で動くことが出来るようになった段階で、主治医の先生が「家にずっといるのも精神衛生上よろしくないので、無理のない範囲で意識して、外に出かけてみましょう」とアドバイスを下さいました。
おそらく、このアドバイスの真意は「スーパーに買い物へ行くなど、1時間程度の外出を意識して行いましょう」ということだったのでしょう。しかし私は、何を勘違いしたのか「旅行しましょう」といった意味で理解しました。
さて、どこに行きましょうかと時刻表を開き、あれこれチェックしていき、ニヤニヤしていた記憶があります。これだけのバイタリティがあるなら、旅行に行くとかせずに、その段階で復職しても問題なかった気が、今はしますが。
結果的に、下記のようなプランを作成いたしました。目的地は日本最北端の宗谷岬。6泊7日の壮大な旅行です。
☆1日目:自宅最寄り駅→阪神大阪梅田→大阪→米原→敦賀→金沢→富山→直江津→新潟【新潟駅近くのホテルに宿泊】
☆2日目:新潟→村上→酒田→秋田→大館→弘前→青森→蟹田→木古内→函館【函館駅近くのホテルに宿泊】
☆3日目:函館→長万部→小樽→札幌→滝川→旭川【旭川駅近くのホテルに宿泊】
☆4日目:旭川→稚内→【宗谷岬観光】→旭川【3日目と同じホテルに宿泊】
☆5日目:旭川→江別→小樽→長万部→函館【2日目と同じホテルに宿泊】
☆6日目:函館→木古内→蟹田→青森→東能代→酒田→新発田→新潟【1日目と同じホテルに宿泊】
☆7日目:新潟→直江津→富山→金沢→福井→敦賀→大阪→阪神大阪梅田→自宅最寄り駅【帰宅】
※記憶が明確でない箇所もございますが、記載してある駅で乗り換えたはずです。また蟹田⇔木古内を除き、全て普通列車を利用いたしました。
さて、行程を完成させたものの、病み上がりの人間が上記のようなプランに沿って、無事にたどり着けるのか。自身の中でかなり悩みました。途中で倒れるのではないかとも思いましたが、とにかく病が原因で数ヶ月、強制的に引きこもっていた状態でしたので、「鉄道で日本をめぐりたい!」という思いが勝り、実行しました。
もちろん疲れましたし、楽しかったですし、車窓からの風景も堪能いたしました。しかし上記の旅行で、今でも明確に覚えていることは、稚内駅近くを散策していた際に聞こえた、老夫婦の会話でした。会話全文が聞こえていたわけではないですが、ある一言が明確に脳に刻まれました。
「同じことは、もうできない」
この言葉は、様々な意味に解釈できますが、私は3つに大別できると考えております。(あくまでも私見です。)
①年齢的に、同じことはできない
明日の自分は、今日の自分よりも確実に、年をとっていきます。年齢的に、すなわち体力的に、今と同じことが出来なくなる日が必ずやってくる。そう考えると、どんなことであっても「やるか否か迷っているなら、やった方がいい」と考えることが出来るようになりました。
②同じ日はない
今日とまったく同じことを、明日忠実に再現したとしても、それは今日と同じにはなりません。再現性を保つことに気を配るのではなく、むしろアレンジを加えるなどして、自分なりのものを築いていくことこそが大切なのだと、改めて思えました。実は当時、会社で退職者が相次ぎ、その方々の業務引き継ぎに翻弄されていた時期がありました。「同じようにせねば」・「失敗は許されない」と常に考えすぎていたことも、体調を崩す一因となっていたと思います。
旅行から帰ってきた段階での私は、この①と②という2つの大きな学びを得たため、旅行して本当に良かったなと思えました。この旅行によって、主にメンタル面での回復が顕著になり、予定よりも1ヶ月ほど前倒しで復職できました。
しかし、大きな学びは2つだけではございませんでした。もう1つあったことに、私は2年後気づくことになります。
③環境は変わってしまう
鉄道に詳しい方なら、上記の旅行は2021年現在、もう出来ないと理解出来るのではないでしょうか。すなわち各種新幹線の開業により、今はJRから第三セクターになってしまった路線、そもそも新幹線しか走らなくなってしまった区間。②で申し上げた「再現性」が、外部環境の変化により完全に失われしまったのです。ただし、それを嘆いていても何も始まらない。②で強調しました「アレンジを加える」ためにも、まずは自分の心が、変化への対応に柔軟になることが肝要なのだと理解しました。
鉄道好きとして、新幹線の開業は喜ばしいものですが、同時に並行する在来線が見放されるということは、仕方のないこととはいえ寂しさを感じます。
しかし、この3つの学びは、私のスタンスを大きく変えました。環境が絶えず変化していく現代において、「前と同じこと」を忠実に踏襲することは、実はさほど重要ではないのです。いかに変化へ対応し、自分なりの結論を出すか。そしてそれが失敗に終わったとしても、「次はどうするか」を常に考えていくことが、現代社会を生きていくコツなのだと思えるようになったのです。そして①で述べたように、迷っているならやる方が良いとも思えるようになりました。
「同じことは、もうできない」
この言葉だけを見れば、ネガティブな言葉に聞こえるかもしれません。
しかし、この一言で自分の「考え方(シンキング)」を一変させることが出来たのは、紛れもない事実です。
あの老夫婦に再会することは、おそらく不可能だと思います。そのため、この場で記して、多大なる謝意を申し上げます。
生き方を変えることが出来ました。本当にありがとうございました。
ご覧くださいまして、誠にありがとうございました。