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何にも似てない

10/13



友人とカレー屋さんに行く。さっぱりしたスープカレーで好きになる。食後にお茶もする。
普通にお出かけ出来る喜び!

10/14


香水屋さんで貰ったムエットをリュックの中に入れておいたら、おやつのみかんにも香りがつく。ずいぶんとセクシーなみかんだなと思いながら食べる。

お化粧をする時鏡をジッと見る。特徴があるのかないのか、捉え所のない顔をしている。みんなに似ているようで何にも似ていない。自分の顔が好きだ。

10/15
ついに指先がみかん色になってくる。
私の目の届かないところから、既にみかんになり始めているかもしれない。
朝起きて布団が濡れている。おねしょをしたと慌てるが、なにか変だ。においをかいだらみかんのにおいがする。体の一部がみかんの果肉になっている。布団は私がすっぽりおさまる大きさのみかんの皮だ。皮膚をかりかりと削られる感触がする。私の皮膚に張り付いている白い筋を取ろうとする巨大な指。大きさが違いすぎてわかりづらいが、夫の指に似ている。白い筋を取るときに引っ掻きすぎて出血のように汁がふき出したのだろう。それをおねしょと間違えたのだ。食べないで!声を出して抵抗するが上手く喋れない。口もみかんの果肉になっている。しまった、口がみかんになってしまったら私はもうみかんを食べられない・・・。大人しくジッとしていよう。そうすれば痛い思いをせずに食べてもらえるはずだ・・・膝を抱えて丸くなる。その時私は完全にみかんになった。

みかんになった人間か、人間だったみかんか。
そんな場違いな観念遊びが浮かんだ。異常な事態に耐えるための防衛機序だろうか。
しかしそれも長くは続かなかった。
抱え込んだ膝の皮膚の繊維は蜜柑の白い薄皮にかわっていく。
朝に猫に引っかかれた傷からは薄オレンジ色の液が滲んでいる。
声はもう出ない。舌がみかんになっている。
唇を噛む。
甘い、みかんの味がした。

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