死者の枕

九月十七日


猫が枕におしっこをする。
私が頭を離した隙に枕の上で寝ているほど大好きなのに何故?縄張り争いなのか?
私が寝ているあいだにおしっこをしたようだ。私の頭に枕を取られたと思ったのだろうか。しかし私の頭は何年もこの枕に載せられていた。しかも猫が枕の上で寝ようとすると頭を端っこに移動させていた。我が家は猫ファーストなのだ。つまり枕は猫の縄張りということになる。私は猫の枕をかりていたのだ。

それでは、何かの抗議活動なのだろうか。
座り込み、ハンスト、演説を垂れ流すなどの活動をしてきたが効果はないと判断し、実力行使に打って出たのか。
だとしたら何に対して・・・?
これは思い当たる節がある。半年ほど前から猫のご飯を毎食計量して出している。以前はどんぶり勘定で欲しがるだけ与えていた。きっと食べ足りないのだろう。しかしご飯を増やすわけにはいかない。猫の健康のためだ。長生きしてもらわなければ困る。私のためだ。

洗ったがにおいが取れず枕は捨てることにした。
幸いにも我が家には予備の枕がある。これは私の亡き祖父がくれた枕である。
元気に生きていた頃の祖父宅に遊びに行ったときに貰ったのだ。寝付きが良くない、とぼやく孫娘に祖父は枕を与えた。「買って使ってみたけど合わなかった」と言って。
私も使ってみたがいまいちしっくりこない。けれどせっかくだし・・・と使い続けたが寝付きは良くならない。新しい枕を買ったあたりで祖父がなくなった。
祖父の形見である枕を捨てるのは嫌だった。しかし枕として使うには微妙な按配。座布団として活躍していた。

おしっこ枕は洗ってもにおいは消えなかった。捨てる。
座布団に使っている祖父枕にタオルを撒いてこれから寝る。
祖父が頭を乗せた枕を私が座布団にして、今度はまた枕にするのだ。忙しい枕である。

おじいちゃん、座布団にしてごめん。あの時私に枕をくれてありがとう。あなたのおかげで枕無しで寝ることにはならなさそう。

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