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絹の着物にポリエステルの胴裏をつける是非

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本日のお題:絹の着物にポリエステルの胴裏をつける是非
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■絹の着物にポリエステルの胴裏をつける是非

今週のお題は「絹の着物にポリエステルの胴裏をつける是非」です。家庭で洗えなくて洗うのにもお金がかかったり、生地はデリケートですし、他の素材と比べて何かと手間のかかる絹ですが、着物の世界の素材は絹が一番多く使われております。何と言っても着心地がいいですし、主流の素材だけに色柄も豊富なのでつい絹を選んでしまいますよね。今日はそんな絹の着物にポリエステルの裏地をつけるというお話です。

リサイクル品を扱っていて、毎日毎週毎月何十枚何百枚という着物の写真撮影や検品しておりますが、たまに表が絹で裏地がポリエステルという着物を見ることがあります。表地が人気のある柄で寸法も大きめなのに裏地にポリエステルがつけられていたりすると正直ちょっとがっかりします笑。着心地の面は元より、静電気の防止や裏地との収縮率の違いによるトラブルを防止するためにも表地と裏地の素材を合わせるのは基本なのですが、どうしてこういう着物が存在するのでしょうか。

こういうお題になると悪徳呉服店がコストダウンのために無知なお客様を騙してポリエステルをつけているんだ!なんて思う方もおられると思うんですが、意外とそういうことは少ないと思うんですよ(全くないとは言い切れないですが)。なぜかと申しますと、粗悪品の安物ポリエステルでしたら上質な絹と比べると仕入れ金額で数千円以上の差が出てくるとは思いますが、一般ユーザーが絹と比べてわからない程度の東レシルックレベルのある程度上質なポリエステルを使うと意外なほど絹と差はありません。金額にして2000円-3000円程度といったところでしょうか。

その程度の金額ではお客様を騙してコストダウンして、悪い評判が立つリスクを負うほどのメリットとは思えません。新品のフルオーダー着物は単価の高い商品ですから表地の価格に上乗せしておけばいい話ですし、ポリエステルの最高級品の東レシルックともなりますと絹に比べてほんの少し安いだけですのでほぼメリットはないと考えてもいいぐらいです。まあ中にはそんな計算すらできない店もあるかもしれませんが…。

ではなぜそういった着物が出回っているのかと申しますと、おそらくほとんどはレンタル業者が仕立てた商品だと思うんです。レンタル業者さんは一度に大量に着物を仕立てることが多々ありますので、1枚分の胴裏は絹と比べて2000円-3000円程度の差であったとしても100枚いっぺんに仕立てると20万円-30万円もの差になって現れてきます。レンタルでしたら借りる側も「ま、レンタルだしな」という感じでポリエステルの質もある程度落とすことができるでしょうし、もう少しコストダウンできるかもしれませんね。

また個人のお客様が仕立てると当然10年20年と所有するものですが、レンタル業者さんはそうではありません。何年間かレンタル品として使った後は処分してどんどん柄を入れ替えていくのが通常ですので「数年着物として使うことができれば後はもうお役御免」となります。先ほど少し触れましたが、ポリエステルと絹の収縮率の違いは意外と多いトラブルで、仕立ててから何年か経つうちに絹の繊維が落ち着いてくるのと、空気中の水分によるものなのかわずかに縮むことがあります。しかしポリエステルの生地は全く縮まないため、表と裏の添いが悪く、長年の間に裏地がだぶつくといったことがありますが、レンタルですとそうなる前に柄の入れ替えがありますのでその辺りも気にせずポリエステルを使えるのでしょう。

そんなこんなでポリエステルの裏地を使うデメリットばかり並べ立ててしまいましたが、一方で積極的にポリエステルの裏地を使う場合もございます。

最近バタバタと黒留袖ばかり売れたのでまた20枚ほど仕入れたのですが、比翼地や胴裏地にポリエステルを使っているものが多々あるんです。また、私が以前勤務していた店はお客様に了解を取った上で黒留袖や黒紋付(喪服)には東レシルックの胴裏を使っておりました。ポリエステル素材は家庭で洗えるというのは大きなメリットですが(もちろん絹の着物の裏につけたら洗えません)、もう一つ大きなメリットとして「変色しない」というものがあります。

リサイクル着物でも胴裏が茶色く黄変しているものをよく見かけることがあると思います。絹の生地は製造時に精錬、漂白によって真っ白になりますが、時間の経過とともに次第に茶色く変色してしまいます。

黒留袖や黒紋付は小紋などカジュアル用の着物と違って一度仕立てたら10年、20年と着ることが一般的です。今ではあまり見られなくなりましたが、お嫁入りのお道具にお仕立てして、初めて着るのがその10年後といったことも十分に考えられますが、初めて着るときにもうすでに胴裏が変色していたらちょっとがっかりしますよね。また黒留袖や黒紋付は白と黒のコントラストが美しいので、袖の振りのあたりから白ではなく茶色っぽい色が覗くと意外と目立ってしまいます。そういったことを防止するためにもポリエステルを使っているようです。

東レシルックに代表されるように、最近のポリエステルはかなり品質が良くなっており、一般ユーザーのみならず私たち日常的に着物を扱っている業者でも迷うような風合いのものがあります。仕入れのオークションの場で「これポリエステル?」「うーん、どうやろ」「これは難しいよね」といった会話は珍しくないくらい、見分けのつかないものも多いので、上質なポリエステルを使えば着心地の点は完全に絹と同じではないにしろ、ある程度クリアできます。後は静電気や、表地と裏地の収縮率の違いで袋になるリスクを取るか、それとも茶色く変色するリスクを取るか、という判断のようです。どちらが正しい、間違っているということではなく、それぞれにメリット、デメリットはあると思いますのでもしお仕立てをするのであればそれらをよく考えて判断していただければ、と思います。

最近は絹にもホワイトガード加工など、白さを保つ技術も発達しており、もうそろそろ白さを保つためにポリエステルをつけるという根拠も薄れてきているように思います。私が留袖や黒紋付(喪服)を仕立てるとしたら…うーん、現代は昔のような極端に変色(注)することはほぼないと思ってますので絹を使うでしょうね。

注:昔は少し時間が経つと真っ茶色になるような絹もありました。昔は絹の重さで良し悪しを判断されて取引されていたため、重さをカサ増しする増量剤を絹に混ぜている悪質な業者もいたようでそれが変色の原因ではないかと思っておりますがそれはまた次の機会に…。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
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