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袖丈についての大バトル

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本日のお題:袖丈についての大バトル
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■袖丈についての大バトル

本日のお題は「袖丈についての大バトル」です。実質先週のお題「袖丈1尺3寸」の続編ですので、今週からこのメルマガを読まれる方は先に先週のメルマガ「袖丈1尺3寸」からお読みください。メルマガのバックナンバーはnoteにて保管いたしておりますので「note 呉服のきくや」と検索していただければ出てきます。全ての記事は無料公開いたしておりますので是非ご購読ください。

まず、念のために袖丈について解説いたしますが着物の袖丈は洋服でいう袖丈とは違いますのでご注意ください。洋服の袖丈は手の長さで着物で言う裄(ゆき)に相当いたします(正確には着物で言う袖幅)。着物で言う袖丈は袖山(袖の一番頂上部分)から一番下の振り部分のことですのでその点をご理解の上お読みくださいませ。

袖丈の長さは身長の1/3程度と言われており、本来でしたら身長の高い低いに合わせて袖丈の長さを調整するものです。また、若い方は比較的長めにして、結婚したりお年を召してくると短めにすることが一般的でした。リサイクル着物で地味な袖丈1尺1寸(約42cm程度)の着物がありますが、おそらく高齢の方が短い袖丈で仕立てたものでしょう。

数十年前は和裁のできる方は比較的多く、完全に1枚縫い上げることは難しくても袖丈直し程度でしたらできる方は多かったのでしょう。10代の若い頃に作る着物は1尺5寸程度、時にはもっと長く仕立てており、結婚が決まると娘の幸せを願いながら1枚ずつ袖丈を短くするといった風習がございました。

あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る

万葉集に収録されている有名な短歌です。当時の風習として袖を振るというのは求愛行動の一つでしたので、若い間は袖を振りやすいように袖丈を長めに、そしてパートナーが決まって既婚者になるともう袖を振る必要がないので短くすると言うのは理にかなっております。

こういうところから未婚女性のフォーマル着である振袖がなぜあれほど袖が長いのかわかると思います。ちなみにこの短歌で袖を振っているのは男性ですのでこの求愛行動は男女問わず行われていたか、または男性から女性へ向ける行動だったのでしょう。

今でこそ1尺3寸が標準寸法で、仕立て上り品の長襦袢や着物、コートなど全てが1尺3寸になっておりますが、昔の呉服店は未婚の若い女性が着物を誂える時には1尺4寸から1尺5寸(約53cm程度から57cm程度)にするのはごく当然のように行われておりました。

私がこの業界に入ったのは今から遡る頃30年ほど前。当時もそういった風習はまだ少し残っておりましたが、社会情勢や生活様式の変化から着物離れが進んでおり、着物を取り巻く環境の変革期であったように思います。結納の風習はなくなり、お嫁入り道具に着物を一式持って行くということもなくなり、結納返しに男性ものの着物をプレゼントする(大島紬のアンサンブルが多かった)といったこともなくなり、結婚後に着物を着てお世話になった方や近所の挨拶回りをするといったこともなくなりました。

先週書いたように当時勤務していた店は60代後半ぐらいの、ずっと呉服店で勤務しておりましたたたき上げの女性店長がおりました。私はこの業界に入って少ししてからこの店長の下について営業として勤務しておりました。当時の営業は反物を持って販売して歩くのではなく、毎月開催される展示会へ勧誘するのが主な仕事でして、お客様の寸法を管理したり、仕立てを外注したりというのは他の人が担当しておりまして私はほぼノータッチでした。

就職してから2-3年後にその店長の下について数年間勤務したと思うのでおそらく20代のころだったと思いますが、ある時その店長が若い女性の着物は全て1尺5寸に仕立ててることを知りました。

確かに昔は1尺5寸ぐらいに仕立てて結婚後は少し短くするのが一般的だったかもしれません。しかしそれから時代は進んで若い女性がちょっとした行事の時に着物を着るなんてことはかなり少なくなっておりました。ただし、まだお母様が娘さんのいつか行くお嫁入りの日のお道具のために着物を誂えておくといったことは普通に行われておりました(注)。そういった着物を1尺5寸に仕立てていたので、私は疑問に思ったわけです。

注:隣近所がもっと密に付き合っていた時代ですから、小さい時から可愛がっていた2軒先の太郎くんがどんなお嫁さんをもらったのか、と町内では興味津々。お嫁さんがどんな嫁入り道具を持ってきたのか近所の方々が集まってきてお披露目をするという、今から考えると嫌がらせかと思われるような儀式(?)をすることは多かったと思います。こっそり持っていくことなんてできません。当時はトラックに紅白の飾りをして大安に華々しくお道具を新居に運び込むのが一般的でした。ちなみに道中でトラックがバックをすると「出戻り」に通じるとして縁起が悪いので、引越し業者はご祝儀袋を用意しておいてもし幅の狭い道で対向車が来てもご祝儀を渡して対向車にバックしてもらって道を譲ってもらうのが慣例でした。

お茶やお琴をやっておられる若い方で、頻繁に着物をお召しになるお客様も多くいらっしゃいます。そういう方は袖丈が長いほうが見栄えが良いので少し長めにすることについては異論はありません。先週書いたようにほぼ全ての仕立上り品の袖丈が合わなくなりますが、その当時はリサイクル品もありませんし仕立上り品も一部長襦袢やポリエステルの小紋があるだけでほとんどがフルオーダーするのが当たり前の時代でした。

しかし、特にそういった習い事をしていない方ですと、結婚する前に着物を着る可能性がほぼないことが容易に想像できます。将来のお嫁入り道具のために前もって着物を仕立てるのであれば、初めから結婚後のことを見据えて寸法を決めたほうが親切だと思うのです。今現在、若いからといって1尺5寸で仕立ててしまうと一度も着られないまましつけ糸のついた着物をまた1尺3寸にお直ししなければなりません。1枚や2枚ならまだいいですよ。当時はお嫁入り道具に訪問着や留袖、黒紋付(喪服)、場合により小紋やコート、そしてそれぞれに長襦袢など一式持って行きましたので5万や10万ぐらいの費用がかかるのです。

まあ当時はまだまだ若かったんです。今まで数十年、呉服畑で頑張ってこられた大先輩に、ちょっと着物をかじったぐらいの5年や10年足らずの経験の若造が直球豪速球で「なんで1尺5寸にするんですか?結婚後に1尺3寸に直すのであれば、もう初めから1尺3寸のほうがいいんじゃないですか?」なんていったんですから。いや、細かいニュアンスは全く覚えてませんが相手のプライドを考えずにものすごい豪速球を投げつけたんだと思います。

いやー、怒りましたよね笑。いや、笑ごっちゃないんですけど怒りました。ちょうど時代が流れて変化している時ですのでどちらが正しいということはないとは思うんですが(あ、いや、でももうあの時は1尺3寸に仕立てがほうがいい…かな)、青臭い、ちょっと着物のことをわかってきた若造がクッソ偉そうにいうんですからそりゃ気分悪いですよ。今ならもう少し上手く言えるんでしょうけれどあれが若さというものでしょうか←なんか綺麗に言ってます

結局どういう風に収束させたのかは忘れましたが、あれから店長との関係は非常に悪くなったのは覚えています。

私は現在はリサイクル品を中心に扱っており、フルオーダーで仕立てることはほとんどなくなりましたが、袖丈は事実上1尺3寸固定のようになっているのが現状ですので、先週書いたように1尺3寸以外にしてしまうと全てオーダーにして仕立て上り品を使えなくなってしまいます。もちろんそれも一つの選択ではありますがお財布には優しくないですよね。

先週のメルマガを配信してから、何通かの感想を頂戴いたしました。おそらく私と同年代か、もしくはもう少し先輩の方でみなさん口を揃えて「そうそう!1尺5寸で仕立てられてて、これに合う長襦袢はあれ、それに合う長襦袢はこれ、とめちゃくちゃややこしくなったので全部お直ししました」とご連絡をいただきました。

どちらが正解というのはないのですが、私たちは着物でお代を頂戴しているんですから、お客様の着物に対する価値観、どういう風に着物と付き合っていきたいか、どのくらいの頻度で着るのかなどお客様の意図をしっかりと汲み取って、最も適切な答えを出して提案しなければならないと思っています。

それは袖丈だけに限りません。着物は余程のファン以外は日常的に接しているものではないのでいろんな面でなかなかわかりにくく、お客様は着物を買うにあたってできるだけたくさんの情報が欲しいと思っておられるので、お客様の立場に立って最適な答えを提示していく呉服屋でありたいな、と思っております。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
https://www.kikuya.shop/

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