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袖丈1尺3寸

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本日のお題:袖丈1尺3寸
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■袖丈1尺3寸

本日のお題は「袖丈1尺3寸」です。現在の着物の袖丈は1尺3寸(約49cm)とされておりますが、これはいつ頃決まったことでしょうか。

私、着物ユーザーがどんなことを考えて着物を着ているのか、どんな着物を望んでいるのか知りたくて夜な夜なSNSをぽちぽちクリックしながら眺めるのが好きなんですよ。「なんでやねーん!」と突っ込みたくなることや「なるほど!」と思うようなこと、いろいろな意見があって勉強させてもらっています。そこで先日あったのが下記のような話題でして、パッと見かけたあとすぐに閉じてしまって元の投稿がわからなくなってしまったのでいまいち不正確かもしれませんがだいたい要点を書きますと…。

某着物チェーン店で昔に着物を誂えた着物を見てみたら袖丈が1尺4寸(約53cm程度)になっていた。「え?1尺3寸じゃないの?」と思って問い合わせると「袖丈は1尺3寸と決まっているわけではなく、うちのチェーン店では160cmを超えると1尺4寸にしているので間違いではない」とのこと。もうかなり前に誂えたものなのでその時のデータがなく結局「わかりません」と何も対応してもらえなかった。

というお話でした。

まず前提として確かに店側が言うように袖丈は1尺3寸に決まっているものではなく、本来身長に合わせて長さを調節するものです。身長が高ければ身長との兼ね合いで少し長めに、また未婚女性なら同じく少し長めに、小柄な方、年配の方でしたら少し短めにするのがセオリーで、昔は身長の1/3程度にするのが適正と言われていました。そう、適正と「言われてました」という過去形です。

最近は1尺3寸が標準…というよりも事実上ほぼ固定化しているといった方がいいかもしれません。身長150cmの方も170cmの方もすべて1尺3寸。老いも若きも1尺3寸。ですので勝手に1尺4寸の袖丈にされると「何の説明もないのに勝手にイレギュラーなサイズにされた」と思ってしまうのも無理はないでしょう。

一方で、この投稿した方が某チェーン店で着物を誂えたのは昔のことだったようなので(ちらっと見ただけで詳しく読んでいないので違ってるかもしれません)、その当時は身長に合わせて袖丈を調節するのは一般的でした。

今から遡ること20年ほど前の私の修行時代、当時勤務していた店の店長が60-70歳ぐらいの女性店長でした。昭和の時代から呉服店一筋で働いてこられた方で私もたくさん勉強させていただきましたが、私と考え方が違うことが多々あり、当時まだ若く青臭かった私は店長に真正面から楯突いて大論争することも。たかが5年や10年ぐらい着物を触った程度の若造が偉そうに、と今から思えば恥ずかしい限りです(汗)。

当時勤務していた店は新品をフルオーダーで販売するいわゆる普通の「呉服店」でした。お客様の自身着物を誂えることがほとんどであるのは当然ではありますが、当時はまだお嫁入りに着物一式持っていった時代で、将来結婚されるその日のために少しずつお嬢様のために黒紋付(喪服)や訪問着を揃えられる方も多く、そんなときはその当時の店長は「若いお嬢さんの着物だから」ということで全て1尺5寸にしておりました。今から思えば年代や背丈で袖丈を変えるという考えの最後の世代だったように思います。

先ほど書きましたようにバランスを考えると年代や身長で袖丈を変えるのは当たり前なんですよ。しかしそれが現代になりますと少し事情が変わってまいります。

昔は着物といえばフルオーダーで仕立てるのが当たり前でした。長着はもちろん、コートや長襦袢など全てがフルオーダーでしたが、現代はいわゆる「プレタもの」の既製品が多く販売されております。これらの袖丈は全て判で押したように1尺3寸=49cmです。つまり、バランスや年代を考えて1尺3寸以外の袖丈にしてしまうと既製品を購入しようとしても合うものはまったくないという現実に直面してしまいます。一旦1尺4寸にしてしまうとこれからも全てのアイテムをフルオーダして1尺4寸にするか、それとも合わないのを承知で1尺3寸のまま着てしまうかの選択を迫られることになってしまいます。ちなみに既製品は生地を節約するために縫い代はほとんどありませんし、縫い代があったとしても既製品で一般的なポリエステル素材は縫った後の筋がくっきりとついていて消えないのでお直しは現実的ではありません(1尺2寸など短くするのであれば対応可能)。

初めのSNSの投稿に話を戻しますと、詳しく読むまでにその投稿が行方不明になってしまったので(汗)その後の経緯はよくわかりませんが、私から言わせていただければ1尺3寸以外の袖丈にするのであれば

「現代の標準は1尺3寸ですが、お客様は少々身長が高いのでそれに合わせて袖丈を長くした方が全体のバランスが良くなります。ただし、既製品として販売されている着物やコート、長襦袢など全てのアイテムの袖丈は1尺3寸の長着に合わせて作られているため、手軽で安価な既製品を着たい場合にも袖丈が合わなくなります。つまりこれからの着物人生全てオーダーにするか、または袖丈が合わないのを承知で既製品を着るかという選択をしなければならなくなります。もちろん1尺4寸用、1尺3寸用の着物、長襦袢、コートのセットでそれぞれ分けるのもあります。さて、標準の1尺3寸にしますか、それとも全体のバランスを考えて1尺4寸にしますか」

めちゃくちゃ理屈っぽくて嫌な言い方になってしまいましたが、要点を短く言うとこういうことです。このような説明をした上でお客様に選んでもらうべきであったのではないか、と思うのです。

もちろんこんな説明を受けても即答えられる方は少ないでしょう。だからこそ、色々お話しさせていただきながらお客様の着物観…というのは大袈裟だけれど、お客様が着物にどれだけお金をかけようと思っておられるのか、全てフルオーダーでもいいのか、既製品をうまく組み合わせて賢く着物を楽しみたいのか、どれだけの着姿の美しさを求めているか、その辺りの感覚は人それぞれだと思いますのでメリット、デメリットを提示した上でお客様に選んで頂くのが着物のプロである呉服店の責務ではないか、と思うのです。その観点から申し上げると、何も説明がないまま1尺4寸にしたのであれば残念ながら某チェーン店は説明が不十分であり、結果的に今回苦情を受けるという形になってしまいました。

その着物を誂えたのはかなり以前のことだったようなので、その当時は身長に対して袖丈を調節するのが当たり前の時代だったとしても、やはりお客様の大切なフルオーダーの着物ですので、袖丈のような大切な部位の寸法は勝手に調整するのではなくしっかりと打ち合わせをした上で仕立てにかかるべきだったのではないか、と思います。とはいえ、呉服店は馴染みのお客様で商売をさせてもらっていて信頼されて「適当に仕立てといて」と全てお任せでお仕立てをするという現実もありますので判断はなかなか難しいところではありますが…。

以前に勤務していた店でもお得意様がお嬢様のために勝手に着物を作って仕立てることが多く、そんな場合の寸法は「私とほぼ同じ体格だから適当にやっといて」なんて言われることもあり、そんな依頼を先ほどの店長が受けるとおそらく袖丈1尺5寸にしていたはずです。当時は若い娘さんが着物を仕立てる時には少し長めの1尺5寸していた頃から現代の1尺3寸固定に変化していった過渡期でしたので間違ってはいないのですがもしかするとその当時のお嬢様が着物を見た時、今回のSNSでの事例と同じように「なんで1尺5寸になってるの?」と思われるかもしれません。

この件についてその当時の店長と大激論をしたのを思い出したので来週はその大激論について深掘りして詳しく書いてみたくなりました。あの大激論から20年以上経ってると思っておりますが、今でも絶対私は間違ってない!と思ってます(鼻息)!というわけで来週袖丈1尺3寸その2ヘつづく。

【おまけ】

今はやりのChatGPTで「なぜ着物の袖丈は1尺3寸が標準になったのですか」と尋ねたところ、

「着物の袖丈が1尺3寸(約39cm)が標準になった正確な理由は不明ですが、いくつかの説があります。一説によると、1尺3寸の​​袖丈は、江戸時代に火の元や仕事中に邪魔にならないように、袖をまくって作業するために定められたとされています。身動きがしやすく、素早く動けるようになっていたという説もあります。

また、古代中国で一般的だった衣服の袖丈に由来するという説もあります。日本の衣服文化は、中国から伝来したものが大きな影響を与えており、着物の袖丈にも中国の影響があると考えられています。さらに、着物の袖丈は、境界や年齢によっても異なります。約45cm以上になることもあります。総じて、着物の袖丈が1尺3寸になった具体的な理由ははっきりとわかりませんが、江戸時代に袖をまくるために是正されたという説が一般的に有力視されています。」

と出ました。うーん、もうしょっぱなから1尺3寸(約39cm)って間違ってるし…。なんだか知ったかぶりで適当なことを言ってる人みたいな答えが出ました笑。1尺3寸だったら袖をまくりやすいかなぁ。ChatGPTって世界中に落ちてるインターネットの情報からそれらしい情報を集めて文章化しているものだと思ってるのですが、着物関係は情報量が少なくて間違いが多そうです。ChatGPT君、まだまだ修行が必要ですな笑。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
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