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目隠しで紬の絣の細かさを当てる

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本日のお題:目隠しで紬の絣の細かさを当てる
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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みなさん、テレビはご覧になってますでしょうか。私は今まではよく見ていたんですが、最近はTVerで見る方が多くなってきました。TVerってのは民放各社で運営している動画サイトで全国の民放で放送されているテレビ番組が公開されているサイトなんですよ。これがほぼCMが入らないし、時間がないときにはちょっと再生速度を速くできますのでとっても便利なんです。

関西で放送されていない番組などもありそうですし、もう少しいろいろ見て楽しみたいと思ってます。いや、しかしいい時代になりましたなぁ…。

9月プレゼント企画が始まりました!今月は店長の石垣島研修旅行で購入してきたお土産、八重山ミンサーの生地で作ったポーチです。「ミン=(木)綿」「サー=細い」で沖縄の木綿の細帯のことなんです。、店長の個人的なポリシー「持つものから地味になってどうすんねん」で赤くてちょっと派手めなものを選びました。ぜひご応募ください。

八重山ミンサーポーチご応募ページ

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■目隠しで紬の絣の細かさを当てる

今週のお題は「目隠しで紬の絣の細かさを当てる」です。タイトルを読んだだけでは「なんのこっちゃ」と思うでしょうけれどまあとりあえず読んでください。

着物離れという言葉が叫ばれてもう長いです。私がこの業界に入った30年ほど前から囁かれていたようですが、生活様式の変化によりどんどんと着物が庶民の生活から乖離していき、それと呼応するかのように呉服業界の市場規模も毎年50億円規模で縮小していっていると言われております。

私の子供の頃…約40-50年前ごろでしょうか。当時は大安の日曜日、家族のお出かけで高速道路を走ると決まって何台か紅白の飾り付けをした婚礼道具を積んだトラックを見かけたものです。地域によっては荷台が透明になっており荷物をお披露目しながら運んだということもあったようですが、節目のイベントを簡略化するという現代において次第にそういった風習も無くなってきました(注)。

注:何度もこのメルマガで書いておりますが、その当時隣近所の交流は非常に盛んだったため、結婚は当事者と両家だけではなく、隣近所も巻き込んでの一大イベントでした。落語風に表現するなら”二軒先のはっつぁんの息子が結婚するんだってよ、へー、そりゃめでてぇな、一体どんなお嫁さんをもらったんだよ、今日荷物が入ってくるらしいから見にいくべ”というようなノリだったようです。私は大阪市内ばかりで田舎には住んだことがありませんので想像でしかありませんが、近所同士のつながりが深い田舎の集落ではいまでもこういったことが行われてるんですかね…?

現代の都会の生活といえば、隣近所の家族構成なんてさっぱりわからないですし、顔を合わせば挨拶程度のお付き合いですよね。私もマンション住まいですが、隣にはそこそこ高齢のご夫婦が住んでおられ、エレベーターで会った時に挨拶くらいはもちろんいたしますがそれ以上のお付き合いはございません。

まあそんなわけで先ほど書いたように呉服業界はこの30年間、ずっと右肩下がりで毎年50億円規模で市場が縮小していると言われております。大きなチェーン店が破綻するとその店の年商分が市場規模から消滅するなどと言われており、業界としてはなかなか厳しい状況のようです。そろそろ下げ止まるかと思っているんですがなかなか縮小傾向は止まりませんね…。

当店のような業界の隅っこで細々と営業しているような店でしたら、私とスタッフの大西さん(仮名)が食べていくには困らない程度にはやっていけるのですが、従業員何十人も抱えているような会社は大変ですよね。従業員の家族も合わせると何百人もの生活を支えていくのは大変だと思います。

で、そんな折、卸問屋の社員の劣化という話をよく耳にするようになりました。着物に対する基本的な知識がなくて困る、という呉服屋の愚痴を聞くことがあるのですが、そりゃそうですよね、卸問屋にとってのお客様は呉服屋なんだからいちいち商品説明しなくても相手の方がよく知ってるはず。なのでそれほど深い知識は必要なく、呉服店側が仕入れに来たら値段を提示することができれば営業の仕事は可能です。

と言いながら、先日問屋に長着用の居敷当てを注文した時「えっと、長着って何ですか?」と言われた時には少々ずっこけました。その問屋の担当者を擁護するとすれば、私の周りでは意外と「長着」という単語は使わないのですがそれでも長着という単語ぐらい知っていて欲しかったです笑。まあそれでも商品知識はお客様側(呉服店)がよくわかっているので問屋の営業としてはそれほど商品知識は必要ないんでしょう。

仕入れ担当者はそうはいきませんよ。仕入れ担当者は消費者のニーズを踏まえながら、手の込んだものかそうでないか見極め、適正な値段で仕入れなければなりません。呉服卸問屋は昔と違って資金ジャブジャブ大儲け、というようなところはありませんので仕入れ担当者の目利きはシビアですよ。

何気に卸問屋をディスってしまいましたが、最近の呉服屋は展示会など限られた日程で問屋から商品を借りて販売することが多く、お金を出して商品を仕入れて在庫に持つというのが非常に少なくなっているので、リスクを負わない分、必死さ、真剣さが伴わず、目利きもできなくなっているといいますので知識不足は呉服業界全体に広がっているんでしょう。電卓を叩いてローンの計算をするのは上手くなっているようですが笑。

さて、時代背景を説明したところで今週のお題の「目隠しで紬の絣の細かさを当てる」に入っていきます。

私がこの業界に入った当時、よく取引をしていた某卸問屋の担当者に可愛がっていただきました。当然私よりも30歳ぐらい年上の大先輩で、元は織物専門の仕入れ担当者だったのですがその後営業に回り、当店の担当者になった方です。とにかく織物には詳しく、一緒に仕事をするたびに商品について詳しく聞いて勉強させていただきました。

その方はこの呉服業界に入ってすぐに当時の先輩に湯通し済み(注)の結城紬を手渡されて「いつもこの結城紬を触っていなさい」と言われたそうです。「当時は何が何だかわからない状態でそんなこと言われたけれど、所詮丁稚なので質問も何もなくとにかく言われたことをやっている状態だった」とのことで、仕事の合間でも家に帰ってからも通勤の間でもずっと触っていたようです。

注:結城紬は糸を撚らずに織機にかけるため、繭から取り出した糸そのままだと織っている間に張力で糸が切れてしまいます。そのため、うどん粉糊でカピカピに固めて糸を補強して織りあがってから商品として出荷され、売れた後に糊を落として仕立てられます。かなり多くの糊を使用しているため、一反分の糊を落とすとたらいが真っ白になる程です。

で、展示会の間のお客様が途切れた時の雑談でその大先輩が言うんですよ。
「わしな、結城紬の亀甲数は目をつぶってても触るだけでわかるねん」

結城紬の亀甲数ってわかりますでしょうか。一般的に結城紬の仕事の細かさは亀甲数(きっこうすう)で判断されます。反物の幅でどのくらいの亀甲が並んでいるかという数で80亀甲から200亀甲まであります(200亀甲以上のものはあまり聞いたことがありませんがもしかしたらあるかもしれません…知らんけど)。つまり、反物の幅で亀甲が80個ならんでいるのが80亀甲、200個並んでいるのが200亀甲です。

もうお分かりのように反物の幅(約38cm)のなかに80個しか並ばない=大きめの亀甲、200個並ぶ=かなり細かい亀甲、ということになり、亀甲の数が大きければ大きいほど細かく絣を織り込んだ高級品とされます。この亀甲は当然ただの先染の柄で点字のように凸凹しているわけではありません。普通の人が目をつぶって触ってもただザラザラした手触りで亀甲の数なんて感じ取れるはずがありません。

なのにその大先輩は「目をつぶってもわかる」というんですよ。目をつぶっててもわかるぐらい見極めは簡単、という比喩ではなく、本当に目をつぶって触るだけでわかるというのです。

当時若かった私はまだ大した知識もなく「いやいやいやいや、いくら大先輩といってもそんな超能力者みたいなことができるわけないやん」と思ったのですがその時にお客様が来られたか何かでそれ以上聞くことができなかったのか、細かいことは覚えていないのですがその答え合わせができないまま月日が過ぎていきました。

というところで長くなりそうなので来週に続きます。来週までになぜその大先輩は目をつぶって結城紬を触るだけで亀甲の細かさを当てることができるのか、予想しておいてください笑。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022

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