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呉服屋をやめたくなったお話 その1

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本日のお題:呉服屋をやめたくなったお話 その1
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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お正月にディズニーランドに行って疲れたところに風邪をひいてしまいましてそれからなんとなくずっと調子が悪い…というほどでもないんですけれどなんとなく体が重いんですよね。

50歳を超えると365日中360日ぐらいなんとなく調子が悪いというかなんというか(多すぎ・笑)。まあそんな感じで最近夜10時、遅くとも11時には寝るような毎日になってます。どんどんジジイになってくるのを実感します。

1月のプレゼント当選者発表!

今月も多数のご応募誠にありがとうございました。帯締めは人気のようで今回もかなり多くの方からご応募いただき、とても嬉しく思っております。そして今回見事当選されましたのは

兵庫県加古川市 M・A様(姓・名の順)

と決定いたしました!賞品は本日発送いたしますのでお手元に到着いたしますまでしばらくの間お待ちくださいませ。
https://www.kikuya.shop/view/item/000000016673

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■リサイクル着物続々入荷中です!是非ご覧下さい。本店サイトは楽天などのショッピングモール価格よりも5-10%程度お安く提供いたしております。

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■呉服屋をやめたくなったお話 その1

今週のお題は「呉服屋をやめたくなったお話 その1」です。別に今やめたくなっているわけではありませんので安心してください笑。その話をする前に呉服業界の現状をお話ししなければ何に悩んでいたのかさっぱりわからないと思いますので先にその辺りのことをお話しします。

このメルマガをお読みの方はほとんどの方が着物が好きで、普段着としてお召しになる方、ちょっとしたお出かけの時には必ず着物だったり、月1回から2回ぐらいは着物を着るという方が多いのではないでしょうか。え?もっとお召しになる?毎日?すごいですね。

でも現実問題としてそういう方はかなり稀少なんです。インターネットの普及により、影に隠れていた着物ファンが自由に交流して着姿をネットに上げて楽しんでおられるのでそういう方がそこら中におられるように錯覚してしまいますが、現実はどうでしょう。街を歩いていても着物姿の方を目にすることは決して多くありません。

街ではほとんど着られていないのにそれでも呉服業界の市場は2500億円程度あるといわれています。今ちょいと調べてみましたらマスクの市場が2500億円程度。電子書籍の市場もそのぐらいだそうです。マスク姿の方はそこら中にいらっしゃいますし、電子書籍を利用している方も多いのではないでしょうか。しかし着物を着て外を歩いている方を目にするのはかなり少ないです。

もちろんマスクと着物とでは単価が違いますので一概に比較できません。しかし私の感覚ではかなりの着物が購入された後ほとんど着用されることなくタンスの中に眠っているのでは、と思っています。ユーザーの方々はリサイクル市場でしつけ糸つきの未着用品が多く流通していることでもなんとなく違和感を感じることがあるのでは、と思います。洋服だと家に全く着用されていない新品のものがある方はあまりおられないでしょう。

洋服の場合、購入したら嬉しくてすぐに着てお出かけする方が多いと思いますが、着物はそうではなくタンスの中にしまいこまれたまま時が経って結局リサイクル市場に出回ってしまうことが多いんですよね。しつけ糸つきじゃなくても1-2回着ただけでほとんど傷んでいないような備品が市場に出回っています。これはどうしてでしょう。

ここからのお話はこのメルマガの読者の方々にとっては全く違う世界というかなんというか…ちょっと想像し難い部分もあるかもしれませんが想像力を働かせながらお読みいただけるとありがたいです笑。

私が昔勤務していた店は展示会主体の店でした。私がこの業界に入ったのは今から30年ほど前でした。まだイベント、何かの節目の時には着物を着ることが当たり前だった時代ではありますが、カジュアルな着物はほぼ街で見かけることはなく完全に洋装が当たり前の時代です。私が住んでいた地域にも小さな呉服店が細々と営業しておりましたが、私がこの業界に入る頃にはほとんどが廃業していました。

廃業する店は店頭での販売だけを行なっていた店で、着物需要の減少とともに姿を消してしまいました。需要の減少にも関わらず元気だったのは様々な企画を打ち出し積極的な販売に打って出て展示会等を開催して販売していた店であり、私が勤務したのもそういったタイプの店でした。右肩下がりの斜陽産業になっていってる当時、新しく人を雇うんですからそういった店はそれなりに元気だったはずです。

そういったタイプの呉服店の営業の仕事は主に展示会の勧誘です。毎月のように展示会がありますのでその展示会にお客様を勧誘するのです。その展示会のために多くの取引先が商品を集めて持ってきますし、会場の経費もかかります。広告費、展示用ディスプレイの費用もかかります。私のいた店はそれほど大きな店ではありませんでしたが、だいたい1回の展示会で200万程度はかかっていたように思います。展示会を開催してコケると大赤字で大変な状況になるので何としても成功させなければなりません。そのためにお客様のご自宅に訪問して「◯月◯日から3日間、○○会場で展示会があるので来てください」と1ヶ月間勧誘して回るのです。

来年成人式を迎えるお嬢様がいるお宅にも訪問しますが、主なお客様は昔からのお付き合いの顔見知り。そのお客様に展示会の勧誘をするのです。このメルマガをお読みの方で展示会に勧誘された経験のある方もおられると思いますが、お土産のご予約を勧められませんでしたか?そのお土産の予約を取るのが「展示会の勧誘」なんですよ。朝から晩までお客様のところに行って、着物を販売するのではなく「お土産のご予約」を取りに行くのが仕事です。

着物のことなんて勉強する暇ないですよ。実際に着物を触って勉強する機会なんてなく、お土産のご予約を取りに行く毎日。お得意さんになると毎月、毎回顔を出すたびに展示会のご予約を取るもんだから私が顔を出したら「今月は何?まあ予約しとくわ」と話も聞かずに予約してくれる方も多くおられました。予約がいくら取れたかというのは成績に直結するため、ありがたいといえばありがたいですが「着物売るために着物屋になったんだけどなぁ…。これじゃお土産やさんやん」と思っていたのも確かです。

ただ、それは仕方のないことなんですよね。一人、もしくは夫婦でやっているような小さな店ならそれぞれが店のすべての業務を把握して運営していくんでしょうけれど、ある程度企業化された店ですと、外回りの集客担当(営業)、お仕立てや加工品担当、店頭の接客担当、仕入れ担当など、それぞれに役割があってその役割をこなすことによって大きな店が動いていく。ある程度の規模の店ですとそうしたほうが効率的ですしうまく回っていきます。

毎月着物の展示会とお土産のご予約を繰り返してると展示会の企画をする方もお土産のネタがなくなってきます。毎月のように帯締めや帯揚げをもらっても仕方ないし、後述しますが展示会に来られるのは決してディープな着物ファンばかりではないため、帯締めなどの和装小物は意外と喜ばれないんですよ。何が喜ばれるかというと、ちょっとした食べ物です。珍しい地方のお菓子、ちょっと有名な調味料、高級な作家さん(単価が高い)の展示会の場合は高級牛肉やカニなどもありました。いずれにせよ「食べてなくなるもの」「自分では買わないけれどちょっと高級な食材」は人気でしたね。

上得意さんだけじゃなく、これから着物を好きになってもらうために「とりあえず展示会に遊びに来てくださいよー」なんて顔を出す。御用聞きをしながら着物のアイロンをかけるのを預かったりなどもします。そんなのを少しずつ繰り返していくと「まあ一度ぐらい…」という感じで展示会に来ていただけるんですよ。

それなりに高級品を販売するわけですからお客様のご要望には一生懸命応えようとします。営業マンの対応に対する期待も大きいです。他店で購入した着物のメンテなんか当たり前、高齢の一人暮らしの方でしたら蛍光灯の交換、ビデオの配線…困った時に呼ばれるような何でも屋のようになったり。私も夏の暑い日に外回りで疲れた時にはいつも冷たいお茶を出してくれるお客様のエアコンの効いた部屋で無駄話してましたからね。そのぐらいお客様とのパイプを太くして、展示会で数十万の着物を購入していただく、と言った感じでした。

展示会に行くと、そりゃ周りは綺麗な着物がたくさんあります。お食事などでおもてなしをしてもらって、年始には占いコーナーがあったりで色々接待をしてもらえます。たくさんの綺麗な着物を見せてもらえます。そうこうしているうちにやはり日本人のDNAがムクムクと頭をもたげまして着物が欲しくなっちゃう方が一定数おられます。

50代ぐらいになると、実際に着るかどうかは別としてなんとなく着物に対する憧れのようなものを持っている方は少なくありません。別に着物でどこかに出かけるなんて予定はないけれど、ちょっとみんなで集まるときにささっと着物を着られたらカッコいいな、その程度なんですけれど呉服店側もプロなのでそのあたりをくすぐって購入に至るというのはよくあるパターン。また、まだその当時は「何かのイベントの時には着物が必要」という意識があった時代でもありますので「まあそういうなら1枚買っておこうか」というパターンも多くみられました。

私の勤務していた店は大阪だったのでよく着物を着て京都日帰りツアーなんてのを企画していました。「京都」「着物」ってのはパワーワードで50代以上の女性にとっては魅力的なんです。京都で着物を着て歩いている自分の姿を想像して財布の紐が緩んでしまう、というのは多少はあったと思います。

当時、女性の社会進出がまだそれほど進んでおらず、女性の正社員はどちらかというと少数派で働いたとしてもパート程度、そしてその稼いだお金は全て自分のお小遣いというような方も少なくありませんでしたので自由に使えるお金もありました。そんなわけで少しずつ展示会に足を踏み入れるようになり、展示会に行くたびに10万、20万と購入することになります。

ここまで読んでお分かりのように、少なくとも私の勤務していた店はそれほどディープな着物ファンが上得意というわけではなく「何かの節目には着物を着てもいいかなぁ」という程度のライトな着物ファンが多かったように思います。私もいろんな店で勤務したわけではありませんが、私の印象ではそういったライトなユーザーが呉服業界の多くの売り上げを支えているのではないか、と思っています。

この「ライトなユーザー」というところ、大事ですからね。来週まで覚えておいてください。来週に続きます。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022

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