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プライスレスな黒留袖

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本日のお題:プライスレスな黒留袖
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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最近フライパンのテフロン加工がハゲハゲになってきて料理をしているとそこに色々くっつくようになってしまってます。でも少しくっつくだけで料理自体はできるし、一番使う中間のだけハゲハゲですが3種類の一番小さいの、一番大きいのはまだまだ使えるし、買い換えるのもなぁ、なんて思ってます。

みなさん、フライパンっていつ買い換えるんですか?このままだとハゲハゲのまま一生使ってしまいそうです。

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■プライスレスな黒留袖

本日のお題は「プライスレスな黒留袖」です。先日のことですが、いつものように午前中に2階で商品撮影をして、その日の発送分を準備するために1階の店舗に降りていくと小柄な80代ぐらいの女性が来られて大西さん(仮名)が接客しておりました。

「じゃあ見積もり取ってみますね」という声が聞こえたのでおそらくシミ抜きか寸法直しか何かなんだろうな、と思いつつ奥で作業をしておりました。お客様が帰られてからその留袖をみたところ、比翼(注)が外れてきたので直してほしいとのこと。持ち込まれた留袖を見ると確かに比翼が外れかけてる。

注:このメルマガを読んでいるような着物マニアはご存知だと思いますが一応解説しますと、もともと黒留袖はその下に「襲(かさね)」とか「下着」と呼ばれる白い着物をもう一枚着ていました。つまり長襦袢、白い着物、黒留袖と3枚着ていたんです。それがあまりにもかさばるということで、あたかも中に白い着物を着ているように見せるため、衿や袖口、振りや裾の部分に白い生地をつけるようになりました。これを「比翼」といいます。

80代ぐらいの方が持ってこられたものなので、かなり古さを感じるもので比翼地はやや変色して茶色くなっています。胴裏はポリエステルだったので変色こそありませんでしたが着用するときに強く巻きつけたのか、背縫い部分が少し裂けているような感じ、家紋の部分も滲んだようになっていて失礼ながらはっきり言わせていただくとかなり状態が悪いもので完全に修理しようと思ったら結構な金額がかかりそう。これなら1万円ほどでリサイクル品を購入した方がいいんじゃないかなぁ、と思いながらその着物を畳もうとして気づきました。

あら、これ糸が朽ちてるやん。

リサイクル着物を何度も購入している方はおそらく一度や二度は経験があると思いますが、着物を縫っている糸は何十年か経つと脆くなってしまい、ちょっと力を入れただけで切れてしまう場合があります。もっとひどくなるとアンティーク物などに多いのですが生地自体が脆くなって少し引っ張るだけで生地が裂けてしまうなんてこともあります。

現段階ではところどころ比翼が外れている状態ですが、その部分だけ直したところでまた別の部分が外れてしまい、同じことの繰り返しになります。表地を縫っている糸は少し引っ張っても切れなかったのですが、比翼をつけている糸は完全に朽ちてしまっているし、胴裏もところどころ裂けかけてる。

うーん、これは比翼地を新しくしてもう一度付け直して家紋の修正、衿部分にも少しシミ…というか、衿山についたファンデーションの汚れを自分で取ろうと擦ったような跡もある。詳しく見積もりを取ってみないとわからないけれど、これはかなりの大手術になってしまいそうな感じです。誠に失礼なことは承知で言わせていただくとそこまでのお金をかけるのはあまり得策ではなく、やはり先ほど書いたようにリサイクル着物を購入した方がずっと安くていいものが手に入ることは容易に想像できました。

特にそのお客様はかなり小柄な方でした。小柄な方はリサイクル市場でタマ数が多く比較的安いのでそう言った意味でもリサイクル品を狙う方がずっとお勧めです。

…ということでお客様にお電話させてもらって、糸が朽ちていること、比翼地が変色していることなどからリサイクル品を購入した方が数分の1の価格でいいものが手に入ると説明させていただいたのですが、お客様の回答は「とにかくその留袖を大切にしたい」とのことでした。

先ほど書いたようにお客様は80代ぐらいの方でその柄ゆきから見るとおそらく若い頃に作った留袖なんでしょう。今まで何度もこの留袖を着用して子供達をはじめご親戚の新たな門出をお祝いしてきたんでしょう。親切心のつもりだったけれど単純に値段のことだけを考えて安易にリサイクル品を購入した方が、という提案をした自分がアホっぽく、そして呉服店としてまだまだだなぁ、と反省しました。

とりあえずいつも出している比較的安く受けてくれる国内の和裁士さんのところに比翼部分だけ一旦外してもう一度つけてもらうように相談に行ってみたら「うーん、それはちょっとようしませんわ」と言われて玉砕。仕方ないので別の加工会社に送って見積もりを取ろうと思いますが結構な金額になりそうな気がします。でももうそういうのはお金の問題ではなく、今までの思い出が詰まった着物だからそのまま放っておくわけにはいかないんです。

とはいうものの、おそらくこれらすべて妥協せずに修正しようと思ったら…うーん、家紋部分やシミ抜きも合わせて6-7万円ぐらいはかかってしまうかも。でもきっとお客様にとってはプライスレスな思い出がいっぱい詰まった黒留袖なんでしょう。なんなら着られなくなっても衣桁にかけて玄関に飾っていてもいいぐらいの思い入れなんでしょうね。

お客様に「思い入れのある着物、何とか頑張ります!」と言って本日加工会社に送りました。色々打ち合わせをして正式な見積もりが出るまで1週間程度かかると思いますが何とかお客様の考えておられる予算内に収まるように色々考えてみたいと思います。

リサイクル店をやっていると、着物を手放したいという方から毎日のようにご連絡をいただきます。その多くが「別にお金は必要ないんだけれど、自分の手でゴミとして捨てるのが忍びないし、誰かに有効利用していただければ」という思いで持ってこられます。私も同じなんですが、洋服(と言っても安物のTシャツレベルなんですが)はあまり何も考えずにゴミ箱にポイっと捨てられるし、なんなら掃除のときに使うボロ切れとしても使ったりします。でもなんとなく着物を捨てるのってものすごく抵抗感があります。これってやっぱり日本人のDNAがそういう思いにさせるんでしょうか。

他人の着姿をいちいち指摘する人のことを「着物警察」なんていうようになって久しいと思いますが、そういう方もおそらく着物に対して何か特別な思いを持っているからこそ、着物というものはこうあってほしいという思いがちょっと歪な感じに出てきているのかな、なんて思います。今回の一件で私たち呉服業界の人間はこの着物という素晴らしい文化を残すためにまだまだ頑張らなきゃ、と思いました。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
https://www.kikuya.shop/

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