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アンプシミュレーターよりアンプの方が気持ちいいのは何故か

アンプシミュレーターは今やギタリストにとって無くてはならない存在になりましたが、どこまでいっても100Wの真空管アンプを大きな音で鳴らす気持ちよさをシミュレーターでヘッドホンで弾きながら味わうことは不可能です。本記事でシミュレーターが何を模倣しているのか、実物のアンプとの違いを改めて整理します。


アンプシミュレーターが模倣しているもの

シミュレーターでもエミュレーターでもプロセッサーでも呼び方は何でもいいのですが、シミュレーターはほとんどのケースで

  • アンプの再現

  • キャビネットの再現

の2つを行っています。そして、このキャビネットの再現の部分は

  • キャビネットの再現

  • マイクの再現

に分解することが出来ます。このマイクの再現の部分が非常に重要で、且つ直感的に理解しづらい部分です。マイクの再現をするということは、キャビネットからの生音ではなくレコーディングされた音を再現するということです。

生音VSレコーディングされた音

  • 生音 = ギターキャビネットから出ている音そのもの

  • レコーディングされた音 = 生音をマイクで録ってスピーカーやヘッドホンで聴いた音

です。何故この違いが理解しづらいかというとどちらも何かしらのスピーカーから出ているからだと思います。なので別のもので喩えてみましょう。

目の前に立っている人間の声と、それをスマホで録音して再生した声では聴こえ方が異なるのは誰にでもイメージしやすいと思います。スマホでなくてもよいのですが、要は録音された音声を再生して聴くのと生の音声を聴くのは違う体験だということです。

アンプの話に戻りましょう。アンプシミュレーターはマイクで拾った音を再現していると書きました。だからこそ、ギターキャビネットの生音とシミュレーターの音は違うのです。

マイクで録ると音が変わる

ギターに限らず、いかなる楽器もマイクで録音して再生すると違う音になります。録音する、再生するという言葉をもう少し別の言い方で置き換えてみると、

電気信号と音波の変換

と言うことが出来ます。

スピーカーもマイクも、この変換を行う装置という意味では共通しています。そしてこの変換を行う際、必ず強い色付けが行われます。

僕は関西人なのでソースで喩えますが、ギターアンプヘッドで作った信号が料理だとすると、それをギターキャビネットから再生する時にウスターソースがかかります。

それをマイクで拾う時にお好みソースが上掛けされます。

更に、マイクで拾った音をモニタースピーカーやヘッドホンで再生する時にどろソースが上掛けされます。

このように、シミュレーターの音というのはソースを三度掛けした音なのです。串かつだったら怒られてます。冗談はさておき、ギターキャビネットから聴こえる生音とは味が違って当然です。

ソースで喩えてみたらかえって分かりにくかったので、TVに映った映像をカメラで撮影してもう一度PCディスプレイから出すようなものだと想像してみて下さい。そうすると、PCディスプレイに映る映像は何かしら色がおかしくなったりTVの反射があったりで、TVを直接見た時と異なる見え方になります。

この場合

  • TVに映った映像 = ギターキャビネットの生音

  • それを撮るカメラ = マイク

  • それを映すPCディスプレイ = モニタースピーカーやヘッドホン

という関係になります。だんだんギターアンプの生音とアンプシミュレーターの出す音がそもそも別モノであることが理解出来たのではないでしょうか。

なので、もしギターアンプを弾いた時の方がシミュレーターで弾いた時よりも気持ち良いと感じたとしたらそれはそうだという他ないのです。

キャビネットとマイクは切り離せない

じゃあキャビネットまでの部分でシミュレーションをやめてくれれば完璧じゃん! となりそうですが、物理的な制約でそれは出来ません。そのようなシミュレーションが仮に行えたとしても、出口のデバイスとして例えば「12インチのスピーカーを4発積んだギターキャビネットと全く同じ音量で完全にフラットな周波数特性で再現出来るキャビネット」というこの世に存在しないハードウェアが必要になります。

中身の話はさておき、キャビネットをシミュレートする以上それを拾うマイクの特性もセットでシミュレートされてしまうという事実だけ覚えておいて下さい。

話をややこしくする例外

アンプシミュレーターはアンプとキャビ(+マイク)をシミュレートしていると言いましたが、通常このキャビの部分はオフにすることが出来ます。オフにした状態でパワーアンプを通してギターキャビネットから音を出した時、初めてギターアンプの生音との比較が出来る条件が揃います。

この時も概ね本物のギターアンプの方が気持ち良い音になるとは思いますが、それはシミュレーターの質の問題になってくるので本記事の主旨とはまた別の話になります。

もっと話をややこしくする例外

Kemper KabinetとKemper Koneという機材があります。これらは実際のギターキャビネットからの出音に近い音をシミュレートして出すことが出来るギターキャビネット、スピーカーユニット型の機材です。ここまでくると普段から録ったりライブしたりしていない人にはなんのこっちゃだと思います。Vintage 30のフリをしてくれたりGreenbackのフリをしてくれたりする機材だそうです。が、こちらも本記事の主旨から逸れるので置いておきます。

話を戻して結論へ

本記事でギターキャビネットの生音とシミュレーターから聴こえる人がどう違うのかなんとなく把握してもらえたのではないかと思います。その上で伝えたいことは

  • アンプで出す爆音は最高

  • シミュレーターで出している音は「生音」ではなく「録った音」

  • 録った音の音色にはマイクが非常に大きく影響する

  • シミュレーターの音に拘るならマイクを知ることを避けられない

あたりです。このあたりの理解が進むとアンプシミュレーターでの音作りが非常に楽になると思います。マイクに拘ることに関しては下記の記事が役に立つでしょう。


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