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なぜインボイス制度に反対すると泥棒呼ばわりされるのか


まずは客観的事実からいきましょう。

客観的事実の確認

  1. 免税事業者は請求書に「消費税のように見える数字」を書いても構わない

  2. 課税事業者は免税事業者に支払った金額から仕入税額控除しても構わない

この2つの客観的事実は免税事業者や課税事業者、会社員といった立場によって別の見え方をします。それが意見の食い違いの原因です。まず、表題の通りインボイス制度に反対する免税事業者が泥棒呼ばわりされる理由を説明します。

益税に「見える」から

課税事業者や会社員の目からは、免税事業者が本来納めるべき消費税を国に納めず懐に入れている(益税)ように見える現状が批判されています。

しかし「免税」事業者と呼ばれるくらいですから、消費税を納めないことは紛れもなく合法です。

それでもなお批判され時に泥棒呼ばわりされる理由は次のように説明できます。

: 消費税を納めていないこと
◯: 納める予定のない消費税を受け取っている(ように見える)こと

消費税は誰が納めているか

ほとんどの人は、自分が買い物をする時に消費税を支払っていると感じていると思います。僕もそうでした。

ただ、厳密なことを言うと消費税を納めるのは事業者です。事業者は、後で国に納める予定の消費税を予め商品やサービスの対価として消費者に負担してもらっているだけです。

商品、サービスが消費者のもとに届くまでの過程で事業者間で色々と金銭のやり取りが行われ、各事業者が(免税で無い限り)消費税を納めますが、最終的に「お金を払ってくれる相手」が行き着く先は消費者です。なので消費者が消費税を納めている「ように見える」のです。(負担はしている)

免税事業者が実際どうしているか

ここまで読むと、免税事業者は消費者に対して消費税にあたる金額を上乗せして払ってもらう必要が無いのでは?と思われると思います。それはその通りです。

例えば免税事業者が100円で売りたい商品があった場合

消費税(にあたる金額)を上乗せする場合

消費者から受け取る額: 100 + 100 * 0.1 = 110(円)
お店が納める消費税: 0(円)
お店に残る額: 110(円)

消費税(にあたる金額)を上乗せしない場合

消費者から受け取る額: 100 = 100(円)
お店が納める消費税: 0(円)
お店に残る額: 100(円)

となるので、捉えようによっては免税事業者が単に消費税率分だけ価格の高い人達に見えるでしょう。もしくはタイトルでも書いたように泥棒に見えるかもしれません。

ただし、免税事業者が消費税にあたる金額を上乗せして請求することは法律で禁じられていません。(禁じられていたら、免税事業者が支払った経費に含まれている消費税相当額が控除出来なくて丸損です。)

合法であること VS 筋が通っていること

ここで法律というある程度客観的な基準と感情論のぶつかり合いが生まれます。

免税事業者が消費税にあたる金額を上乗せして請求しても法律上なんら問題ないですが、消費者からは自分たちが支払った(と思っている)消費税が国に納められず横取りされているように感じてしまうかもしれません。

もう少し細かく免税事業者側の言い分を掘り下げると、彼らは消費税が還ってくる可能性を絶たれるというリスクも受け入れています。消費税が還ってくる例を挙げてみましょう。

売上: 550万円
消費税にあたる金額: 50万円
使った経費: 660万円
経費に含まれる消費税にあたる金額: 60万円

この時課税事業者であれば差額の10万円が確定申告や決算の際に還ってきますが、免税事業者の場合は10万円払い損の状態になります。

そもそも赤字じゃねえかそんな事業やめちまえ!と思われるかもしれませんが、例えば海外との取引が多い事業者の場合はどうでしょうか? 極端な例を挙げますが、アメリカのクライアントとしか取引しないけど経費は全部国内で使う事業者がいたと仮定すると、下の例の場合20万円分の還付のチャンスを逃していることになります。

売上: 550万円
消費税にあたる金額: 0万円
使った経費: 220万円
経費に含まれる消費税にあたる金額: 20万円

もちろん、逆に海外で経費を使って国内クライアントとだけ取引する免税事業者はめっちゃ得することになります。プラグインを直販で買ってる免税事業者の音楽家なんかはこれに近い状態になるかもしれません。

話がややこしくなってきましたが、免税事業者が消費税にあたる金額を請求額に上乗せするのは合法とはいえ100%筋が通っているとは言い切れませんがちゃんと一定の理もあります。

冒頭に書いた、免税事業者が泥棒に見える理由に免税事業者の言い分を追加するとこう言えると思います。

: 納める予定のない消費税相当額(のように見えるただの報酬)を受け取っている
◯: 受け取ってる消費税相当額は全部が全部懐に入る計算ではない

もうちょっと堅い言い方をすると仕入れに含まれる消費税相当額が控除されない代わりに預かった消費税相当額も納めなくてもいいのが現在の免税です。

なので、その結果免税事業者の手元にプラスが生じやすくなったのは免税制度を設計した国側のミスで、そのミスを認めないまま無理やりインボイス制度という関係のない制度の中で免税枠を(事実上)撤廃しようとしているからややこしいのです。

泥棒呼ばわりしてくる人たちの特徴

ここまで言ってもなお免税事業者を泥棒呼ばわりしてくる人が後を絶ちません。彼ら3つの属性に大きく分けられます。

  1. 消費税への理解が不十分で感情論をぶつけている

  2. 消費税を理解した上でSNSでのインプレッションを稼いで影響力を高めたい

  3. 消費税を理解した上で、本当は自分達が泥棒だったことに気づかれたくない

1は分かりやすいですね。細かいことは分からないけど何となくズルして儲けてるように見えるからとりあえず叩いておけという人たちです。こういう人を大量に産んで国民をインボイス反対で一致団結させないのがインボイス制度の設計の意図だとしたらそれは大いに成功しています。

2はとてもタチが悪いですが意図は理解出来ます。SNSでの影響力が商売にダイレクトに影響する人たちにとってはモラルの優先度が下がっているケースが多々あります。

3が一番タチが悪いです。冒頭の客観的事実として、課税事業者は免税事業者に支払った金額から仕入税額控除しても構わないと書きました。これはつまり、免税事業者という本来消費税から切り離された存在に支払った金額の中からいくらかを何故か国に納めたことにしていいということです。

これは消費税導入時の国側のミスに見えますが、「自分たちに有利な制度に則って自分達に有利な経理を行なっている」という点では免税事業者のやっていることと何ら変わりません。つまり、見方を変えれば免税事業者と取引のある課税事業者は30余年もの間国に納めるべき消費税を懐に留め続けてきた泥棒なのです。

と言われた時、果たして3の人たちはどういった反応を返すのでしょうか? ここで「法律がそうなってるんだから文句言うなよ」という人には免税事業者を批判する資格はありませんよね。

何故「免税事業者」という枠が設定されたのか

免税事業者に話を戻しますが、そもそもなぜ消費税の納付をしなくていい事業者がいるのか。雑に説明すると1989年に消費税が導入された時に小規模事業者は消費税の申告と納付を行う事務負担、税負担に耐えられないだろうから消費税は納めなくていいよという理由で免税事業者という枠が生まれました。

個人的には累進課税の一種かなと感じているので所得税率が所得に応じて変わるのと大差ない話だと思っているのですが、人間は他人が自分より優遇されるのが大嫌いなのでそんな理屈は通じません。

免税事業者の枠が設定されたコンセプトは守られるべき尊いものだと感じるので、これを守りつつ免税制度の形だけを変えられるのが望ましいです。

本当に免税事業者は悪くないのか

ここまで一貫して免税事業者に肩入れする書き方をしてきましたが、厳しい言い方をするとインボイス制度に反対している小規模事業者の多くが消費税を正しく理解しようと努めているように見えないこともまた問題です。

小規模事業者の中には「ギャラか仕事がなくなっちゃう! 事務作業めんどくさい! やだ!」くらいの温度でインボイス制度に反対している人も少なくないと思います。それが悪いとは思いませんが、インボイス制度から自衛しなければならないのに制度の問題点を把握しようとしないノーガード状態でいるのは抗う準備が足りていないと言えなくもありません。

なので、免税事業者もそれに石を投げる人もどちらも悪くないのですがどちらも現状を変えるために出来ることがあったと言えます。

インボイス制度はどうするべきだったのか

敢えて過去形で書いてしまいましたが、インボイス制度は本来この免税事業者の問題と別物として議論されるべきものです。消費税率が一律でない以上インボイス制度自体が必要であることはその通りだと思います。

なので、本来インボイス制度は「ちゃんと正しい請求書を書きましょうね」だけでよかったはずです。そこに免税事業者の議論を混ぜたせいでこんなにも話がこじれているのです。

免税事業者という枠をキープしたままインボイス制度を違和感の無い形に落とし込むのであればこういう形が考えられると思います。

もし免税事業者という枠を無くしたいのであれば

消費税に関する国の姿勢には要所要所で「消費税ってややこしいよね。でも時間をかければ皆理解してくれるよね。理解してくれたら皆納められるよね。」みたいな匂わせはあったように感じています。

インボイス制度導入で本当にやりたかったのが実質的増税だと言われるのはこの姿勢が消費税導入からの34年間チラチラ見えてきたからではないかと思います。

問題なのは「実質的」増税という部分です。一番良いのは「そろそろ消費税について広く理解してくれたと思うから免税事業者っていう枠を無くすね」と正々堂々発信することで、一見関係のないインボイス制度の設計の中でこっそり無理やりこの課題を解決しようとしたからこれだけ反対意見が出ているのです。

要するにこすいやり方をするから反発されているわけです。

免税枠を撤廃する理由の説明として一番国民の理解を得やすい形は

  • 1989~2004年は消費税導入経過措置の第1段階

    • 売上3,000万円以下は免税

  • 2004~2023年は経過措置の第2段階

    • 免税点を1,000万円に引き下げ

  • 2023~2026年は経過措置の第3段階

    • 免税事業者枠は廃止するがみなし仕入率は高めに設定

  • 2026年からは皆で消費税を納めましょう

    • でも小規模事業者のために簡易課税は残しますね

    • 旧免税事業者はみなし仕入率をもっと有利にしますね

これじゃないかなと思います。多分これだったら渋々納める人が多かったと思います。

あとは前章で挙げた記事でも書きましたが事務負担の増加もまた増税考えるとインボイス制度は社会への負荷が不必要に高すぎます。

得られた教訓

  • 多くの人は自分より優遇される他人を許せない

  • 法律に筋が通っているとは限らない

  • 過ちは素直に認めて向き合った方が揉め事が起きない

  • 国は揉め事が起きようがゴリ押し出来る権力を持っている

  • 国民はちゃんと国の仕事を普段から監視しよう

  • 国は国民から監視されているという意識を持とう

  • こんな状況でもインボイス制度は無慈悲に開始します


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