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ギターでゲーム音楽を台無しにしないために

アーティストとして、アーティストのサポートとして、スタジオでetc...ギタリストがギターを弾く目的には様々なものがありますが、今回はゲームのBGMとしてギターを弾く時に気をつけたいことを纏めてみます。


そもそも台無しとはどういうことか

ギターでゲーム音楽が台無しになるでしょうか? なります。音作りからフレージング、録り方、ミックスの仕方など原因は多岐にわたります(この記事で詳しく説明していきます)が、ギターが上手く機能していないゲーム音楽は下記のようになりがちです。

・楽曲全体の雰囲気が古臭い
・楽曲の音量が物凄く小さい
・ボイス/効果音が聞こえない
・ゲームのムードとギターのテンションが合わない

まずこれらを解決するためのゴールを設定します。

満たすべきゴール

戦国BASARAで「ゲームBGMのためにギターを弾く」という仕事を始めて以来10余年の間様々なゲームでギターを弾いて来たのですが、ギターの音がゲームに貢献しているか否かは実際のギタリストの演奏技術とはあまり関係が無く、寧ろ「ゲームのためのギターの弾き方、録り方、ミックスの仕方」を心得ていることが大事です。

「じゃあ劇伴のギターの弾き方をすれば解決出来るんじゃないか」という当然の疑問が湧くかと思うのですが、それに対する答えは半分がイエスで半分がノーです。BGMの中でのギターという意味ではゲームもアニメもドラマも恐らく共通していますが、ゲームの中のギターは「いつ声や効果音が被ってくるか予想が出来ない」という異質な条件を持っています。

また、ゲームのBGMはインタラクティブミュージックが普及したとはいえまだまだループするものが主流です。ギターという楽器は良くも悪くも目立つものですが、使い方を誤るとプレイヤーにループ感を強く意識させ、ゲームの没入感を阻害します。

というわけでゲームBGMのギターは下の3つの要素を満たしてなければいけません。

・ボイス、効果音を「どんな時も」邪魔しない
・プレイヤーの没入を邪魔しない
・かっこいい

歪みについて

ゲームにおけるギターの扱いで最も厄介なのはディストーションと言っても過言ではありません。

ディストーションの前にまずはアコースティックギターの話をしましょう。おめでとうございます! フォークギターもガットギターも難しく考えなくてもゲームの邪魔になるような音色ではありません。ギタリストはただ演奏に集中すれば大丈夫です。

問題はエレキです。クリーン、クランチは概ねどんな状況でも良い仕事をするので、曲に合ったギター、音色選びが出来ていれば問題ありません。しかし、エレキギターは歪んでいれば歪んでいるほど帯域、音像を埋め尽くして他の音が鳴らせなくなります。なので定位がセンター寄りであればあるほど歪みは邪魔になります。バッキングは左右に動かせるのでまだ何とかなりますが、どうしてもディストーションが必要な場合は「こんなに薄い歪みで弾くの?」くらいの状態で弾くことをオススメします。要はエンベロープが真っ平らにならないことが大事です。

もしゲーム全体のムードを象徴、牽引する楽曲としてメタルというジャンルが選ばれてどうしても深い歪みが必要な場合はある程度効果音の方に引っ込んでもらう交渉が必要になるでしょう。または、メタルを選んだ時点で音の演出がある程度制御不能になるのは織り込み済みかもしれません。ただ、リードギターはそれでも薄い歪みで弾く努力をするべきで、後述のマイク選びやフレージングでも解決する必要があります。同じフレーズなら、薄い歪みで弾いた方が抜けが良くボイスや効果音との分離も良いです。その分BGMを大きな音量で鳴らせるので音演出全体の迫力も出ます。

何故音が大きくなければならないかというと、ロック/メタルは大きな音で鳴らないと違和感があるからです。それはお前がメタラーだからだろとツッコまれそうですがそういうネタではなく、ロック、メタルはクラシックやジャズと同じ音像サイズで聴くと圧倒的に高いLUFS値を示して然るべき音楽です。例えば壁のような音圧のメタルが繊細なピアノソロ曲と同じラウドネスで鳴ったら変ですよね。

限界まで音量を絞ったピアノやオーケストラの弱奏は演出として何もおかしくないですが、ロック/メタルが小さな音量で流れるとシンプルにチープになります。

こうした工夫をせずにギターを弾いてゲームに実装すると、びっくりするほどディストーションギターは聴こえて来ず、ほぼノイズとして認識されます。ノイズになるということは当然効果音やボイスも聞こえ辛くなり、結果としてBGMの音量を下げるという選択に繋がります。何故音量を下げてはならないかは先述の通りです。歪みの扱いには細心の注意が必要なのです。

一方で、もしゲーム側の発音数が少なくボイス演出もまばらであれば全く逆のシナリオになります。楽曲が演出面において占めるウェイトが大きいので、ボイスや効果音が語れない分まで遠慮せずギターの音色で説得力を持たせて下さい。

フレージングについて

前項の最後に書いてある通り、どの程度音楽以外の音が鳴るゲームなのかによって調節して下さい。という前置きをします。ここでは音が飽和しがちなアクションゲームを想定して書いていきます。

アコースティックやクリーン、クランチなど、トランジェントが急峻なものについては難しく考える必要はありません。曲の魅力を引き出すフレーズを素直に弾けばOKです。

ここから先では

・ディストーションギターの問題点
・ジャンル、スタイル、フレージングでの対処法
・アンプの音作りでの対処法
・スピーカー、マイク選び、マイキングでの対処法
・ミキシングでの対処法

について解説します。

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