結局インボイス制度で何が変わったのか
2023年10月に導入されたインボイス制度ですが、施行直前には事業者の大規模な反対運動があったものの導入後は比較的反対ムードが鎮静化し皆諦めて受け容れたように感じている方もいらっしゃるんじゃないかと思います。
受け容れるか否かで言ったら受け容れるしかないわけですが、多くの事業者は怒りや無力感を既に感じているのではないかと推測します。少なくとも僕はとっても怒っています。
また自分は関係無いと思っていたのに蓋を開けてみたらめちゃめちゃ自分にも関係があったという人が沢山いるんじゃないかと思います。
本記事では結局事業者の間で何が変わったのか、どのような影響が出たのかをかなり主観的に、若干の邪推を交えつつ音楽家、クリエイター目線で考えてみます。
請求書のフォーマットが変わった
インボイス登録番号以外にも、請求書に記載しなければならない項目がいくつか増えました(取引月日や項目ごとの消費税率等)。それ自体は、一度テンプレートを見直してしまえばそれで終わりなのであまり大きな問題ではありません。
しかしこれは発行する側の手間です。受理する側の手間としては安全を期するのであれば項目ごとの日付や税率が適切かに加えインボイス番号が実際に当該事業者に割り振られたものか、その番号での登録が現在も続いているかを毎回全請求書、全項目に対して確認する必要が生まれました。
また、初めのうちは「すいませ〜ん、この請求書だと受理出来ないので修正して再度郵送してくださ〜い」みたいなどちらにとっても面倒なやり取りが発生することでしょう。心当たりのある方もいらっしゃるんじゃないかと。
1めんどくさいポイントを獲得です。
知りたくない他人の年収を把握させられる
これまでに取引のあった事業者に対して「インボイス登録はお済みですか? お済みでしたら番号は何番ですか?」という確認の連絡を制度導入前に片っ端から入れる必要がありました。マイナンバーの時もそうでしたが、驚くほどの手間がかかっています。
マイナンバーの時と違うのは、インボイス番号の確認が極めてデリケートな質問であるという点です。インボイス番号の確認は、ほぼそのまま「あなたの売上は年間1,000万円に到達していますか?」という質問と同義になるからです。
インボイス登録していない場合ほぼ確実に売上が1,000万円に満たない事業者です。大企業から個人クリエイターに対して事務的に質問するならまだマシかもしれませんが、個人規模の事業者が知人、友人レベルの事業者に対してこの質問をするのははっきり言ってお互い精神的に地獄でした。なぜ知りたくない友人の売上を知らなければならないのか。
もちろん、今後新規で誰かと取引を行う場合は必ずこの質問をしなければなりません。なので、新しく誰かに仕事をお願いする精神的ハードルが非常に高くなったと実感しています。
15めんどくさいポイント獲得です。
価格交渉しないといけない
インボイス登録していない事業者と取引する場合には価格の交渉が必要になったりならなかったりします。
非登録者に支払った報酬から消費税の仕入税額控除が受けられなくなった分に対して誰がどう負担するのかを全ての取引について経過措置の期間別に考えなければなりません。しかもこれはケースバイケースになりがちです。
2026年9月末までであれば約1.96%減額、2029年9月末までであれば約4.76%減額、2029年10月以降であれば約9.09%減額までが筋の通った割合だと把握していますが、こればかりは取引の頻度や関係性、原価率により変えざるを得ません。
原価率が高いとこの記事のようなことが起こります。
また相手がインボイス制度に詳しければ話がスムーズですが、そうでない場合は毎回インボイス制度の概要を説明する必要があります。
20めんどくさいポイント獲得です。
クレカの請求明細でゴリ押しできない
WEB通販でポイポイ買い物しているとどのサービスで何回、いくら買い物したかは忘れてしまいがちです。特にダウンロード販売やサブスクなどは。
これまでは1回あたりの決済額が3万円に満たない場合は領収書が無くてもクレカの請求明細だけで経費計上することが許されていましたが、インボイス制度導入後はこれら1つ1つの買い物全てについて、各WEBショップに問い合わせて領収書を発行してもらわなければならなくなりました。おそらく年始あたりに個人事業主の皆さんの悲鳴が日本中で上がることでしょう。
(ただし、施行後6年間は1万円未満の買い物については引き続き領収書なしで経費計上できるそうです。)
30めんどくさいポイント獲得です。
領収書を発行してくれないサービス
メルカリやヤフオク、Peatixのように、経費性のある買い物をした場合でも適格領収書が発行されないサービスがあるので、仕入税額控除を受けられないことや、最悪経費計上できないことを覚悟して使う必要があります。
8めんどくさいポイント獲得です。
タクシーに乗りづらい
都市部で十分に企業のタクシーが走っている場合それほど気にしなくてもいいのですが、個人タクシーに乗らざるを得ない場合、乗車前に必ず「インボイス登録をされていますか」と確認をとるようになりました。
この質問をすること自体面倒ですし、していないと言われたらこちらとしてはそのタクシーを見送って別のタクシーを待ちたいので相手にとっても迷惑な話だと思います。
これも「全て個人タクシーはインボイス登録を基本的には行う」という曖昧な方針が示されたからです。
かといって配車アプリでタクシーを呼んだ場合は前述の通り後で領収書を全ての乗車分について発行しなければなりません。
3めんどくさいポイントを獲得です。
飲食店を利用しづらい
同業者との会食に個人経営のいい感じの飲食店を利用する際もインボイス登録を行っているか確認するようになりました。というか、プライベートで外食する際も雰囲気の良いお店であれば退店までにさりげなくインボイス登録の有無を確認するようになりました。非登録であれば会食の候補から除外するからです。
2めんどくさいポイントを獲得です。
合計79めんどくさいポイントに到達しました。めんどくさいポイントってなんだ??
企業の対応から考えられること
サンプル数の多くない話を記事で扱うなと怒られそうですが、冒頭に主観的にいくと書いたのでご容赦下さい。
インボイス制度導入後、外部の個人事業主やフリーランスとの折衝が発生するポジションの人は突然事務作業が面倒くさくなって困惑していることと思います。
人から聞いた話ですが、会社によっては
新規取引は原則インボイス登録済事業者に限る
インボイス非登録事業者との取引は以下の場合以外控える
継続取引であること
どうしても他に頼めないこと
というお達しが全社レベルの号令で発せられたケースもあるようです。いわばインボイス足切りです。
勿論そうでない企業の話も聞きますが、その違いはおそらく外部委託先の事業者の平均的な売上に依存するのではないかと推測しています。
つまり、基本的に年間売上が1,000万円に満たない事業者の多い業種では委託先の選定の際にインボイスの登録の有無をシビアに気にすることがなく、年間売上が1,000万円を超えている事業者が多数派になる業種ではインボイス登録済事業者を優先するという風潮になっているのではないかということです。
あくまでこれは個人の妄想ではありますがこれは辻褄の合う話だとも思います。同時に不当に厳しい世界だと思います。
「法人格を持たない事業者には業務を委託しない」という明確なポリシーを持っている企業もあるので今更インボイスの登録の有無での足切りが発生することに驚く方も少ないとは思いますが、より嫌な世の中になったとは言えるんじゃないかと思います。
消費税収が増えそう
財務相の「インボイス制度は増税目的ではない」という発言に反して案の定消費税収増が見込まれているそうです。物価もびっくりするほど上がっているため一概にインボイス制度のせいとは言えませんが。
だからどうする?
抜け道が無くどうすることもできないのがインボイス制度なので、残念ながらできることはあまりないと思います。登録された方は粛々と制度に対応しましょう。
ただしインボイスの登録は後からでもできますし、登録事業者が登録を取り消すことも後からできますので、最終的には自身の業態に合った選択をするのがいいと思います。
一方でこれは昨日までインボイス登録事業者だった外部委託先が今日からインボイス非登録になったという可能性を示唆するものなので、小規模事業者に対し業務を依頼する事業者は今後永久的に取引先の登録状態を確認し続けることになるんだろうなと思います。
まとめ
個人的に身の回りで起きた変化の話を中心に書いてきましたが
とにかく面倒くさくて
人間関係がギスギスする
世の中になったなと実感しています。面倒くさいというのは時間をとられるということでもあるので、売上につながる活動にかけられる時間は少しだけ、でも間違いなく減りました。
生産的な時間は2024年以降電子帳簿保存法の改正によって更にもう一段階減るので、新年を迎えるのが今から少しだけ億劫なのでした。
始まった制度は未来永劫撤廃出来ないというわけではなく見直しが許されないものでもないので、インボイス制度が事業者にとって悪法だと理解したタイミングからでも政治により目を光らせた方が良いかもしれません。
過剰な政治批判は必要ありませんが、生産性の無い事務負担を負わされている事実は忘れないようにしておきたいものです。
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