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何故ラウドネスを測るのか

ラウドネス基準が放送や配信で設けられて久しいですが、そもそもラウドネスと一言で表現した時にどんなものを指していて、それを誰が何故導入するようになったのかを浅い下調べとふわっとした理解で推測まじりに書いてみます。推測が混ざっているので、間違っていたらこっそり優しく教えてください!

放送業界から始まった

00年代までのテレビを見ていて「CMの音が大きいなあ」とか「番組/局ごとに音量がバラバラだなあ」と感じたことはありませんか? 原因の一つに当時の放送の音量制限がありました。あまり詳しくないのですが当時は「RMSで-20dBFSを超えなければOK」といった緩い指針で番組が放送されていたそうです。

しかし人間の耳の感度には周波数特性があり、RMSが同じでも人間が耳で感じる音量にはばらつきが生じてしまいます。例えば3〜4kHzあたりに成分を集めてしまえば、ルールを守った状態で爆音を実現できるわけです。そこで、より人間の聴覚上の音量に近い値を表すラウドネスが導入されるようになりました。この辺の背景はiZotope JapanのTwitterの中の人の上司の記事に詳細があります。

K特性による重み付けを行うので単位がLKFSと呼ばれたりもしますが、とりあえずLUFS(Loudness Unit Full Scale)という単位を覚えておけば大丈夫です。

ちなみに局や国によって従っているラウドネス基準がまちまちだったりはしますが、大体-23LUFS Integratedあたりとされているので、音楽を作る人達からするととてつもなく音量が低いことが分かります。その分膨大なヘッドルームやピークマージンを取れるので、どうしても大きな音が必要な時でも遠慮なく音量を出すことが出来ます。ちなみにTrue Peakの値も(基準によりますが確か-2.0dB前後で)制限されていたりしますし、ぴったり基準値に一致していなくてもこれくらいの数字であればズレていても大丈夫だよという許容量(Tolerance)もあります。

まとめ
・昔のTV放送は音量にばらつきがあった
・音量制限の基準が人間の聴覚と一致していないことが原因だった
・なので人間の聴覚に近いラウドネスが基準になった
・基準はかなり低い値なのでヘッドルームが広く取れるようになった

ゲーム業界が追従

TVゲームをTV番組と切り替えながら遊んだ時にあまりに音量差があると具合が悪いということで、ゲームオーディオ業界が放送業界のラウドネス基準に従ってゲームを作るべきだというムーブメントを起こしました。大体2011〜2012年頃だったと思います。これによりTVゲームの音量がTV番組と大体同じくらいになっただけでなく、メーカー間、作品間でも大体の音量が揃うようになってストレスなくゲームを遊べるようになりました。

ただし、これは明確な規則でもなければ罰則も無いただのガイドラインなので今もラウドネス基準を無視したゲームは多数存在します。

まとめ
・TV業界のラウドネス基準にゲーム業界も続いた
・ゲーム間やゲームとTV番組の音量差が無くなって快適になった
・でもあくまで努力目標なので気にしないメーカーは今でも気にしない

音楽、動画配信も賛同

音楽の音量はTV番組やゲームオーディオと違って長年無法地帯で、少しでも大きな音を詰め込んだ人が勝ちという状態が続いていて、これが音楽のミックスの本来の魅力を損ねていました。

それを見かねたのか、放送業界の音量基準に綺麗に揃えられた状態の快適さを見習ったのかPLoudが頑張ったのか僕には分かりませんが、SpotifyやApple Music等音楽、動画配信プラットフォームでも音量が再生時に特定のラウドネス値に揃えられるようになりました。

音圧戦争の末期ではラウドネスが大体-5LUFS前後(狂気!)まで到達していたのが、配信プラットフォームの基準により大体-14LUFS前後まで強制的に音量が下げられるようになったのです。これは「ピークが0dBを超えないことだけを考えてマキシマイザー、リミッターを何も使わずに音楽を作った時に達しがちなラウドネス値」です。(僕調べ)

これを音楽家がどう理解してどう対処すべきかは下記の記事をご覧下さい。

まとめ
・音楽/動画配信プラットフォームにもラウドネス基準が導入された
・音圧戦争が終わった!!
・表現のことだけを考えて音楽/ポストを作れる時代に

3つのラウドネス

以上が長い前置きでした(すみません)。ここまで一貫してラウドネスという言葉を使ってきましたが、ラウドネスには

・Integrated Loudness
・Short-Term Loudness
・Momentary Loudness

という3つの計測方法があります。

Integrated Loudnessはここまで書いてきた音量基準に用いられる計測方法で「波形/プログラムの冒頭から末尾までのラウドネスを計測したもの」です。Integrated Loudnessをその波形を聞いた時の全体的な印象と近づけるために極端に音量が低い部分を計測から除外するゲーティングについてはiZotope RX 8のヘルプドキュメントに書いておいたのでご覧下さい。

これに対し、Short-Term Loudnessは3秒の測定窓を移動させる方法で算出されます。これは直近3秒を測定範囲(窓)としてその窓を随時後ろに動かしながら計算していく方法なので、瞬間的なラウドネスの上昇に反応し過ぎることはありません。音楽においては例えばサビの音量感、Aメロ/Bメロの音量感をそれぞれ可視化するのに適しています。多分。

Momentary Loudnessは400msの測定窓を移動させて計算されます。こちらは窓が十分に短いので突発的な音量の上昇にも反応します。

まとめ
・ラウドネスと言っても3種類ある
・基準や規格について語る文脈ではIntegratedを指す

ラウドネスレンジとは?

ラウドネスメーターを見ているとLRAという謎の数字に気づくかと思います。これはLoudness Rangeと呼ばれる値で、その波形/プログラムの静かな部分とうるさい部分の音量差がどの程度あるかを示すもので、ダイナミックレンジやクレストファクターとは別のものです。

ではラウドネスレンジはどのように算出されるのかと言うと、こちらもまずゲーティングが行われます。特定の絶対値(-70LUFSあたり?)を下回る部分はまず計算から除外されます。

続いて、絶対値ゲートを入れた後に算出されたIntegrated Loudnessから特定の値(規格によりけりだけど-20〜-8LUくらい?)だけ相対的に小さいラウドネス値でゲートを入れます。例えばIntegrated Loudnessが-20LUFSだった場合-40LUFS以下の部分は測定から除外します。これらは無音部分やバックグラウンドノイズ、音楽のフェードアウト部分等、重要でない情報がラウドネスレンジの計算結果に影響を及ぼさないようにするためです。

最後に、2つのゲートを入れた後に残った測定値から音の小さな部分と大きな部分を数%ずつ除外します。これにより、音量の偏り具合に左右されないラウドネスの分布、つまりラウドネスレンジを測定することが出来るのです。平均値と中央値は違うよねみたいな話です。

まとめ
・ラウドネスレンジは波形内でラウドネスがどの程度広く分布するかを表す
・そのために色々ややこしいゲーティングや切り捨てが行われている

さいごに

ラウドネスに関する数値の意味を理解することで、自分がミックスしている楽曲/プログラムの音量を正しく把握することが出来、自信を持ってファイナルミックスやマスターの音量、ラウドネスレンジを決めることが出来るようになります。

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