食べ物のイベント

 なんだかものすごい勢いでパンを仕込んで参加した。そう、食べ物のイベントが市の主催で二日間にわたってあった。と言っても、過去形じゃおかしいか、今日はその二日目である。今頃は、本当なら大量のパンをガンガン作っている時間だが、流れを見て今日は作らないことにした。そのことはこの後の話で出てくるとして、新参者の私のような個人店に声がかかったのは、諏訪市の菓子組合の会員になったという理由以外に何もない。
 そもそも、このような組合があることすら知らなかったが、諏訪保健所をトップに、下部組織として幾つもの団体があり、保健所業務の一部が委託されて動いているという軸がある。その他の機能として、こういったイベントへの参加なども取りまとめられているらしい。
 食品の製造販売をする時は必ず保健所の許可が必要で、その施設と、営業をする人物が保健所の規定する要件を満たしている必要がある。施設の申請をして検査を受け、適合と判断されると「食品営業許可指令書」という名称の営業許可をもらう。営業者は、業種に見合った規定の講習を受けて、私のような製パン業者は営業する箇所に「食品衛生責任者」の資格を持ったものが必要になる。これを取得し、以上の二点が揃ったところで開業という運びになる。そして、ところてんのような流れで諏訪市の菓子組合に入ったほうが何かと都合が良い、という説明を受ける。だから加入したという話だ。加入は任意だが、私の経験上、この土地で商売をするなら地元の人間らしく、地元の組織に入っていないと何かと守られないもので、加入しないだけで除け者みたいになるのはわかっていた。それだけの理由なので、お付き合いは適度にするというものというのも了解している。
 組合長をしているのは和菓子屋さんのご主人で、私のお店から徒歩で5~6分の、国道の反対側の商店街にそのお店がある。8月に保健所から連絡を受けて早速、足を運んでくれた。その時の世間話の中で聞いたのだが、和菓子屋さんがどんどん減っているらしい。ほとんどのお店は、後継ぎがいないのだという。約5年で組合員が半減するらしい。今まで客としてしか知らなかったあの老舗もあの和菓子屋さんもだと、脳内で市内地図を描いていた。現在の店主が皆、閉店すると言っているらしい。なんだか、それだけでもしょぼーんな、先細り街道まっしぐらという寂しさだ。まあ、私は時代に逆行しているとも思われているかな。 
 今回のイベント参加は、このお付き合いの流れだったため、例年の売れ行きや入場者数などを聞いて参考にしたが、こういうパンもありますよ的に紹介できたらいいかなという程度の欲しかない。そもそも一人でやっているお店なので、作るにも限界があるし、できることも一人分だ。大きなダメージも受けない代わりに大儲けなどもできるはずがない。ということで気は楽なんだけど、それにしても来場者の数が激減したらしい。
 話に寄ると、毎年同じ場所に各ブースが割り当てられ、菓子組合の並びはお昼を境に完売するほどの人気なのだそう。ところが、おとなりの寿司屋さんのお店では夕方3時過ぎても山のように売れ残っていた。その向こうのソースカツ丼(大人気店)は、半額にしても売れないとほほな日だと嘆いていた。とにかく、人が少ない。
 私の頭のなかに何があったかというと、「不況」「増税」「少子高齢化」だった。他店の皆さんは、いろいろイベントが重なったためだと話していた。でもなあ、和菓子の職人さんの後継ぎはいないし、この先5年で閉店というし、作って待っていてもお客さんが来ないんじゃ話にならない。そうそう、パン屋さんがもう一店舗、同じブースで売っていたけど、午後1時過ぎに売れ残りのパンを持って帰られた。というか、全く売れていなかった。どうしちゃったのこれ?って、本当に切ない思いをした。
 そういうわけで、今日はパンを新たに仕込むのをやめた。そして、台風で午後は激しく雨になるという。知人の娘さんが二日目の販売を手伝うのだと張り切って夕方きてくれたが、夕食を一緒にしながらそんなしょぼーんな話をしたところだ。 
 本当に切ないなあ。

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