自業自得とは言え、イラクの「ねじれ」に悩むアメリカは今後どうするのか

 24日、バグダッドでイラクのマリキ首相とケリー米国務長官が会談した。 挙国一致政権を拒否するマリキ氏は、挑戦的な演説を行ったが、ケリー米国務長官は、7月1日までに新政権樹立を開始する意向のようだと話している(26日WSJ)。
 イラクのスンニ派居住地域で、スンニ派住民や旧バース党勢力の支援も受けて首都バグダッドを窺う勢いだったイスラム教スンニ派過激組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」は、さすがにシーア派住民の多い地域への侵攻は難しく、政府軍との一進一退の攻防になっているようだが、シリア国境や中部油田など含むイラク北西部にその支配地域を広げてきている。 
 対抗するマリキ政権は、南部からシーア派民兵を募り、更にシーア派の盟主イランやこれに近いシリア・アサド政権の支援を受けるなど、シーア派色を強化してスンニ派対シーア派の宗派間内戦の様相を呈している。
  一方、北東部では混乱の中で北部油田地帯のキルクークを占拠したクルド人勢力(クルド自治政府)が独自性を更に強め、独立も視野にいれた情勢となってきている。
 このような情勢をアメリカ側から見ると、テロ集団ISILの侵攻を食い止め、イラク戦争で多大な犠牲を払って作り上げた「民主国家イラク」を守るために、対ISILという点においては宿敵イラン・シリアと共通の利害を有する形になっている。 場合によってはシリアで敵対しているアサド政権、イランとはこのイラク問題では手を組み、ISIL対策にあたるということもありうる。そういった「ねじれ」が生じた。
 ただ、イランやアサド政権へのこれまでの強い圧力により、両国への不信感も根強く、さすがにそれはないだろうというところもあるし、もし、そういった協力体制になれば、サウジアラビアを中心とするスンニ派湾岸諸国との抜き差しならない関係に陥る懸念がある。できれば、シーア派に偏重した結果「民主化イラク」をぶち壊したマリキ首相の首を切ってスンニ派・クルド人を含めた挙国一致政権をつくりたいところとは察するが、当のマリキ首相は続投のやる気マンマン。 
 このような情勢で、結果的にアメリカは有効な手が打てない状況になっている。


田原総一朗「安倍政権はイラク戦争支持の過去を総括せよ」(参照
「ニューズウィーク」誌で、政治コラムニストのレイハン・サラムは、「アメリカが03年にイラクに侵攻したのは大きな間違いだった。そして11年に米軍がイラクから撤退したこともまた、大きな間違いだった」と厳しく指摘している。 イラクに侵攻したときの大統領はブッシュ、撤退したときはオバマ大統領だが、両者ともに大きな間違いを犯したというのである。 確かにブッシュ大統領のイラク侵攻は、フセイン大統領がアルカイダと深くかかわりがあり、しかも大量破壊兵器を隠し持っているというのが理由だったが、その事実はなく、いわばイラクを制圧するための言いがかりだった。 要するにアメリカの言うことを聞く「親米政権」をつくりたかったのだ。フセインをつぶせば、イラクは「親米政権」で収まると、簡単に考えていた。歴史が200年しかないアメリカ人には、千年以上のイスラムの宗派の深いもつれ、対立など理解できず、また理解しようともしなかったのであろう。(中略) ラマダン副大統領が言った言葉が、強く記憶に残っている。「我々が核兵器を持っていないから、アメリカは安心して我々を攻める。そしてフセイン大統領を殺すだろう。だが、その後イラクは混乱を極める。収拾がつかなくなる。そのときになってアメリカは初めて、イラクを安定させていたフセイン大統領の能力を思い知るはずだ」 レイハン・サラムによれば、先代のブッシュ大統領の補佐官だったスコウクロフトが「フセイン政権は打倒できるが、政権打倒後、大規模かつ長期間にわたる軍事占領が必要だ」と指摘していたようだ。 イラクはシーア派が多数でスンニ派が少数派である。ところがフセイン大統領はあえて少数派のスンニ派による多数派のシーア派の支配という形を取り、独裁ではあるがイラクを安定させた。 それに対してアメリカは、シーア派のマリキ首相に当然のようにシーア派政権をつくらせて、それでイラクが安定すると考えて撤退したのであった。 それにしても、アメリカではブッシュ、オバマ両大統領ともに厳しく批判され、混乱しながらも、アメリカが犯した深い誤りを総括しようとしている。それに対して日本の小泉純一郎首相は、当時、アメリカのイラク侵攻をはっきり支持し、自衛隊をイラクのサマワに派遣したはずである。(後略)【6月27日 田原総一朗 dot】 


 日本の関わりといえば、この自衛隊をサマワに派遣したことだった。当時は、戦火に自衛隊を送り込むとはなんぞやと、各界の著名人を始め、専門家が寄ってたかって議論した。憲法9条で平和を誓い、武器を捨てた日本がなぜ戦火に自衛隊を送り込むのだという疑問や、小泉政権批判も兼ねて、米国に追従した日本が情けないなどといった世論も飛び交ったのはまだそう昔のことではない。が、どうだろう。支援という形で米国に協力してきた日本が、今現在何を問われているのか、それを意識に置くと、オバマ政権がイラクで直面している問題は他人ごとではない。
 若干オバマ大統領を弁護すると、シーア派のマリキ首相でイラクが安定すると考えた訳ではなく、前提としてアメリカが苦労して作り上げたスンニ派住民の協力体制を維持するということはあったが、それを壊したのはマリキ首相だとも言える。
 しかしながら、完全撤退したことでマリキ首相の独善を許してしまったのはオバマの失政というのはある。これにオバマ批判はあるが、ではイラクに再度深入りするのかという話になると、アメリカの世論は割れて、むしろ厭戦的な気分を強く感じる。
 シリア、ウクライナ、イラクでのアメリカの対応について、弱腰・優柔不断との批判を受けるオバマ大統領だが、それは米国民世論の「外国の戦争に関わりたくない」という近年の声の反映かと思う。賛否両論という結果からも、オバマ氏が結論を出しにくくなっているのもある。これまでの戦争は、大統領権限で決めてきた戦争ばかりだが、オバマ大統領に関しては、議会や世論による決断が多い。だから何もできなくなっているという批判もある。任期中にどのような展開になるのか、または、何も起こさず、このまま放置する以外に道はないのかが気になる。アルカイダやISISの影響が、周辺アジア地域にも及んで来るのは時間の問題とも言える。
 なお、次期大統領をうかがうヒラリー・クリントン氏は、国務長官としては、歴史に残るといえるほどの大きな実績はないと言われているが、「武力行使に前向き」「オバマ氏よりずっと強いタカ派的な本能を持つ」とも言われている。

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