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4.水辺の風景 | 물가의 풍경


漢江とソウル

ソウル都心部の南に流れる漢江はソウルのシンボルだ。雄大な川幅と数多くの橋梁、河川沿岸の景観や公園など魅力的な環境と風景を創出している。当然ドラマにも度々登場するわけだが、漢江についてはいくつか象徴的な使われ方があると思う。

ソウル上空。漢江が雄大に流れる

1つは鉄道で漢江を渡る際の車窓からの川の風景。これは、南側にある庶民の街から、都市の中心部である北側のエリアに移動する、あるいは通勤するという富の格差を暗に象徴する捉え方だ。今や、富裕層が集まる江南も漢江南側に位置するので必ずしも南北問題を象徴するものばかりではないが。

漢江大橋から西を望む。欄干の隙間から写真を撮ってみた。正面に地下鉄1号線が走る鉄道橋が見える

もう1つは、川沿いの高層マンション群の風景を撮すショット。これも最初の使い方と近いニュアンスで使われていることが多い様に感じるが、遠くにあるマンション群と自分の境遇の心理を描くときに使われている気がする。

立ち並ぶマンション群は圧巻だ

3つ目は橋からの飛び降りのシーン。実際漢江での自殺は多いらしく、麻浦大橋の手すりには自殺者に問いかける様々なメッセージが書かれているという。今回はそこまでは見に行ってはいないが。

いずれにしても、物語の中では漢江と数々の橋は必ずしも美しい場所として、あるいは未来を象徴する場所として使われているわけではない。何らか「人生」を考えさせる場の象徴のようだ。

漢江大橋は中央のノドル島を境に橋のデザインが変わる。アーチの美しいこの橋は南側の橋だ

この日の漢江は、非常に夕焼けが美しく、多くの人が橋からスマフォで写真を撮っている。私も自分のカメラで写真を撮ろうとしたら、思いの他川の手すりの高さは高く、しかも上部は円柱状になっていて、手を乗せるとそれがクルクルと回るようになっている。ここから乗り越えられないようにするためだ。下を見ると、水面までは相当の高さがある。確かに飛び降りたらひとたまりもないだろう。

こういうショットはドラマでも結構出てくる気がする

漢江と言えば、もう1つ朝鮮戦争時代の漢江大橋爆破事件がある。北朝鮮軍をソウルの都心に流入させないように橋を爆破したわけだが、そのために韓国軍も数多く犠牲になっている。そんなわけで漢江と数々の橋には悲劇や悲しみがついて回り、必ずしもハレの場ではない、そんな歴史がある。

午後8時頃になってようやく夜が近づいてきた。向こうに見える高層ビル群は汝矣島

戦後、漢江大橋は長い時間をかけて復旧、改良されていくわけだが、今の漢江大橋は観光客も多数訪れる有名スポットにもなった。橋の途中にはノドル島があり、ここを文化芸術の拠点にすべく計画が進められている。この日も若い子達が数多く集まってきており、それぞれに楽しい時間を過ごしていた。

ノドル島。元は廃棄物処理のための島だったという
公園のエントランス。道を挟んで南北はデッキで繋がっている。ノドル島はこれから文化芸術の拠点として大きく様変わりする計画だ。

漢江大橋から夕焼けの方向、つまり西を見ると、遠くに汝矣島の高層ビル群が見える。建物デザインも、建物のライティングも様々で、美しい夕景を見せてくれた。

東京よりも日没がかなり遅く、夢中になって写真を撮っていると8時近くになってしまったので、川からの風に当たりながら、龍山駅の方にゆっくりと引き返した。

龍山方向に引き返すとすっかり夜の景観になった。汝矣島のライティングが美しい

再生された清渓川

ソウル市がこの川の上部に走っていた高速道路を撤去して清渓川を再生したのは2005年だから、もはや20年あまりが経過したことになる。話題になった当時から行きたいと思っていたがようやく見ることができた。

清渓川。都心にある「せせらぎ」が夏の暑さをしのぐ憩いの空間に変わった

今回歩いたのは広蔵市場から世運商街のあたり(乙支路/ウルチロ)だからほんの一部だが、週末の昼下がりに市民や観光客が思い思いの時間を過ごしている。街の喧騒から3メートルほど下がった水辺に降りると、視界は川と緑に包まれるイメージとなり都心に居ることを忘れられる。読書や昼寝ををしている人も多いが、ふと視線を上げると、歩行者専用橋の上では、アジョシ達が昼間から楽しそうに仲間と焼酎を飲んでいる。やはり韓国だ。多様な人間模様が見られるという意味でもここはちょっと面白いかもしれない。

橋の上でもなんか楽しそうだ

この一帯は戦後しばらくの間は貧困世帯の住む地域であり、「清渓川あたりで働いている」というのはすなわち工場労働を意味し、河川の汚染・公害問題も発生した地域だった。小説でもそのような懐古シーンが出てくることがある。清渓川は都市河川らしからぬ、せせらぎのような川である。水は漢江からポンプアップした水を循環させているので厳密に言うと河川ではなく、親水空間である。それでも、清渓川の再生はソウルが経済発展を遂げた象徴として、ソウル市民の自然的な憩いの場を提供した取組として大きな意味があったはずだ。

本を読んだり、ジョギングしたり
電話したり

そんなことを考えながら歩いていると世運商街に着いた。ここは言わば秋葉原のような一角なのだが、この話はいずれまたということにしよう。

地元の女子達が賑やかに川を渡っていく
ドラマ『ヴィンチェンツォ』の舞台となった世運商街。電気機器関係の個店がびっしりと入居する秋葉原のようなビルとその一帯だ。乙支路4街駅近く

港町、釜山

「釜山港から影島に架かる橋は昔は跳ね橋で、船が通る度に橋が跳ね上がっている風景を見ていたのをよく覚えていますよ。」

チャガルチ市場ビルから見る影島

毎週土曜日に30分間韓国語のレクチャーをしてくれるユン先生は、釜山の話をすると懐かしそうに語った。幼い頃、釜山に住んでいたらしい。

今、釜山の臨海部はなかなかホットである。リゾートマンションの風景、橋の夜景の演出、島でのリノベーションの進展など。釜山駅背後の広大な工場跡地では劇場の建設の他いくつかのプロジェクトが渋滞待ちの車のように列をなして自分の登場を待っている状態だ。

釜山駅から見る釜山港、沿岸開発

華やかな景観にはあまり興味がない方だが、漁船や大型船が停泊する港の風景には心躍らされるものがある。チャガルチ市場の背後には無数の大型漁船があたかも駐車場のように縦横に停泊し、圧巻だ。早朝の市場で朝食を食べ、市場ビルの展望デッキに登ると影島の向こうに朝日が見えた。先生の言う「跳ね橋」は多分この橋だろう。

漁港の風景。漁船の数が圧巻である

夜、再度港に足を運ぶと遙か南にあり、松島と影島を結ぶ南港大橋に綺麗なライティングがなされており港の景観に彩りを与えていた。余談になるが、ソウルでは都市景観を形成するための計画とは別に、夜間景観の計画も作られている。国を挙げて都市のアイデンティティを確立し、さらなる観光誘致を目論んでいることが窺える。

南港大橋のライティング

チャガルチから少し北に行くと釜山港があり、さらに北に行くと釜山駅に着く。釜山駅の裏は埋め立て地となっており、海が近い。現在そこにはオペラハウスが建設中であり、広大な空き地は大規模な公園になるようだ。さらに北に行くと海雲台のリゾートと芸術文化エリアになるが、今回はそこまではたどり着けなかった。釜山国際映画祭のメインホールも海雲台のエリアだ。オールド釜山とは全く異なる世界が広がっていることだろう。

背後の山と高層マンション群、多くの船舶と貨物ヤード。ある意味釜山らしい風景と言えるだろう。

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