「人体の衝撃耐性」と「バイクに乗ること」

 交通事故関連の学術論文をいくつか拾い読みしていて知ったのだが、どうやら「55歳を過ぎると人体の衝撃耐性はひときわ低下する」というのが定説らしい。交通事故によって同じような外傷を負っても、55歳未満より55歳以上の方が重篤化しやすい、というのだ。

「年齢を重ねるにつれて、人体は衝撃に弱くなる」とは、いかにも想像しやすい話だ。年を取れば外郭である筋力が落ちていき、柱である骨が脆くなるのだから、当たり前といえば当たり前、自然の摂理というものだ。しかし、自分の体に当てはめると、なかなかイメージしにくいものでもある。

 特にバイクに乗っていると、いわゆる人車一体感に惑わされて、自分の身体機能については思いが及びにくい。衝撃を受けない限りは分かりようがない衝撃耐性ともなれば、なおさらだ。

 僕が拾い読みした論文は交通事故全般を扱うもので、バイクの事故においてこれがどう当てはまるのか、までは言及されていなかった。だからといって、無関係であるはずもない。バイクは、体そのものをほぼ剥き出しにして走る乗り物で、そもそも事故の際に負傷しやすいのだ。さらに加齢によってダメージが大きくなりやすくなっているということも、かなり強く認識しておいた方がいいんだな、と思った。

 バイクに乗るにあたっては、まず事故を未然に防ぐことが何よりも重要だ。バイク雑誌に多数掲載されているライテク記事の中には、アクティブセーフティに大いに役立つものもあるだろう。また、事故に遭ってもダメージを減らすよう、装具をしっかり調えるといったパッシブセーフティも大切だ。しかし事故で負傷した時に、加齢という要因によって助からない可能性が高まっていく、ということなのだ。

 反射神経や技量により事故を避けるというアクティブセーフティ能力。そして衝撃を受けた時に身を守るというパッシブセーフティ能力。その両方とも、年齢を重ねるとともに確実に低下していく。そして、万一負傷した時の生死の分岐点は、どうやら55歳あたりにあるらしい。これはライディングのうまさや経験に関係なく、誰の身にも起きていることだ。

 バイクに乗って右手をひねれば、自分の実際の身体能力以上の走りが可能になる。でも、いざという時に衝撃を受け止めるのは、自分の実際の身体でしかない。

 僕はまだ55歳になっていないが、自分の体に十分な衝撃耐性があるとは思えない。それでも明日バイクに乗るにあたって、今日のうちに考えておく。

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