ナンバMG5

*ちょっと前に楽しんだドラマの感想です*
*ストーリーにかなり触れているので、これから見る方は読まないほうが良いですよ*

普通の高校生活を送りたい
でも
家庭の事情でヤンキーの高みを目指さなければならない
そんな悩める男子、難破剛がやむを得ず、真面目な高校生”難破くん”と最強ヤンキー”トップク”の二重生活を送るというお話。主演は間宮祥太朗さん、素晴らしかった。

難破剛は高校生。特攻服に金髪のヤンキー姿で家を出て、途中で黒髪制服の地味な高校生に変身して登校する。二重キャラ生活は大変だ。美術部のエース、優等生として進学校の高校生活を満喫しながらも、”トップク”に変身してケンカを買わなければならない案件もちょくちょく起こるからなかなか足が洗えない。正義感が強い剛は不当な暴力に遭っている人や昔の仲間の窮地を見過ごせず、万難廃して駆けつけてしまうのだ。もちろん特攻服(トップク)に着替えて金髪にして、ケンカをしているのは別人だという体で。
バレるのか、バレないのか。途中、けっこうドキドキする。いや普通バレるでしょうとも思うようなニアミスもたくさんある。
そのうち両方の顔を知る協力者も出てくる。剛、けっこう愛され系だ。少しずつ味方を増やしながら頑張って頑張ってギリギリバレずにどうにか2年半が過ぎたある日、その努力全てが無に帰するような事件が起こる。
あと少しで卒業、あと少しで全てを打ち明ける覚悟もあったのに。

事件とは。
剛に深い恨みを持つヤンキー一派にひょんなことから二重生活がバレて、高校が襲われたのだ。高校は地域屈指の進学校だ。暴力的な襲撃への耐性はない。大勢で剛の名前を叫びながら高校になだれ込む暴徒たちに、生徒も先生も無抵抗に痛めつけられ、学校は破壊される。
ケンカの場所は剛の大切な学校。受けて立てば全部が露呈して、剛のこれまでの努力は水の泡だ。
おまえは逃げろ。手出すな
二重生活の協力者である剛の”ツレ”の2人はそういい、剛の代わりに襲撃者と戦う。

しかし、当然、剛は逃げない。多少迷いはするものの、そんなものすぐに振り捨てて襲撃者に立ち向かう。剛にとって仲間や大切なものを見捨てて逃げるという選択肢はない。それだけは絶対に絶対にありえない。大切なものを自分の拳で守るのが難破剛の本質だ。それによって失うものがたとえどんなに大きくても。

特攻服に着替えて剛は戦う。剛は猛烈に強いが相手も数が多い。剛は血を流しながら、息絶え絶えになるながらも次々と相手を殴り、なぎ倒す。
ここは俺の大事な場所なんだ。
体中から振り絞るように泣き叫びながら。
捨て身の彼はそれまでのどんな彼よりも強かった。大群の敵はみな、戦闘能力ゼロの状態で地面にごろごろ転がり苦痛に顔を歪める。もう倒すべき相手はいない。それでも彼の怒りと悲しみとバイオレンスは止まらない。
ここは俺の大事な場所なんだ。
何度も繰り返しながら、とうに無抵抗になっている相手を鬼の形相で殴り続ける剛。彼を普通の高校生として受け入れ、彼を信頼し、彼の大事な仲間である、大好きな同級生たちの前で。
普段の穏やかな彼からは想像もできない激しい姿に、同級生たちはなかなか現実が受け入れらず、しばらく呆然と戦闘をただ見つめる。
顔も声も難破くんにそっくりだ。名前も同じ難破剛。でも本当に?目の前で暴れているあの人は本当に友達の難破くんなのだろうか。
しかし。見つめる同級生たちはだんだんと気がついていく。
あの人はあんな大勢に立ち向かって、ひとりでうちの高校を守ろうとしてくれている。必死で。死ぬ気で。
あの不器用で力強い正義感を私たちはよく知っている。
そしてついにクラスメイトの1人が呟く。
あれは俺の大事な友達だ。

警察に取り押さえられてパトカーに押し込まれる直前、剛がひそかに想いを寄せていた女子が駆け寄って呼びかける。
「難破くん」
剛は返事をせずにパトカーに乗り込む。ドアが閉まる。発進する。両脇を警官に挟まれた車内で、剛は小さくなって俯きながら呟く。
バレちまったか。
家族や友達、周りの人にずっと嘘をついてきた。精神的にも体力的にもキツかったけどめちゃくちゃ楽しかった2年半。ようやく自分の思う通りに生きられた最高の2年半が、こわれた。

しかし。
ケンカなんてもういやなんだ。
といいつつ、憧れの高校生活を送る彼が全然ケンカをやめられていなかったのも事実だ。彼はケンカがめっぽう強い。ケンカに勝った彼はいつもちょっと得意気だった。
だから大変な二重生活、頑張っているのはわかるけれど中途半端にも見えた。「いいとこ取り」というかちょっとずるいというか。ドラマが終盤に近づくにつれ、そんなモヤモヤが高まってくるのを感じた。健気でかわいい剛をこのままバレずに無事卒業させてあげたいという気持ちと、いやいやそれでは今は良くても将来的に剛の人生歪まないか?という気持ちが交錯する。
だから、最後の最後で二重生活が壊れたときは切ないけれど納得はできた。最後、彼は大事なものを守ろうとしてやっぱり暴力を行使した。他に方法があったかどうかという議論はさておき、いざというときケンカに頼る彼は奥の奥では変わっていない、相変わらずヤンキーのままだということになるんじゃないか。
そんな彼が最後にちゃんと壊れてよかった。
バレちまったか、とパトカーで呟く彼はとても悲しいけれど。

家業を継ぐ宿命にありながら、はっきり違う道を志す息子の葛藤を描いた物語はたくさんあるけれど、大体がお坊ちゃんというか、医者や政治家やロイヤルファミリーなどの富裕層&やんごとない系な気がする。このドラマはヤンキーの名門一家に生まれ、ケンカの才能に恵まれ、英才教育を施され、全国制覇を期待されて苦しむという設定が新鮮だった。

主演の間宮祥太朗さん、ほんとにかっこよかった。全然別のキャラを生きる同一人物、見た目も言葉遣いも服装も性格も別人だけれど、ちゃんと同じ人で同じ根から生えている感じが見事に表現されていて素晴らしかった。見ていると剛が大好きになってしまう。
間宮さん、元々は「プロ野球の始球式でとんでもない豪速球を投げる人」というイメージ、ドラマは「ファイトソング」で穏やかでゆっくりでひたすらやさしいミュージシャンという真逆の役を演じられていて、それもとても素敵だった。

私が一番好きな場面は第4話の関口くんとの絡み。
同級生のいじめと戦って入院した関口くんに剛が「俺たちゃツレだろ?」っていうところです。剛の表情が最高に良かった。

この記事が参加している募集