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川崎病のような血管炎へと重篤化する感冒症状の推移 についての漢方的な視点

コロナ感染症が重篤化すると川崎病のような血管炎や脳心臓血管疾患を発現することが報告されています

病気には時間の経過で病状が深刻化する「流れ」があります。
その大まかな流れを把握しておく事が臨床の場ではとても重要になって参ります。

「漢方」は症状から法則性を分類して、時間経過と病状軽重の診断と治療法、治療薬を結びつけて構築した医学です。

漢方の物差しで、現状把握と変化予測ができるようになるのです。
漢方を学び続けている一人として、多くの医療従事者に知って欲しいと願います。

現代の人たちが一般的に持っている漢方のイメージは、
1,生薬だから体に優しい
2,長く治療しなければ効果がない
というものが多いですが、実際はもっと効果が高く、経験的エビデンスが豊富な科学的な医学なのです。

漢方の感染症診断には、古代から用いられてきた「六経弁証」という方法と、近代になり病気の質が変わって生まれた「衛気営血弁証」の、大きく2つ方法が現代に伝わっています。

この内容と特性を理解すると、風邪および感染症の治療における、現状の把握、病気の変化予測、適材適所の漢方薬選定、というスキルが身につきます。

表題の、コロナウィルスが重篤化して、川崎病のような症状が出るというのは、
「六経弁証」においては、「陽明病」や「少陽病と陽明病の兼症」、「少陰熱化症」、厥陰病の「熱厥症」などが、この症状にあたるでしょう。
「衛気営血弁証」においては熱邪が入り「衛分症」、「気分症」、「営分症」、「血分」、「心包症」と悪化していく過程で、「営分症」からは炎症や熱が甚だしく、川崎病のような症状を呈しても不思議ではありません。「心包症」に至ると、脳心臓血管疾患や意識障害、機能障害にまで発展します。
知っていれば想定内のことであり、できるだけそうなる前に手を打ちたいところです。

重篤な症状ではありますが、漢方には独自の治療方法があり、その効果は比較的高く、さらなる重症化を防ぐのに非常に有効であることは、私も幾度も経験しています。

日本国内では医療機関の許認可別に、制度的に使える処方も限られていますが、それぞれが最適な治療と漢方薬を選択してほしいと切に願います。
そして漢方のスキルのある医療従事者が増え、重症化を防ぐサポートに努めてほしいと併せて願います。

漢方にエビデンスがないという方がいますが、歴史上現代に至るまでに残っているというのが何よりの証拠ではないでしょうか。

東洋医学の歴史は感染症との戦いの歴史でもあります

後漢代(25−220年)の張仲景は、一族の3分の2を流行り病で亡くし、過去の文献と自らの経験をもとに「傷寒論」を編纂しました。

清代(1644-1912年)に中国では新しい感染症治療の概念が確立されました。

清代の状況は現代のコロナパンデミックに通じる状況なので、時代的な背景を紐解いてみましょう。

清代の時代的な背景 その1

急激な人口増加

1651年 5300万人
1685年 1億1000万人
1700年 1億5000万人
1765年 2億人
1770〜1780年 2億8000万人
1790年 3億人
1833年 4億人(アヘン戦争)

清代の時代的な背景 その2

新大陸(アメリカ・オーストラリアなど)からトウモロコシ・サツマイモ・落花生などが伝来し、灌漑の難しい比較的痩せた土地でも耕作ができるようになったことから、食糧事情の豊かさが人口増の背景にありました。

結果としていわゆる三密化が加速しました


・密閉
・密集
・密接

感染症の質が変化してきました

それ以前は多くの場合、飢えや寒さで感染症が悪化していたが、人口が密集し、家畜も密集し、「人ー動物」間や、「人ー人」間で、ウィルスが感染する機会が増え、変異する機会も増え、結果として「伝染性が強く、重症化しやすい」感染症が生じました。

「温病論」誕生!

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「衛気営血弁証」

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「温病」の特徴とは!

「温邪は上(上半身)が受けるので、最初は肺が侵され、心包へ逆伝する。肺は気をつかさどり衛に属し、心は血をつかさどり営に属す」<葉香岩外感温熱篇>

専門的な症状の分類を参考までに記しておきます

参考図書
基礎中医学<燎原>
全訳中医診断学<たにぐち書店>

衛分証

「温邪は上に受け、首先に肺を犯す」
温熱の邪(ウィルスや細菌、場合によっては寄生虫)が手太陰肺経を侵襲し、衛気と相争して肺衛を阻害した状態である。表熱証に相当する。

手太陰肺経

 病機 風熱犯肺
 病証 発熱・微悪風寒・無汗あるいは有汗・咽の発赤
    腫脹・咽痛・咳嗽・舌尖辺が紅・脈浮数
 治法 辛凉清解
 処方 銀翹散 桑菊飲

気分証

邪熱(ウィルスや細菌、場合によっては寄生虫)が裏(体のより不快ゾーン)い入って体の機能を障害した状態。
肺・胸かく部・肝・胃・腸などの異なった部位の病変に応じた症状が見られます。
温病では邪熱の入裏が速やかで、熱の勢いも激しいです。
特徴は、邪正相争が激しく起こって、津液の消耗(脱水)が発生することです。
高熱・口渇・多汗・舌の苔が黄色・舌質が紅・脈洪大などを呈します。

細かな分類は以下

 邪熱阻肺
 病機 熱邪が肺経気分に入って盛んになり、
    肺の機能を阻滞している状態です。
 病候 咳嗽・呼吸困難・胸苦しい・胸痛・舌苔が黄・脈が滑数
 治法 清熱宣肺・平喘
 処方 麻杏甘石湯

 気分大熱
 病機 陽明邪熱盛大・傷津
 病候 つよい口渇・喜冷飲・顔面紅潮・多汗・舌苔黄で乾燥・脈洪大
 治法 清熱保津
 処方 白虎湯 白虎加人参湯

 熱結腸胃(陽明結熱)
 病機 燥屎内結
 病候 日哺潮熱・譫言・便秘あるいは水様下痢・腹満・腹痛・拒按・舌苔
               が焦黄〜黒〜芒刺・脈沈で有力
 治法 攻下熱結
 処方 承気湯

営分証

邪熱(ウィルスや細菌、場合によっては寄生虫)が「血分」に侵入した軽浅の段階で、血中の津液(体液成分)を消耗するとともに、精神にを擾乱する病態です。

 治療に用いる生薬 清営泄熱 犀角・玄参・麦門冬
 治療に用いる生薬 清心   連翹・蓮子心・黄連・竹葉心
 治療に用いる生薬 透熱転気 金銀花・連翹        

血分証

邪熱(ウィルスや細菌、場合によっては寄生虫)が血分に留まって耗血・動血(出血など)する病態。
肝風内動し、熱性けいれん、目眩ふらつき、なども現れます。
営分証よりも重篤な状態です。

 治療に用いる生薬 凉血散血 牡丹皮・赤芍・鼈甲・丹参・紫根
 治療に用いる生薬 凉肝息風 羚羊角・釣藤・菊花・桑葉
 治療に用いる生薬 滋陰   生地・玄参・白芍
 治療に用いる生薬 滋陰養液 生地・麦門冬・炙甘草・白芍
 治療に用いる生薬 血肉有情 鼈甲・亀板

心包証

熱邪(ウィルスや細菌、場合によっては寄生虫)が津液(体液)を煎熬(センゴウ:煮詰め煎る)して伴生した痰や元来の痰濁と結びつき、痰熱となって心包を蒙閉する病証で、意識障害が主な症状であり気機阻滞による冷えなども伴う。

 病機 痰熱蒙閉心包
 治法 清心開竅
 処方 安宮牛黄丸 紫雪丹 ないので 牛黄清心丸などで代用か

今回は「衛気営血弁証」の分類や説明に終始しましたが

六経弁証にも熱病の状態は事細かに記されています。
どの状態にあるのかを詳らかにし、変化に応じて対応し続けていく事が必要です。

川崎病のような症状は、川崎氏がはじめて見つけたというよりは、扁鵲なり、張仲景なり、葉天士なりの、伝説の名医たちがすでに見つけていました。

血管炎という現代の言葉だけでは言い表せない、複合した関連症状が次から次へと現れます。

方術家はその仕組と対処法を研究し続ける事が必要ですね。


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