【リーダシップの旅編10:修羅場をくぐる】
*本マガジンのこれまでの投稿は上記に入れています。
40代で、ある大企業の関連子会社の社長である健は、就任2年目を迎えています。1年目の業績は振るわず、戦略構築・マネジメントでも試行錯誤しているところのようです。そんな時、本社で取締役で元上司の哲也にたまたま出会います。健が現状の悩みを相談しているうちに、”リーダーシップの旅”を紹介されます。この本についてオンライン勉強会をする流れになり勉強会を開いています。本日は第4章「旅で磨かれる力」の後半の解説になります。
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🧒;おはようございます。前回、磨くべき力の4つのうち、「構想力」「実現力」「意志力」を解説してもらいました。今回は「基軸力」からですね。
👨🦳;そうだ。トレードオフという言葉もとも含めて始めていこう。
◆基軸力
👨🦳;前回最後に触れた、エクスキュート(逃げないで絶対にやり抜く)は意志力に通じる。同時に、リーダーシップのもう一つの重要な要素である基軸力とも関連しているように思うんだ。
🧒;基軸力って、“ぶれない”ってことですかね?
👨🦳;その通り、上司や友人に対して「あの人って、ぶれるよね」「言うことがコロコロ変わるよね」と感じたことあるよな。かくいう私も、周囲からしょっちゅう「お前はぶれる」「ぶれるな」と言 りするので、あまりえらそうなことは言えないが……。
🧒;私なんていっつもブレブレです。ぶれるのはだめだと思いながらも・・。
👨🦳;基軸力とはやり続けること、やり遂げること、そのために、ぶれず、逃げないことだ。人は旅の一歩を踏み出した後でも、迷ったり、怖くなったりする。進んでいく方向に途中で自信がもてなくなることもある。だけど歯をくいしばって、または勇気を振り絞って歩き続ける。歩み続ける中で、この道が正しかったのだという確信をつかんでいくんだ。
🧒;逃げない。確かにそれがぶれないということにつながる気がします。
👨🦳;自身の明確な信念を貫く人は、ビジネスの世界にも多数おられるんだ。JR東日本の松田昌士さんもそんな一人だ。松田さんは旧国鉄時代に分割民営化を目指す中堅組織人の一人として、反対勢力との闘いを始め、自身の哲学を貫徹された。「何が辛かったですか」と問われても、「仕事で辛いことはない、サラリーマンは何をやっても辞表を書けば済む。命まではとられない」と言われる。
🧒;でも実際は相当な苦労やリスクがあったのですよね。
👨🦳;そう。実際の松田さんを取り巻く環境は壮絶だった。民営化に至る道筋で、一部の過激な労組の攻撃の矛先は、松田さんではなくご家族にも向けられた。子供が転校すると、労組に属する学校の先生が子供をいじめる。引っ越しをしても、電話局から電話番号が漏れるのか、嫌がらせ電話が鳴り響いたそうだ。「リーダーは、ぶれちゃだめだ」と過去を思い出すように語られる松田さんを見ていると、基軸という言葉の重みがひしひしと感じられる。
🧒;ぶれるというか、そこまで強く新年を持ち続けられたということなのですね。ご家族もすごい・・。
◆トレードオフ
🧒;でも、、残念ながら、私も含めて日本人は一般的に基軸力が弱いように思います。なぜだでしょうか。
👨🦳;それは、私たちが組織の中や社会において、トレードオフを伴う決断を迫られる機会が少ないからだと思う。ここでのトレードオフとは、一方を追求すると、他方を犠牲にせざるをえないような両立しない関係、何かを獲得するためには、別の何かを手放さなくてはいけないような選択の場面を意味する。
🧒;なるほど。小さい頃から「何かを捨てて、何かを得る」ということに対して「自分で選ぶ」経験が少ない気がします。
👨🦳;個人だけでなく、組織、企業、政府に至るまで、この国ではトレードオフを伴う決断をする機会にあまり恵まれていないように思うんだ。言い換えれば、社会全体が、基軸に基づいた決断や行動を回避するような構造になっている。
🧒;白黒をはっきりさせないこと、 慮ること、あいまいさによって摩擦を避けることは、日本人や日本社会の美徳ですからね。
👨🦳;でも、それは同時に、基軸をもたなくても生きていける、あるいはもたない方が生きやすい社会環境は、リーダーシップを育みにくい土壌だと思えて仕方がないんだ。
🧒;自分自身でそういう状況を作っていかないといけないということですね
👨🦳;ラグビー日本代表の元監督平尾誠二さんが娘さんを相手に面白い子育てを実践しておられるんだ。
🧒;数年前に若くして亡くなってしまいましたよね。。。
👨🦳;そう。皆に尊敬された選手であり、監督であり、偉大な人だった。彼は、家族にケーキをお土産に買って帰る場合、必ず味や見た目や値段が違う何種類かをそろえるのだそうだ。娘さんにはその中から好きなものを選ばせる。選ばせるだけでなく、「パパのケーキの方がおいしい」とか「お前が選んだのは一番安いケーキだなあ」などと、わざと意地悪なコメントをするんだって。
🧒;選ばせるのですね。その結果考えるということか。
👨🦳;娘さんはさんざん悔しい思いをしながら学習し、やがてケーキを選ぶ前に父親に対して色々な質問をするようになったという。
🧒;なるほど。質問のための質問ではなく、状況判断して自己選択をしっかり行うためですね。意思決定の前に情報を集め、分析し、決断する。そんな状況判 を平尾さんは愛娘にケーキを選ばせることで身につけさせようとしているのですね。
👨🦳;そう。こちらを食べることは、あちらのケーキを食べないということで、しかも意図的に選んだのはこの自分だと知ること。そのようなトレードオフの経験を早く積ませようとしていたんだ。
🧒;なるほど・・。すごいですね・・・。選ばせて、理由を聞く、自分で考えるということですね。
◆経験を内省するトンネル
👨🦳;さて、野田さんの言う構想力・実現力・意志力・基軸力、あるいはコンテクスチュアル・インテリジェンスやエクスキューションなど、リーダーシップの要素、リーダーの資質めいたものが色々と出てきたが、それらはどのようにして磨かれていくのだろうか。リーダーはどんなふうにして結果としてこれらの力を身につけるのだろうか。この問いにはまだ答えていなかったな。
🧒;はい。そこ気になります。
👨🦳:リーダーシップの実践的な研究・研修などに熱心なロミンガー社の調査によると、企業の経営幹部に「リーダーシップを発揮する上で有益だった経験は何ですか」と尋ねたところ、「仕事上の経験」(何をしたのか、What)が70%を占めていたというんだ。続いて「関係」(だれの薫陶を受けたのか、主として上司との関係、場合によっては顧客や取引先に鍛えられることもある、With whom)が20%、「研修」(Off JT)は10%ぐらいしかない。要するにリーダーシップの学校は「経験」であり、学校や研修「だけで」身につくものでない、ということなんだ。
🧒;確かに。。現場での経験がものをいうということですね。
👨🦳:人が本当に変わるのは、ラインで実際に絵を描いて周囲を巻き込んでいる時、あるいは、本社スタッフとして、現場にいる時よりもスケールの大きな絵、全体最適を意識した絵を描くような時であり、こういう経験がリーダーシップの学校だ。
🧒;でも、そうなると。座学研修や社会人大学院のプログラムはまったく無力ということでしょうか?また、今勉強していることも無力なのでしょうか?
👨🦳;いや、私はそうではないと思っている。「だけで」では無理だが、大学院や研修を社会人ならではの経験や関係とリンクさせれば、大きく意味づけることができる。企業人はとかく忙しい。仕事上でくぐってきた経験や冒険、自分が成長したと思える旅の要素を、日常に追われながら、内省したりする時間的余裕がない。
🧒;現場で働く人にとって大学院や研修は内省のための場の一つ、トンネル期間になるということですね。
👨🦳;リーダーシップやキャリア発達という領域は、学ぼうとする人が理論を経験に結び付けて考えないと意味がない。研究者の理論を自らの経験に引き寄せ、自分なりのセオリーをもつことが最も重要なんだ。
🧒:まさに理論と実践をしながら自分の理論を作っていくということですね。
👨🦳:神戸大学のMBAでは、「バイ・ザ・ジョブ・ラーニング」(加護野忠男教授による造語)という考えがあるそうだ。オン・ザ・ジョブでもオフ・ザ・ジョブでもなく、仕事をしながら平日夜間と土日のいずれかの日だけ、職場を離れた場で学習してもらうそうだ。働いた経験がある人には、二年間仕事を離れてMBAで学習してもらうより、現場での問題を抱えたまま場を共有してもらった方が役に立つこともあると考えているそうなんだ。
🧒;場の共有ですか。事象を集め、抽象化するそして理論を作る研究というのは確かに最も効率的な成長方法ですよね。
👨🦳;日常に忙殺される私たちが、忙しさからいったん離れて自分を振り返り、内面と向き合う場。現実世界に身を置き、乗り越えなければいけない課題と取り組みながら、内省する場。そんな時間を過ごす場という意味においては、学校や大学院は役立つと思う。
🧒:確かにそう考えると、社会人になってからの大学院や学校は意味がありますよね。
👨🦳:野田さん自身は二十八歳の時にビジネススクールに留学した体験をもっている。欧米人のクラスメイトたちの中には会社を辞めたり、数百万円相当の借金をして勉強しにきた人もいた。そんな彼(女)らは強い目的意識をもっており、そのエネルギーに圧倒されながら、野田さんは否応なく、自分を見つめ直させられたという。
🧒;でも、エネルギーがそがれ、後ろ向きになってしまうような場もあれば、そこに行く度に自分も頑張らねばと奮い立たせられる場もある。だから、どんな場でもいいわけではないですよね。
◆修羅場で己と対峙する
👨🦳;立ち止まり、自分を振り返ること。なりたい自分への刺激と挑戦への気概を喚起させられるような場に身を置くこと。そうした中で、世間や組織の論理ではなく、個の論理に自分を引きつけること。これらは、リーダーに求めら 力を磨くことに結果的につながるように思う。そして、リーダーとして歩む力が最も有効な形で磨かれるのは、苦しい修羅場体験をした時だ。
🧒;確かに、逃げ道のない難局に追い込まれると、ギリギリの判断を迫られる。時間的制約がある中で、自身の納得する解を見つけなくてはならず、何かを捨てざるをえないですからね。
👨🦳:そう。葛藤が渦巻き、重圧に押しつぶされそうになる。そんな場面で決断してこそ、自分というもの、自分がよりどころとするものがあぶり出されてくる。経営者としての理念や哲学が問われるのも修羅場においてなんだよ。
🧒;あぶりだされる、ですか。
👨🦳;そうだ。ある経営者が日頃は「企業は人だ」「人を大切にする」と語ってきたとしよう。会社が順調に成長している時は問題ないだろう。しかし競争環境が一変した、深刻な景気後退で売り上げも減った、どうしても資金繰りがつかないという時にも、その言動を守り通せるだろうか。
🧒;それは確かに・・。
👨🦳;社員全員の給与を下げてでも雇用を守り抜くのか、やむをえず、不採算の事業を一部切り捨ててリストラをするのか………。その時に経営者としての普段の言動が本当の意味で試される。ギリギリの判断に迫られてこそ、平時に標榜していた経営持論や哲学の重さが問われるんだ。言い換えれば、ギリギリの判断を繰り返すことで、ちょっとやそっとではぶれない軸が形成されるってことだ。
🧒;追い込まれてこそ太くなるということですね。組織の中堅社員も、日常的に困難な場面に多々遭遇しているはずだ。しかし、判断を上司にあおげる立場にいたり、判断の結果に個人としての痛みを感じないで済む場合には、それは修羅場体験としての一番重要な条件を満たさないということですね。
👨🦳:そう。修羅場の条件は、判断にあたっての最終意思決定者が自分自身であること、そして意思決定の結果に対し、お金の問題も含めて自分が責任をとらなければいけない場面であることだ。
🧒;なるほど。創業者の経営リーダーに独自の哲学の持ち主が多いのは、その人が、こうした条件を備えた真の修羅場を、数え切れないぐらいくぐってきているからなのでしょうね。サラリーマンでも、立ち上げや事業再編など修羅場をくぐってくると哲学ができてくるというわkですね。
◆究極の資質「人間力」を育む
👨🦳;そろそろ第4章を締めていくぞ。私たちがリーダーシップの旅を歩むにあたって必要とするもの、旅を歩むことで身につけるものとして、構想力・実現カ・意志力・基軸力などが挙げられる。中でも意志力・基軸力が重要となる。
🧒;はい。意志力は頭と心の一致によって生じ、アクティブ・ノンアクションを乗り越える力となります。旅を貫徹するためには、基軸力が欠かせない。基軸力はぶれない、逃げない姿勢の礎となるもので、トレードオフを伴う決断の積み重ねによって磨かれるということでした。
👨🦳;私たちは「仕事上の経験」を通じてリーダーシップの力を磨く。とりわけ自らが最終責任者として困難な局面に挑む「修羅場体験」は、私たちを一回り大きく成長させる。学校で身につけるリーダーシップは限定的にならざるをえないが、学校が自分を振り返り、人生の間に何度かくぐることになる「一皮むけた経験」を内省し、未来を展望する「場」であるのならば、それは旅のきっかけとしては有効なんだ。
🧒;そして、理想的な場には夢や志を育む空気があり、己と向き合わざるをえないような「匂い」が満ちているのですよね。
👨🦳;そう。より長い時間軸と経験の連鎖という観点から見るなら、リーダーシップの旅は人間力を磨く旅となる。
🧒:人間力は、人類が築き上げてきた英知である教養を学び、人の営みに対する理解と尊敬の念をもつことによってその土台が培われるということなのですね。
👨🦳;そう。よし、これで第4章は終わりにしよう。残りは、最終章5章になる。頑張っていこう。
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第4章はここで終わりです。やはり、追い込まれた中で、自分でリスクを取って決める修羅場経験が人を強くぶれなくさせるのですね。さて、次回は最終章5章「返礼の旅」に入っていきます。ぜひ、スキ・フォローお願いします!
*なお、下記の固定記事に私のnoteの全体コンセプトを記載しています。
(初期のコンセプトからいろいろ飛躍していますが・・)
これまでの複数マガジン(書籍解説)を作成してきましたが、一覧と位置づけは下記です。(一つでも興味がおありでしたら、上記【導入編】のリンクを載せているので覗いてみていただければ嬉しいです。)
番外編もあります。
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