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ダイナミックなタスク管理の鍵

スペインの哲学者であるオルテガ・イ・ガセットは、社会システムをうまく機能させるための仕掛けとしての法律について、こう書いています。

人間は、ダイナミックな法を必要としている。つまり、柔軟で動きのある法、変容(メタモルフォーゼ)の過程にある歴史に連れ添うことのできる法を必要としている。

(1937年. イギリス人のためのエピローグ. 大衆の反逆. 岩波文庫)

これは、人間の歴史と法律の関係に限らず、より広い範囲に当てはめられる言葉だと、ぼくは考えています。

たとえば、ぼくたち個人の日々の生活と、それをうまく機能させるための仕掛け、つまりタスク管理の「ルール」づくりの大切なヒントになるメッセージではないでしょうか。

では、ダイナミックなタスク管理のルール、変容の過程にあるぼくたちの生活に連れ添うことのできるルールとは、どのようなものなのでしょうか。

ガセットは、ダイナミックな法的現象のモデルとして、戦前の英連邦 The British Commonwealth of Nations を挙げています。その特徴として、定義と定義を練り上げるための議論を避けたこと、余白と柔軟性を備えていたことを強調しています。

定義せず、余白(マージン)と柔軟性をもたせる。しかしそれは決して、機会主義(オポチュニズム)ではない。

ガセットによると、英連邦は、イギリスやアイルランド、南アフリカやカナダ、オーストラリアやニュージーランドなど、当時の地球全域にちらばる国々の集合を正確に描いた法的存在だったそうです。

ガセットはさらにつづけます。

柔軟性は、法を可塑的にする必要条件であり、法に余白をもたせることで、そのダイナミクスを予測可能にする。

これを、日々のタスク管理に当てはめると、どうなるでしょうか。

まずタスク管理の仕組みを「定義しない」とは、たとえばある仕組みAはタスク管理だけどこの仕組みBはちがう、という線引きを敢えてしないでおくことだと、今のところ考えています。

そうすることで、少なくとも形式的なしばりから、タスク管理を自由にできます。

たとえば、カレンダーに予定を書き込んだだけではタスク管理ではないとか、Excel のシートに作業一覧をつくるだけではタスク管理ではないといった、見かけのしばりを外すことで、いろいろな道具をタスク管理に利用するアイディアも湧いてきそうです。

二つ目のタスク管理の仕組みに「柔軟性をもたせる」とは、タスクリストを変化させやすい仕組みをもたせること、と考えています。アウトライナーの上につくったアウトラインは、分かりやすい例でしょうか。

アウトライナーは、アウトライン(階層構造をもつリスト)の階層構造をつくり変えたり、ある階層にフォーカスしたり、より上位の階層から、その下位階層にあるアウトラインを俯瞰したりすることを得意とするアプリケーションです。

ある階層以下に複雑な階層構図があったとしても、それを折り畳むことで、シンプルな上位階層だけのリストとして表わすのも可能ですし、折り畳んだ項目すべてを、折り畳んだまま別の階層に移動させる作業もかんたんにできます。

三つ目の「余白(マージン)をもたせる」とは、変化は可能だけれど無限に可能なのではなく、ある制約の中での変化が可能な形にする、ということではないでしょうか。

アウトライナーの上につくったアウトラインは、ツリー構造(樹状構造)というしばりがあります。ツリー構造は、いろいろなことを記述できる可塑性をもっていますが、たとえばネットワーク構造(網状構造)になることは許しません。

その結果、ツリー構造から外れる形のタスクのアウトラインのことまでは、考えなくて済むという気楽さを与えてくれます。

また、タスクのアウトラインがツリー構造に収まらない(矛盾する)場合は、ツリー構造にしようと意識することでアウトラインが変化し始め、その結果、タスクのアウトラインが育つことも自然に起こります。

抽象的な話しだけを進めてしまいました。具体的な話しは、また別の機会に。

タスク管理とは、日々の生活をうまく機能させる、つまり楽しくするための仕掛けだと、ぼくは理解しています。

注意することは、効率よくたくさんの作業をこなせるようになることだけが楽しいことではないし、楽しくない場合もあること。

では、ぼくたちの日々の生活を楽しくするとは、どういうことなのか。

実はそこに、ここで紹介した三つの鍵、定義せず、そして柔軟性と余白をもつこと自体が直接関わっていると、ぼくは考えています。

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