見出し画像

凪代表の孤独

『アキバ冥途戦争』が己の好みに刺さりすぎて3度ほど観ている。
第一話挿入歌『純情メイドぶっころ主KISS』に見事にバッキューン🔫されたし


OPのなごみがパフェを落としかけているカット、とんとことんが血だらけになるカットもオタクの好物を的確に押してきていて非常にたまらない。ニヤニヤが止まらない。そうなんだよ、これなんだよ。

この作品は多くを語らない。視聴者に想像の余地を残してくれる。
ぶん投げとも受け取れるような唐突なラストも3度目の視聴になると『これで良いんだよ、これで』と感じている。

この作品に登場する好きなメイドは嵐子、愛美、凪の旧世代チームだ。
三者三様に孤独を抱えており、あまりにも長くアキバで生きてしまったが故にどん詰まっている姿に『因果から抜け出すルートはなかったんかいなぁ…』と視聴者として頭を抱えている。

特に凪が抱えている孤独がたまらない。
圧倒的な恐怖でアキバを制圧したにも関わらず、彼女の居場所はどこにもなかった。かつてあったはずの『家』を殺して登りつめた先に見る景色は修羅同士で殺し合いを続ける地獄だった。

凪代表は嵐子に生き続けていてほしかったのだ。
嵐子に対する相反する気持ちを抱き続けることが彼女にとっての凪だったのだ。昔、代表は渦子という名の孤児だった。彼女がどのような経緯で孤児となったのか分からない。ただ彼女自身も修羅として秋葉原を生き抜き、その功績を買われて美千代さんに拾われた。自身の生き様を肯定される、というのはとてつもない安寧をもたらす。それが血で血を洗う抗争の連続だったとしても。ただ、渦子の安息(凪)は嵐子によって壊されてしまう。ひたむきな嵐子に影響され、武闘派だったはずの美千代さんが穏健派となってしまったとき、渦子は混乱したに違いない。『奪われたくなければ奪え』という信念を失うわけにはいかない。美千代さんはその時点で渦子にとって裏切り者になってしまったのだ。自分は今さら嵐子のようにはなれないから。

嵐子が生きていれば危うさはあれど代表の『凪』は守られたのだろう。己が支配する箱庭でかつての『家族』を囲っている限り正気を維持できたはずだ。とはいえ嵐子は死んだ。親である美千代さんを殺し、己が作った因果によって妹も死んだ。彼女が何よりも切望した『家族』が皆いなくなってしまった。それならば皆殺しだ。私を受け入れない世界など消えてなくなればいい。そして渦子は望みを叶えた。

旧世代は三者三様に居場所を失ってしまった。
愛美は忠誠を誓ったはずの『メイドリアン』が内部から侵略され、
嵐子は『ちゅきちゅきつきちゃん』を潰した因果により、
渦子はすべてを支配しようとしてすべてを失った。

非力な己を克服しようと強くなったはずなのにどこまで行っても安心できる場所にたどり着けないという哀しさ。虚勢を張り続けた先には救いはない。どうあがこうとも己は圧倒的に非力、という容赦ない現実を認めることで失った居場所を取り戻せる。一番認めたくない恥辱の果てに重すぎる肩の荷を下ろせる安全地帯があるのだ、と今は信じている。

この記事が参加している募集

#アニメ感想文

12,683件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?