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IR担当として最初に取り組んだこと

勝手にアナリストレポートが動き始めたので、久しぶりにIR背負い投げも更新してみます。
「IR人材不足」・・・最近よく耳にします。
でも個人的にはこれって本当かな?と思っていたりします。IRをやるにあたって必要な知識ってそんなに多くはなく、財務三表を読む力だったり会計的な部分ぐらいではないでしょうか(細かくは色々あることも認識しています)。とはいえ、会計士や税理士レベルの知識を求められるわけではないので、数字をみるだけで気持ち悪くなってしまう人でなければ、ちょっとした学習で十分だと思います。イメージとしては簿記3級程度の知識があればという感じでしょうか。
それよりも大事なことは何か?
コミュニケーション能力だと思います。IRはステイクホルダーである投資家に対し会社を代表してコミュニケーションをとる仕事です。ある意味ファン作りですよね。しかも、PRと異なり、何の誇張もない「適正な姿」を伝えなければなりません。CEOが楽観的なコミュニケーションを取るのであれば抑え役になる、CFOが保守的なコミュニケーションを取るのであれば違う見せ方をする、などなどある意味常に客観的に自社を伝える必要があります。そのうえで千差万別の投資家が何を求めているのかをきちんと読み取り、望む回答を伝えてあげる必要があります。投資家と言えども一企業に対する知識レベルは一緒ではありません。そのレベルに合わせた回答も必要になります。大学院レベルの話を幼稚園児にそのまま伝えても意味がないのと一緒です。言語の違い(同じ日本語でも金融脳と事業脳では異なる言語を使っているという意味)も認識しないといけません。ここでの認識相違によってIRミーティングの1時間がお互いにとって無駄になるケースは結構多いはずです。
会計知識はある程度勉強すれば身に付きます。一方、コミュニケーション能力は生まれついてのものだと思います。ここを重視してIRパーソンを探してください。
優秀なIRパーソンは沢山いると思いますが、過去IIなどでランクインしているIRパーソンを眺めてみると(一応、私も小売りセクターでTop3にランクインしたことはあります)、基本的には、その企業に対する評価が高いから、でIRパーソンへの評価も高い感じになります。IRが優れているから、その企業の評価が変わるというケースはさほど多くありません(本来の価値が埋もれているケースではIRの力最重要です)。例えば、私が行けばどんな会社でも高い評価を受けれるようになる!なんてことはありません。最近の議論で言えば、PBR1倍割れ企業ですが、本業がダメすぎてどんなに頑張っても1倍以上の評価は無理もあれば、光を正しく当ててあげることでバリュエーションが適正値に戻すことができる、なんていうことでしょうか。

最近は海外投資家とのやり取りが増えていることもあって、IRパーソン採用で英語必須にしているところも多いようです。確かに話せれば良いに越したことはありません。でも必要条件ではないと思います。1時間という限られた時間なので、効率よくやるためには英語でやり取りすべきでしょうが、ここは努力でカバーできる部分も多いです。例えば、ヒアリングだけは自分で頑張って、話すほうだけ通訳してもらうとか、数字に関しては自分でダイレクトに伝えるとか。最近日本株のみの運用者が減ったとはいえ、日本株運用に携わる方は一定日本に興味を持っている方が多いので、日本人特有の英語もしっかりと聞き取ってくれます。配偶者が日本人というケースも結構あります。なので、身構えず英語と日本語を使い分けて自信を持って話してください。投資家はIRパーソンの英語を聞きたいのではなく、企業の本質が聞きたいのです。
別の観点では、海外IRで通訳使うとざっくりone meetingで10万円とかになります。しかも、クオリティの高い方は限定的なので、これなら自分で単語繋ぎ合わせて話した方が良い、この通訳費用を英語学習費に充てて、次回は通訳なしで頑張るぞ、なんて思うことあります。投資家も完璧な英語は求めていません(1兆円以上の時価総額になってグローバルに投資する投資家が増えると、英語話せないならミーティング要らないという人も増えてはきます。勉強しましょう)。

では、IRにとって最も必要なことは何か?
私は
「会社に対する客観的な愛を持つこと」
だと思っています。惚れ込んではいけません。悪い面が見えなくなります。恋は盲目ですからね。ここはPRに任せましょう。
愛するために何をするか?まずは全てを知りたくなるはずです。私は初めて事業会社に行ったとき、その会社の設立から現時点までの月次データをすべて自分なりのシートでまとめ直しました。そうすると、事業の変遷がはっきりと見えてきます。それから、インターネットで会社のことやマネジメントのことを書いてある記事を全て読み漁りました。私が入社した時点で上場していましたので、1の部、2の部も読み込みました。私は当時のコーポレートマークに込められた意味まで調べました。細かい疑問点はコーポレートメンバーや古参メンバーに確認して、理解していきました。ここまでやれば問題なしです。あとは日々の変化を取締役会、CEO、CFO、経営会議等から吸収することで、IRに関する不安は消えていくはずです。全てに自信が持てるはずです。ここまでいくと、社内での情報パイプラインが必要になります。故に数字に強いだけの外様には厳しい面もあったりします。IRをやると全社を俯瞰的にみれるようになるので、個人的には優秀な社員のステップアップハブにIR部門がなれば良いなと思っていたりします。

最後に・・・
IRって企業ごとに違って良いと思います。事業も違えば、MVVも違うのですから、財務三表の形式以外はどんどん独自性を出してもらいたいなと思います。決算短信の「我が国経済は・・・」なんて愚の骨頂です。私はセルサイドアナリストとして中小型セクター、インターネットセクターを見てきたほか、バイサイドでは日本株全体を見てきたので、日本で上場する4000社のうちどうだろう2000社近くは見てきたと思います。その経験はこれから企業に還元していきたいなと思っています。最近IRアドバイザリーを提供する人も増えてきたと思いますが、一方通行のアドバイスだけはしないようにしてください。1社で長くIRやってきたとしても、それは1/4000の見方に過ぎません。発行体でも業種、規模などの違いで理想とするIRの姿は異なるはずです。これは私自身への注意喚起でもありますが、自身のアップデートを止めてしまえば、正しいIRアドバイスはできなくなります。皆で資本市場、とくにポストIPO企業やIPO予備軍が光り輝くためのお手伝いをしていきましょう!

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