ギンレイホールと私史

ギンレイホールが11月27日で閉館する。
移転先は未定だという。
今週末に迫った閉館を前に気持ちが落ち着かず、色々な思い出がフラッシュバックする日々なので、この思いを残しておきたい。

私はギンレイシネマパスの会員になって7年目になる。
何本の映画をギンレイで観ただろうか、と考えて数えてみたが、100を超えたあたりで数えるのをやめた。とにかく沢山の映画をギンレイホールで観た。
ギンレイホールの素晴らしいところはたくさんあるが、何といってもシネマパス(年パス)の存在だと思う。
それまでも映画は好きで、よく映画館に行っていたが、“自分で選んだ映画しか”観てこなかった。それがシネマパス会員になってからは、せっかく年パスあるし、ということでかかっている映画はとりあえず片っ端から観に行った。
これまで自分だったらまず選ばなかったような映画も、観てみたら面白い!なんてことがしょっちゅうで、本当にいい経験をさせてもらったと思う。こういう映画館はなかなかない。
これから先、こういう「思いがけない」映画との出会いがなかなかできなくなると思うととても寂しい。

最初に会員になったときに上映していたのは「あん」と「恋人たち」の二本立てだった。春だった。
それまでなんとなく洋画贔屓だった私は、「邦画かあ〜」なんて思いながら軽い気持ちで観始めたが、「あん」の「私たちはこの世界を見て聞くために生まれてきたんだから何者にならなくてもいい」という樹木希林の言葉に救われて、「恋人たち」でもがきながら少しだけ心に光が射す尊い瞬間を見て、ものすごい二本立てに放心状態で劇場を出た。
外に出ると、外濠沿いの桜並木がちょうど散り際で、ぬるい風が吹くなか、桜の花びらが静止してるのか?って思えるくらいに絶え間なく降りしきる中を、泣き腫らして気だるい気持ちで散歩して帰って、こんなに完璧な夜ってあるんだ、と思った。今でもあの夜を思い返すと夢を見ているような気持ちになる。

今でも人生ベストに挙げる「タレンタイム」と「人生フルーツ」を観たのもギンレイだった。タレンタイムはたしか夏で、冒頭の教室の電気が付くシーンでなんだか懐かしいような不思議な気持ちになったことを覚えている。
人生フルーツは津端さんご夫妻の暮らしを見ているなかで、あまりに素敵な光景に嗚咽し、嗚咽する自分に驚いた。

「勝手にふるえてろ」を観たのもギンレイだった。不器用で自意識が過剰なヨシカの姿に自分を重ねて、エンドロールが終わってもなかなかシートから立てなくなるほどに泣いたのを覚えている。

「エブリバディウォンツサム!」、「すれ違いのダイアリーズ」、「ブルックリン」、「はじまりへの旅」、「あさがくるまえに」…挙げ出したらキリがないくらい、大好きな映画と出会った。

まだギンレイホールが飲食OKだったときにはよくおにぎりを食べながら映画を観た。私にとって最高の夜は、おにぎりを食べながらギンレイホールで映画を観る夜だった。
ワインボトルを持ち込んで飲み飲み最終的にすやすや寝てるおじさんなんかもいて、みんな思い思いの最高の時間を過ごしている感じも好きだった。

自分の特等席、というのがきっとみんなあると思うけど、私は“テッドの隣”が定席だった。結構人気の席で、混んでる回は座れないことも多々あった。

累計何時間あの空間で過ごして、泣いて、笑って、寝たか、わからない。
辛いことや悩みごとがあるといつもギンレイに行っていた。映画を観てる間は何も考えなくて済むから、ギンレイホールは私の心のシェルターだった。
何かあったら足が向いたし、何もなくてもなんとなく居られる場所だった。

正直、本当にこれからどうしたらいいのか…と途方に暮れているし、もうあの時間を過ごすことができないと思うと悲しい寂しい。
だけど、とにもかくにもギンレイホールには感謝の気持ちしかない。私の日々をたくさん救ってくれたし、忘れられない夜をたくさんくれた。私の人生というと大袈裟かもしれないけど、それでも、私の人生のなかにあのギンレイホールが在って、本当によかった。
新しいギンレイホールのオープンを信じて、ずっと待ちたいと思う。

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