見出し画像

【解説】gnin "ヤッテマレ (ラッセーラremix)"

<元曲>

KREVAが今週リリースした新曲「ラッセーラ」のトラックを使っています。

CDジャーナルの記事によると、

KREVAは、「青森はダンスの街!」に向け、ダンスへの取り組みを盛り上げたいという青森市の思いを受け、新曲「ラッセーラ」を制作。もともと青森はKREVAにとって自身の出生地であり(母親が弘前市出身)、さらには大切な音楽パートナーであるSONOMIや熊井五郎の出身地でもある縁深い街。本楽曲は、2023年1月21日に東京ドームで開催された「ふるさと祭り東京」(青森ナイト)で青森市観光大使、BLUE TOKYOのメンバーと青森出身のダンサーたちにより初披露された楽曲でもあり、満を持してのリリースとなります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/3f78f9d98cd76850f306cdb2ddfe6203bf1b8643

とのことで、トラックには青森ねぶたの囃子の音色がサンプリングされているほか、歌詞の中にも「人生は甘くない/甘いのはりんごだけ」「甘える気持ちに睨みきかす/まるでねぶたみたく」と青森要素がちりばめられています。ちなみにアートワークは「津軽塗」という青森の伝統工芸です。実家にも津軽塗の箸やお椀などがありました。

ときに、日本のヒップホップとねぶた祭の組み合わせの他の例を挙げると、まずはAwichによる「NEBUTA」があります。

これも(おそらく)今回の「ラッセーラ」と同じ囃子をサンプリングして使っているほか、MVも前編青森ロケとなっています。この曲の経緯についてはAwichはこう語っています。

青森はJNKMNとPETZの故郷でもあるし、YENTOWNのファンもめちゃくちゃ多いし、いつも歓迎してくれる場所なんですけど。ライブで青森に行ったとき、ねぶた資料館に行ったんです。そうしたらめちゃインスパイアされちゃって。その年の優勝したねぶたが飾られてて、とにかくかっこいいんですよ。踊りのレクチャーとか太鼓とかもあって。さすが日本が誇る祭のひとつだなと思って、無我夢中でビデオを撮ってたんです。ちょうどそのときSam Tibaと連絡取ってたんですけど、このビデオを送ったらどう調理してくれるんだろう?と思って。それで「ねぶたっていうやばいカルチャーがあるからそれを曲にしたい」って送ったら、Sam Tibaもめちゃインスパイアされちゃって。それで、3日でできたビートがこれです。

https://block.fm/news/awich_kujyaku_interview

そして、直接的には関係ないですが、RHYMESTERがPUNPEEを迎えて制作した「SOMINSAI」と言う楽曲も、ねぶたにインスピレーションを受けた楽曲です。

タイトルの元になっているのは岩手を中心に各地で開催されている「蘇民祭」なわけですが、宇多丸のヴァース内「一日だけのヤリチンとビッチ」という部分は、青森に行った際に地元の若者にねぶた祭の夜の無礼講っぷりを聴いたことから着想を得たと、どこかで語っていました(ソース見つからず、失礼)。

この他にももっとあると思うのですが、とりあえず思い浮かんだ2つを上げておきました。

余談ですが青森県はKREVA、熊井五郎、JNKMN、PETZの他にも、I-DeA、MARIA、Authority、Dr. マキダシ、ハハノシキュウ、cherry chill will.(カメラマン)、などなどのヒップホップ関係者を輩出している土地でもあります。

<歌詞>

※()内が標準語訳です。

[Hook]
こんな時代だばって これだけは明確
(こんな時代だけどこれだけは明確)
常に二者択一 人生は
迷っちゃー暇だばねーや
(迷ってる暇ならないぜ)
やるがやんねがだばdangerでも前者
(やるかやらないかならdangerでも前者)
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ

「ねぶた」と一口に言っても、青森県には「3大ねぶた祭」というものがありまして、それぞれがほとんど別物といっていいくらいぜんぜん違うお祭りです。その3つとは「青森ねぶた」「弘前ねぷた」「五所川原立佞武多(たちねぶた)」。今回KREVAが言っている「ラッセーラ」とは青森ねぶたの掛け声です。僕は五所川原市の出身なので、立佞武多の掛け声「ヤッテマレ」というのをタイトル、およびフックのフレーズに使うことにしました。「ヤッテマレ」というのは「やってしまえ」という意味です。ちなみに「弘前ねぷた」の掛け声は「ヤーヤドー」。

たげやべーって言わすまでなんべんだって again
(「超やべー」って言わすまでなんべんだって)
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ

[Verse 1]
やるがやんねーが そいだっきゃ問題じゃねぇ
(やるからないか それは問題じゃない)

シェイクスピアの「To be, or not to be, that is the question.」(生きるべきか死すべきか,それが問題だ)ですね。

do or die 前者以外論外
死ぬほどやりてぐねーってことでねんだば
(死ぬほどやりたくないってことじゃないなら)
年がら年中やってまなが
(年がら年中やってしまえ)
派手に真ん中 でやってもいいし

前の小節の終わりと次の小節の頭で踏む、というのは「返り韻」(命名誰?)と呼ばれていて、KREVA(だけじゃないですが別に)が多用することで知られています。今回の「ラッセーラ」でも「一歩前に/きっとやれる」ってやってますね。ここはそれをいい感じに再現できたんじゃないでしょうか。

こっそりすみっこでやってもいいやるんだば
(こっそりすみっこでやってもいいやるんだったら)
だばってやるまえがら諦める?
(でもやる前から諦める?)
せばだばまいねびょん
(それならだめだろ)

「せばたばまいねびょん」は津軽弁の中でもその強いインパクトで有名なフレーズです。正直、僕はあまり使ったことはありませんが、使う人は全然使います。

背中から羽びよーん
飛び立つ方向はbeyond the average

2006年から続いている長寿ラジオドラマ「あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」から。あ、全然青森は関係ないです。

平均以上 前人未到
やんねがったやつ尻目いい気味っしょ
(やらなかったやつ尻目いい気味っしょ)
「なしてそったにやれるんだば?」
(「どうしてそんなにやれるんだい?」)
しかへらいねーやーmy haterさばだっきゃ
(教えられないな my haterになら)
だばってきいぢゅうおめんどmyけやぐだはんで
(でも聴いてる君たちは僕の友達だから)

[Hook]
伝えるこれだけはremember
常に二者択一 人生は
迷っちゃー暇だばねーや
やるがやんねがだばdangerでも前者
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ
たげやべーって言わすまでなんべんだって
again
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ

[Verse 2]
人生は甘くない

元曲の「人生は甘くない/甘いのはりんごだけ」から。ちなみにここからの4小節ほどだけ、何故か完全に標準語になってしまいました。

甘いのはりんごとだけのきみだけ

「だけのきみ」とは「嶽きみ」という青森県のブランドとうもろこしです(きみ=とうもろこし)。めちゃうまい。

ぼくだけのきみ 抱けえっ!!抱けえっ!!
ノスタルジー感じさせる言語表現

藤子・F・不二雄の『ノスタル爺』という名作短編がありまして、その中に「抱けえっ!!」というセリフが出てきます。東北の方言というのは、西日本の方言に比べるとなにかと「田舎」というイメージを持たれがちだと思っていて。芸人さんがコントで田舎者を演じるときなど、ズーズー弁っぽいアクセントになることが多くて、西日本方言が使われることってあんまりない気がするんです。これって普通に見下されているってことなんだと思うんですが、あえてよく言えば誰にでも「ノスタルジー」を感じさせられるということなんだと思います。

全国全土へ よし行くぞ~

国内旅行、全然したことがないのであちこち行きたいぞ―、という意味です。今行きたいのは札幌と広島。

KREVAからマイクパス
北からいただく

北海道のヒップホップグループ、THA BLUE HERBの「COAST 2 COAST 2」と言う楽曲からの引用です。

これがわぁのJappajil Flow
(これがぼくのJappajil Flow)

TyOurhome、LUNV LOYALという秋田出身のラッパー二人の楽曲に「Iburi Gacko Flow」という曲がありまして。この曲の中でLUNV LOYALは秋田方言をクールなフロウに乗せることに成功しています。それにヒントを得て、それならこのラップは「Jappajil Flow」だということです。じゃっぱ汁というのは津軽の郷土料理で、通常は捨ててしまう鱈の「あら」を色々混ぜて煮込んだ汁物です。


こっから先はJapaneseも
わがんねーべ これはcoolじゃねばって しゃっけー 
(わからないだろう これはcoolじゃないけど冷たい)

「しゃっけー」は「冷たい」と言う意味で、coolじゃないけと冷たいよ、と言う意味です。「しゃっけー」は冷たいものに触ったときなどに反射的に出てしまうので、東京に来たばかりの頃はよく口走ってしまっていました(別に口走ってもいいんだけど)。でもそれも最近では「冷たっ」というようになってしまいました。すっかり東京に染まってしまいましたね。

がっふぇー? さしね
(ダサい? うるせえ)
こったのやっちゅーのほがさいねぇべ
(こんなことやってるの他にいないだろう)
なして標準語でらっぷしちゅんずや えふりこきだな なぁや
(なんで標準語でラップしてるの おまえかっこつけてんの?)

津軽弁でのラップ表現といえばなによりも吉幾三が挙げられると思いますが、彼が津軽弁の持つ「田舎臭さ」(ネタっぽさ)に与えた影響はあまりにも大きすぎたのか、津軽弁でラップする人は殆どいないのが現状です。名古屋や大阪や沖縄には方言でラップする人がたくさんいるのに。特に沖縄勢のローカルなラップのあり方には見習うべきところがたくさんあるように思います。去年、なんとなくUMBの青森予選を見に行ったのですが、あれだけローカルなラッパーしか集まっていない空間というのもないだろうに、皆標準語でラップしていました(津軽弁話者と南部弁話者が混在しているというのもあるでしょうが)。本場USでもおそらくアトランタ訛りやニューヨーク訛りでラップしてるんだろうから、もっと方言をうまく使う人が増えてもいいのになと思います。

このほんずなし
(この根性なし)
こっちゃやったもん勝ち 

[Hook]
だれもやってねーよーなこと
見つけた時こそ 思い出そう
あの懐かしい街の方向
から聞こえてくる野蛮な咆哮
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ
たげやべーって言わすまでなんべんだって
again
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ

remember これだけは明確
常に二者択一 人生は
迷っちゃー暇だばねーや
やるがやんねがだばdangerでも前者
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ
たげやべーって言わすまでなんべんだって
again
ヤッテマレヤッテマレヤッテマレ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?