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月刊 QはA #5 「ラブレター」

これは、Stiffslack Monthly 2021年8月号に掲載されたコラムのアーカイブです。

好きなバンドやレーベルに手紙を送るのがけっこう好きでした。今はSNSを通じて、空中に向かって漠然と好きと言ってみれば、本人に伝わるかもしれんねえ、共感してくれる仲間が見つかるかもしれんねえくらいのゆるさでコミュニケーションできてしまうけれど、インターネットが普及する前は、やたらと直で手紙を書いてました。

好きなバンドに手紙を書いて送る遊びは高校生の頃から始まったと思います。当時よく聴いていたスラッシュとか少しヘヴィなオルタナバンド、例えば、Nuclear Assault、Mordred、Saigon Kick、Warrior Soulとかそういう系のバンド達に送ってました。本人から直々にメッセージが返ってくる場合や、レーベルから定型文の手紙とちょっとしたマーチが送ってくることもありましたわ。拙い英語の手紙でも辞書をひきひき頑張って書いてみれば海の向こうから返事がもらえるってことが神秘に思えて面白かったですわ。回数的にはJane's Addictionに一番多く送ったと思う。

Nuclear Assaultがらみでは、中古で買った好きなアルバムに歌詞カードが付いてなかったことから、アルバムまるごと自分で勝手に歌詞を聞き取って書き起こして、自前の歌詞冊子を作って歌って遊んだりしてたんです。で、その冊子を「僕、こんくらいあんたらのこと好きなんやで」と言わんばかりにバンドに送ったんですよね(なんでやねん)。向こうはそんなでたらめなモノを送ってこられても困るだけだったろうに。数ヶ月後にNuclear Assaultから、僕が歌ってる歌詞はこうだよと正しい歌詞を一覧できるプリントアウトとステッカーが送られてきたり、そういう嬉しい体験もあったな。当時の筆まめ期を思い返すと、恥ずかしいことばっかりやらかしてた孤独なロック少年だったんですが、本人に直接好きですとシンプルに伝える潔さだけは買えるかもなと、せいぜい許してやりたいです。

zirconiumを始めるくらいの頃は、Smells Like Recordsとかその周辺のバンドとよく手紙のやり取りをしていた記憶があります。Two Dollar GuitarとかCellとか。Bright Eyesが売れて大きくなる前のSaddle CreekやCursive周辺ともよくやりとりしてました。メールオーダーで音源を買うときにちょっとした手紙をつけたりすると、商品と一緒に手紙がついてたりするような、小さなやりとりが徐々に膨らんでいく感じだったとおもう。KやCrank!ともそんな感じで頻繁に手紙の行き来がありました。自分の音源を送ったりすると、向こうからもデモ音源とかジンを定期的に送ってくれたり。地球の片隅に点在しているアンダーグラウンドな音楽愛好家が、コソコソニヤニヤと情報を交換して遊んでいるような感じでしたわ。そんなことをやってるうちにイタリアとかスカンジナビア方面とか、意識していなかったエリアからも手紙が届くようになったりして色々面白かったですわ。

アメリカの誰かが送ってくれた雑誌にJohn Reisのインタビューが載っているのを見つければ、日本で読みたがりそうな愛好家に連絡をとって送ってあげたり、Most Secret MethodのRyanの描いたポストカードを入手すれば、欲しがりそうなバンドマンにそれを使って、最近聴いた音源の感想、観たライブの感想を書いて送ったり、今と比べると、とんでもなく手間もかかるし、まどろっこしいコミュニケーションだらけの世の中でしたけど、なんか楽しくもありましたよ。おしまい。

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