ゲームの「使い回し」について考えてみる
つかいまわし
つかひまはし 【使い回し・使い廻し】
《名・ス他》
1.工夫してさまざまに使うこと。
「この服は―ができて重宝だ」
2.さんざんに使うこと。酷使すること。
「使い回し」というと、ポジティブな意味とネガティブな意味、両方で使われる。前者はいわば「上手い使い回し」だ。汎用性の高さや使い回せる箇所を見出した工夫を称える意味で用いられる。一方で後者は「下手な使い回し」となる。何度も使い回されて新鮮味が無いだとか使い回し過ぎてボロボロだとか言われるようなヤツだ。
ゲームにおいても使い回しは至る所に存在する。そしてその使い回しは、ときにゲームを良くし、ときにゲームを悪くしている。使い回しはゲームの中核を担っていると解釈することも出来る。
この記事では、そんなゲームの「使い回し」について考えてみる。
そもそもなぜ使い回すのか
そもそもな話、なぜ使い回しをするのだろうか。常に新しい刺激を提供出来るのならそうしたほうがより良いゲームになるだろう。しかし、世の中そうしたゲームで溢れているかといえばそうでもない。何故なのだろうか。
新しい刺激が提供され続けて最終的なプレイ時間は100時間を越える。そんなゲームを1年かそこらで作れたら理想的だが、実際にはゲームのボリュームというのは汗をかいて開発した分だけ積み上げられていくものだ。しかしゲームを遊ぶ人は6,000円払ったら20時間は遊べないと割に合わないと思っている。さあどうしよう?
時間も人的資源も限られる世界で、短期間で一定のボリュームを作るには工夫が必要だ。そこで用いられるのが「使い回し」である。敵が5体必要な箇所があったとして、新規の敵を5体用意するのではなく、同じ敵1体を使い回せば、単純計算で5倍効率が良い。もちろん、実際の開発ではこんな単純な図式にはならないし、こんな雑な使い回しはなかなか起きないだろうが。
ユーザーが求めるボリュームを短期間で用意するために用いられる工夫が「使い回し」というわけだ。
使い回しが少ない=良いゲーム?
使い回しが少ないゲームについて少し考えてみる。僕が真っ先に思い付いたゲームが『Undertale』だ。まあ正確に言うなら、一回きりの特殊処理がたくさんあるゲームと言えるだろうか。
新しい刺激に満ちた名作インディーゲーム『Undertale』
使い回しが少なければ、そのゲームは新しい刺激に満ちたゲームと言える。そうしたゲームは飽きずに最後まで遊べることが多い。逆に、「なんだか同じことの繰り返しだな」と感じてゲームに飽きてしまうのはよくあることだ。
となると、使い回しはなるべく少ない方が面白いゲームになると言えるだろう。
使い回しは悪なのか?
では使い回しは悪なのだろうか。ユーザーからは呆れられるだけの、ボリュームを出したいゲーム開発者の滑稽なあがきに過ぎないのだろうか。
断じてNOだ。使い回しはそれこそ上手く使えばボリュームを生み出し、ユーザーも満足いく体験を作り上げることが出来る。
というわけで、使い回しを上手にやっている例を1つ挙げてみよう。
序盤で出て来たボスが終盤で雑魚として登場する
はい。全ゲーマーが大好きなヤツが出て来ましたね。これが嫌いな人なんて存在するんですか?序盤ではあんなに強敵だったボスを成長したステータスやプレイ技術で瞬殺するときの快感。もう最高だろうこんなの。
ユーザーは成長を実感出来て、開発者は終盤の雑魚敵を作るコストをカット出来た。双方にメリットがある使い回しだ。
使い回しがもたらすプレイヤーへのメリット
実は使い回しには他にもプレイヤーにメリットがある。それは、「新しく覚えることが少なく済む」というものだ。
ゲームはたいてい以下の流れを踏襲している。
→計画を立てる
→実行する
→結果を受ける
→また計画を立てる(以下繰り返し)
こうした学習サイクルを楽しむのがゲームだ。使い回しはこのサイクルにおける「計画を立てる」部分に関係してくる。計画を立てるのは、ゲームから得られる情報を元に行う。このとき、既に見たことのある要素が使い回されていたらどうなるだろうか。
【スライム】と戦ったことがあれば、似たような姿をした【スライムベス】と初めて戦うときにどう計画を立てればいいか足がかりになるだろう。もちろん実際の【スライムベス】の強さは分からない。しかし【スライム】との戦いの経験が計画を立てるのに役立つのだ。
完全に新規の要素だと計画を立てるのは難しい(もちろん優れたゲームは新要素の導入は丁寧にやる)。だが使い回しによって既に知っている要素を土台にすることで、プレイヤーに気付きを促したり、より高度なプレイを求めることが出来るのだ。
そしてスライム系との戦いに慣れた後に、【メタルスライム】が登場するとどうなるか……ここから先は自分の目で確かめてみよう!
新要素でたたみかけてくるゲームは素晴らしい。しかし、上手に使い回して学習のサイクルを整えているゲームもまた大したものだ。
限られたリソースの中で、どうやってゲームを面白くするか?
ゲームの「使い回し」は、開発者達の工夫が詰め込まれた知恵と技術の結晶なのだ。
おまけ:使い回しと言えば任天堂
使い回しがスゴく上手いと僕が思っているゲーム企業がある。任天堂だ。初代マリオブラザーズでも使い回しが行われている。
コレがそのときの用紙なんですけど、
「水中2+α」と書いてありますね。
これ実は、当時3-2で予定していた「水中2」の
プラスアルファなんです。
つまりワールド3-2の水中ステージの地形を変えずに、
敵の数を増やしたりして、
ワールド7-2に持って行くアイデアが書かれてるんですね。
実際のゲームでは、「水中2」はなくなって、
最終的に、7-2は「水中1(2-2)+α」になっていますが。
つまり、ワールドが増えたからと言っても、
流用するから大丈夫だよと。
社長が訊く『ゼルダの伝説 大地の汽笛』携帯機ゼルダの歴史 篇 [番外篇]裏ゼルダの裏話より引用
昔のゲームは容量制限が厳しかったらしい。その中でも上手く使い回してボリュームを出していたのだろう。こうした使い回しは後のマリオシリーズでも受け継がれている手法のようだ。
以下は『スーパーマリオ3Dランド』での話だ。
たとえば『ギャラクシー』のフライングマリオのようなものは、
ゼロから考えなければならないので
ものすごく時間がかかるんですが、
「ファイアマリオ」の動きと敵の「ブーメラン」を
組み合わせることで、「ブーメランマリオ」という
新しい変身マリオが誕生するんです。
社長が訊く『スーパーマリオ 3Dランド』プロデューサー 篇 3.ライバル登場より引用
こんなふうに、任天堂は使い回しを上手に使ってゲームを面白くしている印象がある。特に今度HDリマスターが発売される『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』なんかは使い回しの極意がふんだんに盛り込まれた作品だと僕は思っている。
今度ゲームを遊ぶときは使い回しに注目してみてはいかがだろうか。
いつもと違うゲーム体験が味わえるかもしれない。
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