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一所懸命に、本気で、戦うということ。

7月17日、J3リーグ第17節・鹿児島ユナイテッドFC戦は、フットボールが生み出す激しい熱量を感じずにはいられない試合となった。

試合前の桜島の噴火から始まった今節。鹿児島の誇る雄大な自然を目の当たりにして、個人的には若干浮き足立っていた。

試合はやはり、ここまで首位でホーム負けなしの鹿児島が優勢に進める展開だった。

前半戦最終戦となる今節、鹿児島ユナイテッドFCは、今季対戦したどのクラブよりも"フットボール然"とした試合を展開していた。
ボールの収め方、パスの質、選択肢の取り方、そしてスピード。春からJ3上位をキープし続けた理由の分かる、強いチームのサッカーだった。

相模原はチャンスを作りつつも、攻め入られる展開が続いた。身体を張ったディフェンスを続けて、守備で集中を切らしていない雰囲気は十分に伝わったが、それでもやはり押されている感は否めなかった。

前半が終わった頃、運動量の面から考えて後半はかなり追い込まれた戦いになるだろうと思っていた。

予感は的中した。
60分過ぎ、今季途中加入ながらチーム得点王、既に相模原の柱といってもいいFW加藤拓巳が足をつった。
時間帯から考えても、これ以上のプレー続行は厳しかった。67分、やはり加藤は途中交代となり退いた。

5000人近い観衆の遠方アウェイ、
クオリティの非常に高い相手、
そして柱を欠いた相模原。
スコアこそ0-0だったものの、正直、今季一番難しい試合展開だと思っていた。
けれど、それを打開したのは、他でもない、ピッチに立っていた選手達だった。

加藤に代わって途中出場したFW浮田健誠は、加藤に負けじとばかりにボールにチャレンジし、また足元の上手さと視野の広さを活かしてチャンスを創出した。ここ数試合の意気新たな勢いそのままに躍動していた。

元々出ていた選手達も、ボールに対して積極的に挑む姿勢がより出てきたように感じた。

柱を欠いたことで、選手それぞれが、とても積極的になっていた。

SC相模原はまだ完成しているチームではない。
途中加入の柱は、ピッチでの存在感とゲームへの貢献だけでなく、それ以上のものをチームにもたらしてくれたのだと思う。

目の前のボールを奪うこと。
ボールを前へ、前へ、進めていくこと。
1つの試合、1つのゴール、1つのプレーに、全力を注ぐこと。
そういう闘志が、昨日の相模原の選手からは痛いほど感じられた。

そして、80分。
FW船山貴之からの浮いたパスを浮田がフリーになっていたMF藤本淳吾の足元へ見事に落とすと、藤本はそれを運んで横へ流す。
絶妙なラインを転がっていったパスは、MF安藤翼の足元へ。ボールを受けてから即座に切り返して冷静に相手DFを剥がすと、足元で止まったボールとゴールの間に、射線が生まれた。

バックスタンドから見ていて、この瞬間確信した。強いシュートはいらなかった。
サイドネット目掛けて、キーパーの手の届かないところへ、見えない誰かへ向けてスルーパスを出すかのような、丁寧なコントロールショット。
難しい体勢だったのが感じられないほど、落ち着いた軌道を描いたボールが、ゴールネットを揺らした。

安藤にとって今季初得点。
昨季は、試合後にアウェイのゴール裏サポーターへ向けて肉声で気持ちを伝えてくれた、真っ直ぐで熱い心の持ち主。
彼がゴールを決めれば、相模原を応援する全ての人が喜ぶ。今季、今までの僕らの曇った気持ちを吹き払うかのような、値千金のゴールだった。


しかし、前節終了時点での首位・鹿児島の攻勢は強まる。ゴールから試合終了までのAT含めた15分間、鹿児島の決死の攻撃に晒され続けた。

前へ前へという圧、ロングボール、ドリブル、あらゆる手で得点を奪おうとしてきた。
今季これまで白波スタジアムでは無得点がなかった鹿児島。「点を取れないはずがない」という自信に満ちたようなアグレッシブな攻撃だった。

けれども、相模原の選手達は集中を切らさなかった。何人もの選手が足をつった。それでもボールを奪って、安全圏へ脱するという、我慢に我慢を重ねた時間を耐え抜いた。

よくサッカーでは、「良かったことは続けよう」と言われることがある。
もちろんそう思うし、その積み重ねがより高い目標、そして未来への道標になっていくのは間違いない。

けれども、鹿児島のピッチで懸命に戦った選手たちを見て、「良いことを続ける」ことがどれだけ大変か、改めて感じた。

試合終盤、序盤から攻守によく貢献した影響か、MF中島賢星が足をつって敵陣で倒れ込んだ。けれど、それでもなお、中島は皆が繋いで決めた虎の子の1点を守ろうと、つった足を引きずりながら帰陣した。
人生で、足をつりながら、それでもなお必死に何かを守り抜くため、痛みに耐えながらも結果を求めて走ったことのある人間が、どれほどいるだろうか。

「良いこと」が簡単に続けられないのは、当たり前の事なんだと思う。
全員が決死の覚悟で、本気で強敵にぶつかって、劣勢をひっくり返して取った、大切な勝ち点3。

これを、「続けよう」で済ますことが、僕はできなくなってしまった。
また次節、一所懸命に、ガムシャラに、相手とぶつかって、身体を張って、勝ち点3を得るために戦う。それが続いていく。

「続ける」ではない。
応援している側も含めて、次節、また一から、本気の真剣勝負が始まる。
僕はそれを見守りたい。応援したい。

彼らがそれに「挑む」限り、僕らもそうしない理由は、どこにもない。

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