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夢が動き始めた瞬間を見た話

2022年9月11日、横浜。
神奈川県のサッカーを牽引してきたスタジアム、ニッパツ三ツ沢球技場で、17歳のサッカー選手に託された夢が動き始めた。

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SC相模原・背番号40、藤野心魂選手。


SC相模原のジュニアユースを経て、現在はユースとトップチームの2種登録。

春先にトップチームに登録をされ、練習参加や遠征帯同をすることもあったが、これまではユースでの出場がメインだった。


今節の出場の話を監督からされたのは、試合2日前のことだったという。


ニッパツ三ツ沢球技場は、彼と父・大和さんにとって思い出の地だった。

当時横浜FCのサポーターだった父に連れられて、小さい頃から通っていたスタジアム。
横浜FCの昔の映像には、父に肩車をされながらフラッグを振る1歳の藤野心魂選手が映されているという。

幼い頃からスタンドに通ったスタジアム。
十数年の時を経て、選手・藤野心魂として三ツ沢にやってきた。

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チームバスを見つめる父・大和さん

チームバスから降りた心魂選手が、振り返って父・大和さんを見つけ、軽く手を上げて、選手入口へ歩いていった。

それを見た大和さんは、その場に座り込み、涙を流していた。


プロとして通用する選手になるために、親子で様々なチャレンジをしてきたという。

その一つが、食事。

大和さんは、心魂選手の食事面のサポートのため、アスリートフードマイスターの資格を取得した。
そして、食事から我が子を後押しする意味合いも兼ねて、相模原駅から徒歩数分の場所に、居酒屋「観鶏」を開いた。

相模原サポーターが自然と集まり、SC相模原の今と未来の夢を語らう場所。もちろん、心魂選手の話はいつも話題になる。

気付けば、観鶏に集まって相模原を応援する多くの人たちが、彼を応援し、デビューを心待ちにするようになっていた。


2種登録されてから、待ち焦がれたデビュー戦。

メンバー発表で、サブメンバーとして名前がコールされただけで、三ツ沢のアウェイスタンドからは大きな拍手が送られた。

試合は相模原優位に進み、時間を経るごとに面白いように得点を重ねて行った。

1-0、2-0、高まる熱と共に、徐々に心魂の初出場を期待する空気がゴール裏に充満していた。

後半に入り、3点目が入って少しした辺りの時間帯、室内のアップスペースで何人かの選手が強度を上げて走り込んでいる様子がガラス越しに見えた。

大量リードの興奮と同時に、もはや、出るならこのタイミングしかないという、今か今かと初出場を心待ちにする空気がスタンドから満ち溢れていた。

4点目が入る前、アップエリアから出てウェアを脱いだ心魂の姿が見えた。

ゴール裏に、一気にざわめきと歓喜が広がった。


心魂をプロに。

家族、そして何人もの指導者が、彼に期待して、1つの目標に向けて、たくさんの時間を共にしてきたことだろう。
そして、その期待に応えて、自らの力で多くのステップアップをしてきたからこそ、用意されたあの晴れの舞台だったのだろう。

これまでの時間が、
ファン・サポーターが、
ピッチで戦う先輩たちが、
見えない何かに導かれるように、これまでの時間と、人々の思いが、彼をその場所へと後押ししていた。

三ツ沢球技場のピッチが、藤野心魂を呼んでいた。



ピッチ脇、中央に心魂が立つ。
スタンドのざわめきが収まらなかった。
まるで、自分の家族が出場するかのように、胸が高鳴った。
大量点差に沸くアウェイエリアのボルテージが、最高潮に達した。

そして、40番のユニフォームがピッチへ。

大きな拍手が響いた。


興奮するスタンドとは対照的に、初出場とは思えない落ち着きを見せながら安定したプレーをする選手・藤野心魂がピッチにはいた。

ワンタッチ、サイドチェンジ、ボール奪取、20分ちょっとの出場ながら、多くのプレーで存在感を発揮した。
前所属の川崎フロンターレ仕込みであることを感じさせる、基本に忠実で堅実なボールタッチも見事だった。


あっという間に終わった初出場。
試合後には、ファン・サポーターへの挨拶役を任され、皆の前で踊ったりと、茶目っ気とメンタルの頑強さを感じさせるシーンが見られたのも良かった。



きっと、Jリーグのピッチに立つこと自体は、彼の夢や目的ではない。
その先の、もっと壮大で胸が高鳴る夢が彼にはあるのだと思う。

そして、三ツ沢のピッチに駆け出したあの瞬間、その夢は、より大きな夢へと変わった気がする。


彼の夢が、家族の夢や指導者の夢に、
仲間たちの夢に、そして、応援する僕たちの夢に。

彼を応援する1つの大きな家族に、夢ができた。

心魂がビッグな選手になれるように。
心魂と一緒に、何処までも上を目指せるように。


SC相模原で、大きなひとつの夢が、動き始めた。


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