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岩澤里美:全身重度の大やけどで見た目問題に苦しんだ女性は、どうして「自分は美しい」と思うようになったのか


photo:hautstigma.ch

<変わってしまった自分をどうやって認めることができたのか......>

日本では「見た目問題」という言葉が多く聞かれるが、見た目でいじめや差別を受けている人たちはヨーロッパにもいる。

Changing Faces(顔や体のあざや傷、症状など目立つ損傷をもつすべての人たちが、その人らしく生きていけるよう支援しているイギリスの団体)によると、イギリスには先天的・後天的な理由で特徴的な外見の人が少なくとも130万人いると推定され、その違いが顔にある人は56万9000人を占めている。同団体の調査では、そうした人たちの中でも、若者のほぼ半数が学校で外見に関していじめを受けた経験があるという。そして、その80%が学校側は助けてくれなかったと感じている(中学校時代に助けてもらえなかったと感じた人は小学校時代より9%多い)。

筆者の住むスイスでは、先月、フリーペーパー「20ミヌーテン」で公開された女性のビデオレポートが注目を集めた。21歳のマファルダ・ダ・シルヴァ(Mafalda Da Silva)さんが子どもの頃の事故について語り、大やけどによって変わった自分の顔をありのまま見せている。

7歳の時、旅行中にガス爆発

マファルダさんは、7歳の時、家族旅行でポルトガルに滞在していて大やけどを負った。ある朝、ポルトガルの別荘で父親が目覚め、室内が臭いことに気づいてガス栓を止めたが、朝食を用意するためにお湯を出した瞬間に爆発が起きた。マファルダさんはまだ寝ていて、火の海の中で目が覚めた。熱気がおそい、ほんの短い間に「自分は死ぬのか生きるのか」などありとあらゆる思いがこみ上げたという。ショックで動くことができずにいたが、1歳年上の兄が部屋に助けに来てくれ、一緒に脱出し一命を取り留めた。

別の記事で「兄と一緒に近所の家へ駆けこみました。自分の体から皮膚が剥がれるのを目の当たりにしました」と描写しているように、その時の彼女のショックは想像に難くない。医師たちは、マファルダさんもやけどを負った彼女の家族や親戚も助かる見込みは少ないと思ったという。

入院は計11カ月に及んだ。リハビリをしているときも、麻酔をしないと痛みをこらえられないほどだった。これまでに受けた手術は30回に及んだ。やけどの跡は顔だけでなく、全身にある。

いじめに悩み、自殺を考えたことも

退院後、外出時にやけどの跡のために多くの視線を浴びるのは耐え難いことだった。しかし、小学校に戻ると、マファルダさんはクラスメイトたちが自分のことを受け入れてくれたと感じた。学校側が事故のことをほかの児童や親に伝えてくれたからだ(皮膚疾患の子どもや若者とその親族をサポートするスイスの団体Die Hautstigma-Initiativeのマファルダさんの紹介

それから1年ほど経った小4のとき、マファルダさんは小さい町から都会のチューリヒに引っ越した。そして、新しい小学校に通い始めたとたん「焦げたニワトリ」だと言われ始め、2年間ずっといじめられた(唾を吐かれたり身体的暴力も受けたという)。当時、マファルダさんは強い薬による副作用で体がむくんでいたことから、「太っている」とも言われてさらに傷つき、自分のことを醜いと感じていたという。

「当時は毎日泣いていました。泣くことで嫌な気持ちを解消して、また、いじめに立ち向かおうと思えたのです」とビデオで告白している。とはいえ、いじめが耐え難く、自殺を考えたこともあった。遺書も書いた。しかし、自己啓発本なども含め様々なことに助けられ、自殺は踏みとどまった。

彼女はカウンセラーの言葉にも励まされた。「毎日5分間、鏡を見て自分のことをほめる」という行為をすすめられて実践し、「そうだ、私は可愛いんだ」と自分に言い聞かせていった。ひどいいじめは、小さい町へ再び引っ越したことで終わった。新しい学校では、みんながマファルダさんをありのまま認めてくれた。

自分は綺麗だと初めて自覚~恋愛も楽しむ

外見のコンプレックスを完全に克服したのは、18歳の誕生日を迎えて間もなくのことだったそうだ。着飾ってはいたが、自分のことを綺麗だとは思えなかった。ところが暑い夏の日に鏡に映った自分を見て、自分は本当はすごく美しいのだと気づいて涙が止まらなかったという。これ以上自分を苦しめるのはやめて、ずっと隠してきた体の皮膚移植の傷を見せようと決心した。(スイスの週刊誌『シュヴァイツァー・イルストリエルテ』)

いま、マファルダさんは「やけどの跡がなかったら自分はどんな外見だろうか」という想像はまったくしない。いまの自分があること、自分は誰なのかということに感謝しているし、そのことを誇りに思っている。

やけどの跡は、恋愛の障害にはならない。ビデオにはマファルダさんの恋人ニコラスさんも出演し、次のように言う。「初めて彼女を見た時、綺麗だという言葉以外見つからなかったです。ものすごく魅力的で、オープンな人で驚きました」。ニコラスさんがやけどのことを尋ねないので、聞く勇気がないからではと思い、マファルダさんの方から彼に聞いたほどだった。

ニコラスさんいわく「僕にとって、彼女が僕に対してオープンでいてくれることが大事だったので、ひょっとして話すのが嫌だったのならそれでいいと思っていたんです」とのこと。ニコラスさんはマファルダさんのおかげで新しいことをたくさん学び、経験したという。

現在、マファルダさんは看護専門職に就く勉強をしつつ、チューリヒ小児病院の専門家たちが運営する先述のDie Hautstigma-Initiativeの報道担当者・アンバサダーとしてテレビや雑誌に出ている。自分の経験を知ってもらい、彼女と同じような境遇の人たちにとってお手本となる人物になりたいという。

外見で差別を受ける子供が多い

ビデオレポートの最後には、いじめられている子どもや親たちに向けたサイトや電話番号が表示される。マファルダさんがいじめに遭った経験は特徴的な外見をもつ人たちだけでなく、そうした問題をもたない人たちにとっても役立つだろう。

最近のオンライン調査「子どもの権利の研究 スイス及びリヒテンシュタイン2021」*によると、両国では、ほかの生徒から32%が身体的暴力を受け、43%が心理的暴力を受けていることが明らかになった。また差別に関しては41%が少なくとも1回は経験しており、その理由は外見(21.4%)、出身地(8.2%)、年齢(7.5%)、性別(7%)などとなっている。

個人的な話だが、筆者は幼少時に怪我をして顔に傷を負い、ずっと顔にコンプレックスを抱えていた。もう気にしなくていいと思えるようになったのは、20歳のときだった。メイクをしっかりするようになり、それでも傷が目立つような気もしたが、傷に気づく人がいても自分はこのままでいいと思ったら吹っ切れた。いじめられたことはなかったが、外見でいじめや差別を受けた人の心は傷つく。ヨーロッパでも日本でもいじめや差別をなくすのは容易ではないが、なんとか変わっていってほしいと切に願う。

「子どもの権利の研究 スイス及びリヒテンシュタイン2021」
スイス及びリヒテンシュタイン・ユニセフと東スイス応用科学大学の共同。2019年11月~翌年6月実施。9~17歳が参加。スイスからは1428人、リヒテンシュタイ

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●掲載媒体:ニューズウィーク日本版 
https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2022/02/post-648_1.php
●掲載日:2022年02月24日(木)

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