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谷口輝世子:運動部の財源をどこに求め、どう分配するのか。ー米国学校運動部の悩ましい利害関係ー



筆者撮影

 日本では、教員の長時間労働が問題になっている。運動部を含む課外活動の指導もその大きな原因のひとつだ。本来、管理職は教員に対し、勤務時間外の課外活動指導を命令することはできない。しかし、実際には、管理職からの依頼を断り切れずに、仕方なく勤務時間外の課外活動指導を引き受けているケースが多数ある。週休日指導のわずかな手当を除いては、これらには、労働の対価が支払われていない。

 今、教員の長時間労働を改善するため、運動部指導を外部からの指導者に任せたり、民間業者に委託したり、地域移行する策が検討され、導入され始めている。これらの指導の多くは対価が支払われている。こういった策を広げていくには、教員の無償の時間外労働で賄ってきた労働分の財源をどこかで確保していかなくてはいけない。

 学校で運動部活動をしているのは日本だけではない。米国にも学校運動部があり、教員と外部からの指導者が報酬を得て、コーチをしている。公立の中学校や高校の運動部活動の主な財源は公金だ。米国の公教育は約1万4000の学区に分かれて行われていて、各学区の財源は学区の住民がおさめた税、州、連邦政府からのお金で成り立っている。このお金の一部が、中学や高校の運動部の活動財源にあてられている。全米高校協会によると、教育予算のうち1-3%運動部に割り当てている学区が多いそうだ。各学区は、教育予算をどのように分配するのか、運動部にはどのくらいの予算をつけるのかを決めているということだ。

 運動部に予算がついても、年度によっては住民からの税収が少なく、学区の教育予算そのものが減少することがある。そのときには、何を削減するかが話し合われ、運動部の活動予算も対象になる。割り当てられた予算は例年通りであっても、これまでに購入してきた用具や施設維持が高額になってきて、お金が足りなくなることも起こる。

 米国では運動部の活動予算が足りないときには、どうしているのだろうか。主な対応策は次のようなものだ。

 スポンサーや寄付を募って存続を図る。

 運動部そのものを削減する。

 参加する生徒から参加費を徴収する。

 アシスタントコーチという仕事をなくしてしまう。

 しかし、それぞれに悩ましい問題がつきまとう。

 例えば、生徒の保護者が大金を寄付した場合、圧力はなくても、その生徒を優先的に試合に出場させるよう配慮する、ということが起こるかもしれない。このほかに、特定の運動部だけに寄付が集まり、存続できる運動部とそうではない運動部にわかれたという実例もある。

 運動部を廃止するというのも難しい。財源はゼロではないので、どの運動部を削減するかという問題に直面する。米国では、全ての運動部の活動日数を一律に減らして費用を抑える方式を取っている学区はほとんどなく、全ての運動部のなかからいくつかを削減したり、チーム単位で削減したりする方式をとっている。

 ちょっと、ここで、米国の運動部の特徴を紹介したい。中学校よりも高校のほうが運動部数や活動日数が多い。公立校といえども、多くの集団種目ではトライアウト(入部テスト)を課し、試合に登録できる人数だけを入部させる。このため、同じ種目でも一軍、二軍に分かれていることがある。各運動部活動はシーズン制で3-4カ月の活動である。

 話を戻そう。予算不足への対応として運動部を削減する場合、同じ種目の運動部の一軍を残して、二軍を廃止する策をとる学区がある。また、財源を同じくする学区内の中学校の運動部を廃止して、高校の一軍だけ残すことが行われている。こうなると、トライアウトをパスできる能力を持った生徒だけが、公金を主な財源とする運動部の恩恵を受けられ、他の生徒は希望する種目での活動の機会を得られないことになる。

 それでは、参加する生徒から参加費を徴収することで運動部財源にするほうがフェアなのだろうか。ここでは、家庭の経済状況によって活動の機会に差がつくだろう。こういったこともあり、無償の義務教育を提供している学校で、参加費を集めるときには支払い免除条件も入れるように求めている州もある。

 低所得世帯には参加費の支払い免除をして、活動参加費を集めるのが最もすっきりするかといえば、米国の場合はそうとも言い切れない。

 カリフォルニア州では義務教育の無償提供に反するため、公立校でこのような参加費の徴収を禁じている。このほかの州でも、このような参加費の支払いを巡っては裁判に持ち込まれてきた。こういった経緯もあって、前述したように、参加費を集めるときには支払い免除条件も入れるように求めている州があるのだ。

 また、私が保護者として体験していることをお伝えしたい。次男は米国の公立高校で運動部活動をしており、参加費として年間350ドルを支払っている。支払い申し込みフォームには「参加費の支払いは試合での出場時間を保証するものではない」と明記されている。参加費を払っていても、プレー時間がほとんど与えられない生徒がおり、保護者のなかには、これをアンフェアだと訴える人もいるようだ。

 学区の財源の問題とはいえないが、参加費の徴収に関してもうひとつ引っかかることがある。先に高校の多くの集団種目はトライアウト(入部テスト)を課すと書いた。学校運動部に入るまでの小学生年代で、そのスポーツ種目経験がないと、トライアウトにパスするのは難しい。小学生は学校外でスポーツすることが多く、そこでもお金がかかる。要するに、小中学生時代にスポーツにお金を支払える家庭の子どものほうが、トライアウトをパスして高校運動部に入れるチャンスが高い。経済的に全く余裕のない世帯の子どもは、参加費の減免措置を受ける状況にまで到達するのが難しいのだ。並外れた運動能力を持っている生徒はこの限りではないだろうが。

 いっそのこと、学校と運動部活動を完全に切り離してしまえばいいのだろうか。学校運動部にはトライアウトのない種目もあるし、参加費徴収を導入している学区でも、低所得世帯には参加費の減免措置をとっていることが多い。米国に限っていえば、学校外でスポーツをするほうが、学校運動部よりもお金がかかるケースが多く、生徒が公共交通や自動車などの移動手段を持っているかどうかによってもスポーツできるかどうかが左右される。学校と運動部を完全に切り離すとスポーツする機会の格差はより拡大していくだろう。

 米国では、学校運動部と学業成績、高校中退、成人後の収入、運動習慣との関係を調べた研究結果が多く報告されている。こういった研究結果が、財源獲得と分配を決める議論の材料になっている。運動部の教育的価値を示す結果もあれば、その反証に近いデータも提示されているように見受ける。このことで、決めなければいけない立場の人にとっては、さらに葛藤や難しさを抱えることになる。

 これから日本でも公金に運動部活動財源を求める場合には、それが正当かどうかの科学的エビデンスを示すことを求められるだろう。また、公金、スポンサー、参加費徴収型であれ、財源を、子どもたちにどのように分配するのがフェアなのかが問われることになる。こういった大きな問いと格闘することが求められるのではないだろうか。

ヤフー個人に2022年1月27日に掲載 

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