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森 摂:セブン&アイの脱炭素戦略 50年に「実質ゼロ」へ

雑誌オルタナ64号(2021年3月30日発売)から転載

セブン&アイ・ホールディングスが「脱炭素」に向けて大きく舵を切った。2020年には、「50年までにCO2排出量実質ゼロ」や事業活動の100%再エネ化を矢継ぎ早に打ち出した。10年来サステナビリティ戦略に携わる、伊藤順朗・取締役常務執行役員に話を聞いた。(聞き手・森 摂=オルタナ編集長、副編集長=吉田 広子、撮影・川畑 嘉文)

店舗の脱炭素化、省エネと再エネで

─環境目標を「2050年までにCO2排出量80%削減」から「実質ゼロ」に変更されました。社内ではどのような議論があったのですか。

政府が「実質ゼロ」を宣言し、歩調を合わせることが大切だと考えました。ただ、80%削減にし、実質ゼロにしろ、気候変動対策には長年取り組んできましたので、経験値はありました。

2019年5月に発表した環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」では、「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・リサイクル対策」「持続可能な調達」の4分野で、2030年目標と2050年目標を掲げています。

こうした中長期の数値目標を掲げることに、社内でも議論がありました。30年後には私たち経営陣は会社にいないでしょうから、先のことにコミットして良いのだろうか。それでも、議論を重ねるなかで、やはり社会的なインパクトを考えて、最終的に2050年という長期目標を掲げることにしました。

自分たちができていることだけを発信するのではなく、これから目指すべき姿を打ち出していく必要性も感じました。ただし、絵に描いた餅にならないように、同時に「2030年目標」も設定しました。CO2削減に関しては、グループの店舗運営に伴う排出量30%削減(2013年度比)を目指し、今のところ達成できる見込みです。

─その後20年間で70%を削減していくのですね。この5年で1千億円を投じるそうですが、具体的にはどういう内訳でしょうか。

当グループのCO2の大半は店舗から排出されています。特にセブン-イレブンは国内に約2万1千店舗ありますので、冷蔵設備からの排出が占める割合が大きいです。

これまでも省エネ冷蔵設備の入れ替えなど環境投資を行ってきましたが、店舗に太陽光パネルを設置するなど、脱炭素に向けた施策をグループ各社で進めていきます。

電力販売契約(PPA)モデルの導入も検討しています。PPAは、発電事業者に大規模な太陽光発電所をつくってもらい、10─20年間程度の契約で、私たちが電力を買い取る仕組みです。どうしても削減が難しい部分は、森林減少・劣化の抑制による排出削減の二国間クレジット「REDD+(レッドプラス)」の取得も計画しています。

「CSR監査」で人権リスク回避

─ESG(環境・社会・ガバナンス)に関して株主との対話は増えていますか。

この4年ほど投資家面談を行っていますが、2019年ころから大きく潮目が変わり、とても増えています。ESGがトレンドになってきたのは良いことですが、一過性ではなく、永続的に取り組み続けることが重要です。

─これから日本でもNGOが重要なステークホルダーになってくると考えていますが、いかがでしょうか。

特に開発途上国では、人権侵害が問題になっており、NGOの存在感は十分認識しています。ただ、まだ協働するところまではできていません。

人権を含む持続可能な調達に関しては、2012年にCSR監査を始めました。リスクが高い途上国のお取引先工場に対して、私たちが費用を負担し、ドイツの認証機関が監査を行っています。プライベートブランドの「セブンプレミアム」やイトーヨーカ堂の衣料品などの製造にかかわる工場が対象です。

私も中国やミャンマー、タイで行われた監査に同行しました。対象の工場は450を超え、2年ほど前からは国内のお取引先でも実施しています。「合格しなければ取引停止」でなく、再監査で合格点を取ってもらえるように取り組みを進めています。

7年前から目指す「エシカル」な社会

─何が御社をサステナビリティの方向に動かしているのでしょうか。

小売業は、お客さまがいてこそ成り立ちます。1972年に制定した社是では、お客さまやお取引先、株主、地域社会、社員から「信頼される、誠実な企業でありたい」と、掲げました。セブン-イレブンの日本展開も、中小小売業の「近代化」と「共存共栄」を目指してのことでした。

1970年代初頭、イトーヨーカ堂がどんどん拡大し、中小の小売店が衰退してしまうのではないかという懸念があり、政府も大規模小売店舗法といった規制をかけました。

そうしたなか、米国で成功していた、セブン-イレブンのフランチャイズビジネスを導入し、日本の小さな商店を組織化し、近代化を進めました。「三方良し」の考え方に近いのですが、世間とともにお店も栄えていかなければならないと強く思っていたのです。

忘れられない出来事として、2014年に「エシカル(倫理的)な社会づくり」を「重点課題」の一つとして定めたことがあります。今では当たり前に使われますが、この言葉はどういう意味を持つのか、事業活動を通じてどう貢献していけるのか、深く議論したうえで決めました。表明したからには、やっていくという覚悟があります。

─地方の人口流出や新型コロナの影響で、小売業の有り様も変わってきていますね。

都会と地方でも異なりますが、商売の在り方自体を考え直していかなければならない時代になりました。コロナ禍で配達のニーズも高まっています。

小売店舗の少ない地域では、移動販売サービスを行っています。以前、移動販売で1日回ったことがあります。普通であれば、私たちが「いらっしゃいませ」「またお越しくださいませ」と呼び掛けますが、移動販売に行くと、本当にお客さまが喜んでくださって、逆に「また来てください」と言われるのです。商売冥利に尽きます。こうした社会の困りごとを事業に落とし込み、解決していきたいと考えています。

伊藤 順朗(いとう・じゅんろう):
1982年学習院大学卒業。1987年米クレアモント大学経営大学院に留学し、故ドラッカー教授に師事。1990年セブン-イレブン・ジャパン入社。2002年同社取締役。2009年5月にセブン&アイHDに転籍。2011年4月からCSR統括部シニアオフィサー。2016年12月から現職。

雑誌オルタナ64号(2021年3月30日発売)から転載
https://www.alterna.co.jp/36799/

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