第2話 有志男声合唱団

思い返してみると、2003年、中1の春、音楽の授業の歌のテストの日に欠席し、1人だけ別日に歌わされたような気がする。
そこで富岡先生は、私の歌声に何かを見出したようだった。

2学期になると選択授業というものが新たに設けられて、正規の時間割に加えて週に1時間だけ、音楽、美術、体育、家庭科などから選べる時間枠があった。
そのとき、迷わずに音楽を選んだ記憶がある。
富岡先生がとてもユニークで面白い人だったから。

音楽の授業では生徒一人一人に紙製の2穴ファイルが配布される。それを富岡先生は「高級ファイル」と呼ぶのだ。
しかも発音も、通常「高級⤴️ファイル⤵️」と言うところを先生は「高級⤵️ファイル⤴️」と発音し出すし。
「これ、文具屋で78円で見ましたよ…」って
生徒が言い出すと、「78円もするんだよ?」
「先生薄給だから十分高級なんだよな〜」と。
いや、返答に困るわw

そういえば、昼休みになると音楽室から歌声が聞こえてきていた。合唱部が練習でもしてるんだろうかと思っていたが、合唱部には女子部員しかいないとのこと。
なんとなく男子の声しか聞こえないので、不思議に思ってはいたのだ…。



私は家で合唱曲のmidiファイルを公開するサイトにアクセスして音取りを済ませ、すぐ次の日から先輩達に混ざって楽しく合唱した。

「ハモるってこんなに楽しいのか!」
中1の、身体の出来上がっていない同学年との合唱では得られない満足感を、毎日味わっていた。
さすがに中3の体格からはしっかりした響きが
奏でられる。

「ケサラ」の
「歌え 人間の優しさを歌え」の部分。
「フレトイ 再び」の
「星よ 星たちよ 心に 降り注げ」の部分。

こんな刺激は他に無いだろう。
同時に自らの歌声にも自信がついた。
「中3と一緒に歌えてる、女子のパートの音取りも出来てる、響きもついてきてる!」

有志男声合唱団は、本来であれば女子用に書かれている旋律も、その場に合わせてメンバーが即興でソプラノ、アルトに分かれて歌い出していた。
厳密に言えば、男子がソプラノやアルトのメロディを歌うわけなので、1オクターブ下になるのだけど、それがかえって重厚なハーモニーになる。

着実に、歌声の土壌は出来ていった。
この先に何が待ち受けるかも知らずに。

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