第3話 代替わり

中3の先輩達はやがて卒業し、
2004年4月、私は中2になった。
昼休みになっても、もう私と富岡先生だけ。
有志男声合唱団は実質の解散なのだろう。中3の先輩達に随分良くしてもらったので
寂しかったが、もう新たな時を刻んでいかねば
ならない、と割り切ろうとしていた。

中1のときの音楽の選択授業を一緒に受けていた男子の同級生に、AくんとYくんがいた。

新学期になると私とAくん、Yくんはすぐに音楽室に呼び出された。
音楽室に着くと富岡先生がいて、何かを言いたそうにしているが、どこか神妙な面持ちをしている。
いつもひょうきんな富岡先生には、珍しい…

やがて富岡先生は、いつものように、
唐突に伴奏メドレーを開始する。
弾かれた曲を察知してピアノを取り囲んでいた私たちは歌い始める。
AくんとYくんは女子パートの旋律をマスターしていない。私が女子パートにまわり、Aくん、Yくんは少しびっくりする。
有志男声合唱団のときにしか見せていない、私のもう一つの歌声。
でも、歌声は続く。途切れない。

歌は楽しい。1年生のときの有志男声合唱団ほどでは無いにしても、身体に電撃が走るのを感じた。男のハーモニーとはなかなか他に替え難いと感じる。先生も私たち3人の歌声をしきりに褒めてくれる。
でも…私は冷静に考えていた。
「何を待っているんだ…?話があるならもう話し出せばいいのに…。なんで時間稼ぎみたく富岡先生は俺たちに歌わせてるんだ?」
5曲くらい歌ったろうか。そのうち、
「いつまで待ってりゃいいんスか?」
Aくんはしびれを切らし始める。

そこに…現れた。
音楽準備室から6人の女子の先輩がぞろぞろと
出てきたのだ。
「いゃ〜、噂には聞いてたけど、現物見ると
やっぱスゴいね。」
「これなら私たちもいけるんじゃない?」

…何の話だ?

「この子達にあの話はしたんですか?先生?」
「…それは、部長の口から話すべきだろう?」と先生。
男子一同:「?」

女子の先輩達がお互い見合って打ち合わせている。
「なんとか希望は持てそうだけど、頼みこむのは筋が違うんじゃない?あくまで本人たちの希望が最優先な訳だし。」
「だいたい、この子達に私たちの声釣り合うの?」
「男子で、しかも後輩とはいえ、こんな上手い子達なら私たちの目標にもなるよ!ダメ元で言ってみようよ!」
「部長、ピシッと言って!」

私:「…?」

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