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嫌なお客様からの仕事は断るべきか

月曜日です。
また新しい一週間が始まりました。月曜日は打合せばっかりで他の曜日よりもぐったりします。夕方になると脳みそが働いていないです。脳の働き方がアイディアを出すとか、話を整理するとか、発散と収束を繰り返し続けるので、夕方になって別の働き方にすぐ移行できないというのがいつもの月曜日です。

さて、今日は「嫌なお客様からの仕事は断るべきか」というテーマで書いていこうかと思います。クライアントワークが中心の僕らからすると書きづらいことでもあるが、結構大事なテーマだとも思っています。

先日ある案件の受注に向けた活動を続けるべきか否かについて、スタッフからメールで相談があった。

要約するとこんな感じだ。

・2回のコンペを経て10社から2社へ絞り込まれている状況
・クライアント側の連携不足(経営者⇔プロジェクトメンバー)
・外部パートナーがいる前でプロジェクトメンバーを恫喝(経営者)
・このタイミングで経営者からもっと安く対応できないかとの発言あり
・初対面のこちら側にもかなり高圧的な態度をとり続ける(経営者)
・交換させていただいた名刺も持ち帰らず机に置いたまま退散(経営者)

僕は秒で返信した。
「断って。リスペクトの無い会社とは仕事しない。」

何か上から目線に映ったらすみません。
別にそんなつもりじゃないんですけど、やっぱり気持ちよく仕事はしたいな~と思っています。

今回は新規のお客様だから判断に困ることはありません。
僕らのようなクライアントワークは発注者と受注者の関係性の中で仕事が進んでいく。当然、お客様の要望を叶えることが僕らの仕事になる。そんな中で高圧的な態度をとるお客様や、無理難題をわざと仕掛けてくるお客様や、完全に業者扱いで下に見てくるお客様など様々だ。

また一方で、僕らを必要なパートナーとしてリスクペクトしてくれるお客様や、無理な要望もあるが、そんな時はこちらが恐縮するほど申し訳ない感をだされるお客様などもいらっしゃる。

世間には「下請法」なるものがある。
こんな法律が必要な位だから発注者と受注者の上下関係には様々な問題があるのだと思う。

日本では「お客様は神様である」が是となっていることが多いと思う。
国民性もあると思うが、無宗教のこの国ではお客様が神様であるは一定数の合意を得ているのだ。この「お客様は神様である」は歌手の三波春夫さんのモットーが発祥とされている。

三波さんのオフィシャルサイトでは、このフレーズが真意と違う意味に捉えられて使われることが多いと注意喚起しています。

『歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。ですからお客様は絶対者、神様なのです』

あくまでもプロフェッショナルな歌い手としての心情を表したフレーズであって、上下の関係を知らしめるものではないのです。ゆえに、サービスの提供側が「お客様は神様である」と見立てることは良いのですが、需給者側が「俺は客だぞ!お客様は神様って言葉しらねぇのか」とマウント取ることは間違っています。この辺の相互のバランス感覚が少し崩れているのかもしれません。


僕は基本的にお客様を選ぶような偉そうなスタンスは持っていない。あくまでも「お客様に選んでもらう立場」だ。偉そうに立ち振る舞う気持ちは一切ないし、お客様のご要望に真摯に向き合っていきたいと思っている。

無理難題を突き付けてくるお客様や、高めの剛速球を投げてくるお客様は僕らを成長させてくれる有難い存在だとも思っている。自社を成長させたいのなら、レベルの高い企業と付き合うことが一番だと思っている。無理難題も高めの剛速球も全てはこちらのレベル次第なのだ。

ある企業によっては無理でも難題でもない要求かもしれないし、打ちごろの棒球かもしれない。現在の僕らの実力で全てを評価したり、判断したりすることはできない。サービス提供側が気を付けないといけないのは、「お客様は神様である」のある種の反動から、お客様を選べるのが偉いとか、選ぶのが普通とか、そもそもお客様と僕らは対等と勘違いすることだと思っている。

ちょっと難しいお客様がいたとして、こちらの思うようにならないとイチイチ文句を言っていたら商売にならないわけです。こちらからお客様を選ぶということはよっぽどのことだと思っている。(マーケティングでターゲットを絞るとは全く次元の違うレイヤーの話しなのです)


また、以前にこんな事もあった。
既存のお客様で無理難題を投げかけてくるだけでなく、弊社のスタッフに投げかける言葉が辛辣で関係性をコントロールが出来ないことがあった。そういう人は一度スイッチが入ると止まらなくなるので、一方的に罵詈雑言を浴びせかけてくる。それが長い期間続きスタッフが参ってしまい、見かねた部門長が僕の所に相談にきた。先述との違いはそのお客様との商いが会社にとって割と大きかったことだ。

僕は部門長と隣に座っているスタッフに伝えたのは
「もう無理だと思ったら断っていいよ。それが会社にとって大事なお客様であったとしても、心や体を壊してまでやる仕事なんてない。」

それが僕の答えだ。
最後にスタッフを守れる決断をできるのは経営者だけだ。
スタッフはプロとして最後まで商品・サービスを提供することをあきらめないと思う。止めるとか、撤退するとか、ネガティブな判断は現場ではできないというのが僕の経験則だ。

もし仕事がなくなったとしても、また一から開拓して、僕らのサービスを欲しいと言ってくれるお客様を増やしていけばいいだけだと思っている。それができる組織だと信じている。

ただ、ここで大事なポイントが1つある。
それは、その決断に勝算があることだ。

僕は経営者として判断しなければならないことが沢山ある。間違えた判断をすれば会社がおかしくなる可能性がある。それは社員を危険な状況に晒すことにつながる。高圧的な態度の新規顧客の受注をあきらめることも、一方的に罵詈雑言を浴びせてくる既存のお客様との取引を止めることも、全て勝算があってこそできる判断だ。

逆に言えば、勝算がなければ断ることはできない。
勝算なく断れば経営が成り立たなくなるからだ。

僕はヤマト運輸の事例を参考にしている。

ヤマト運輸が当時(1979年)のメイン顧客である「三越」からの理不尽な要求に耐えかねて仕事を断ったのは有名な話である。

最大の顧客であった老舗百貨店「三越」と決別し、同社の配送業務から撤退することは大きな決断だったと思う。問題は百貨店そのものではなく「三越」に君臨するワンマン社長のやり方にありました。高価な絵画や別荘地、映画の前売り券を買わされることもあったそうです。その後「三越」のワンマン社長はクーデターに合い失脚し逮捕されます。俗にいう三越事件です。

当時、ヤマト運輸の小倉社長は理不尽な要求にも長年の義理もあることから我慢をしていたそうです。「三越」の業績悪化の穴埋めに配送料金を下げられ、「三越」の物流センターでは駐車料金を徴収されても「三越」のためだと我慢したのです。しかし、「三越」の業績回復後もこれらの措置は変わらず、ヤマト運輸の三越担当部門は1億円以上の赤字に転落します。ついにヤマトは「三越」との契約を解除します。契約解除を決めると逆に社内の空気はすっきり明るくなったと後年の小倉さんは振り返っています。

余談ですが、僕は宅急便の生みの親である小倉昌男さんの名著「小倉昌男 経営学」という本を何度も読み返しています。MBAで学ぶことは全部あの1冊に詰まっていると思う。是非読んでいただきたい。


なぜ、ヤマト運輸の小倉さんは「三越」の仕事を断ることができたのでしょうか?
理不尽な要求の数々に流石に堪忍袋の緒が切れたのでしょうか?
それとも疲弊していく社員を不憫におもって契約を解除したのでしょうか?

僕は違うと思っています。
小倉社長とヤマト運輸には勝算があったのだと思う。

「三越」との契約を切ってもやっていけるだけの勝算を得るために、小倉社長は何年も前から準備していたのだと思っています。それを知ることのできる記事がこちらです。

その後、宅急便の取扱個数は急激に増え、収益性も上がった。1978年には、三越の宅配は取扱個数が約450万個で、1個当たり平均単価は約180円だった。それに対して、宅急便の取扱個数は約1000万個で、平均単価は約900円。三越の年間宅配個数の約25%を大和運輸が取り扱っていたが、年間の売上高にすると8億円強に過ぎず、反面、宅急便はすでに1000万個を超え、年間売上額は約90億円にもなっていた。つまり、リストラを断行し、宅急便の成長を確信していた小倉氏からすれば、三越からの撤退は十分”勝てる喧嘩”だったのである。


ビジネスはキレイごと(理想)だけ言っていても前に進みません。
キャッシュが月単位で回らなくなった時点でゲームオーバーです。月々の仕入れ先への支払や、社員への給料、オフィスや光熱費などの固定費を稼げなければどんなキレイごと(理想)も単なる戯言です。


自分の会社はもとより、ここで働いてくれるスタッフや、外部のパートナーを勝たせるためには、自らが強くなるしか方法がないです。良い意味で仕事を選べる、断れる状況(勝算)を作っておくことが経営者の務めだと思っています。


驕らず、謙虚に、そして真摯に。
お客様の課題と向き合っていきたいと思う。

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である。
二宮尊徳


こんにちは。最後までお読み頂きましてありがとうございます。このnoteは僕のつたない経営や、インナーブランディングを行う中でのつまづきや失敗からの学びです。少しでも何か皆様のお役に立てたら嬉しいです。サポートはより良い会社づくりのための社員に配るお菓子代に使わせていただきます!