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図書館史概説③~今につながる世界の図書館事情~

はじめに

 本日も連載記事『図書館史概説』の3本目をお届けします。
 今回は「今につながる図書館事情」と題して、主に近現代ヨーロッパで出現した、現代に通ずる「図書館」の形や概念・理念について述べていきます。比較的短めの記事ですので、前回までに比べればさくっと読めるかと思います。

1 ヨーロッパ「国立図書館」の出現

 啓蒙主義の時代を経てヨーロッパでは今日に繋がる、様々な「図書館」に関する制度が現れた。その中で特徴的なもののひとつは「国立図書館」である。「国立図書館」については第1回記事『図書館史概説①』にて既に述べたが、「国の中央図書館」として、国家という枠組みの中であらゆる「図書館」の中心に立って機能する「図書館の図書館」であるといえよう。以下、ヨーロッパの主要な国立図書館としてフランス、イギリス、ドイツ、アメリカの国立図書館を紹介する。
 「国立図書館」と呼びうる図書館は、はじめフランスに出現した。ヘンリー4世の時にパリへと移転をはたし以後はヨーロッパ有数の図書館として発展していく。18世紀後半、革命後には「国立図書館(Bibliotheque National:BN)」として再建され貴族や修道院からの没収図書、またそれ以外にも外国からの持ち帰られた図書など、貴重な図書を所蔵しながら拡大していった。現在の「国立図書館(Bibliotheque National de France:BNF)は、1988年、当時の大ミッテラン大統領が構想し1995年に完成した大規模図書館と旧来の国立図書館(BN)を統合させた大規模図書館で、新しい電子技術を導入する大改革が行われた。
 次にイギリスでは、1759年に開館した「大英博物館」の図書部門がその役割を担うこととなる。大衆にも開かれており、蔵書は博物館の標本を凌ぐほどであった。19世紀半ばに当時のパニッツィ館長により義務納本の徹底などがなされ、その地位を確かなものと、19世紀末には世界最大規模の図書館となる。第二次世界大戦後には複写による転送サービスを行う「国立科学技術貸出図書館(National Lending Library and Technology)」が設立される。現在の英国図書館は、大英博物館図書館部門と、国立科学技術貸出図書館を核に統合し設立された。
 ドイツでは国内統一が遅く、集権的機能を持った国立図書館の出現は遅かった。もととなる図書館はベルリンの「帝国図書館」であるが、蔵書規模が小さく一般への公開もされていたが、蔵書のほとんどが宮廷内にあり利用は困難だった。19世紀初頭にプロシア文化省の管轄となり蔵書管理や増加が組織的に行われるようになり、19世紀末には80万点もの蔵書へと拡大する。そして1919年、ベルリン王立図書館長のヴィルマンスとハルナッタは中央図書館機能を充実し「プロイセン国立図書館」として再編した。その後発展を続け、1937年には国際間相互貸借センターとして機能している。現在のドイツ国立図書館はライプチヒ、フランクフルト、ベルリンの音楽図書館の3館に分散している。
 アメリカでは「議会図書館」がその役割を担う。1800年、当初は議員のための図書館として議事堂内に設置されたが1897年に現在のトマス・ジェファーソン館に移転した。そして1864年から33年近く館長を務めたスパフォードの時代に大きく転換を見せる。蔵書拡大に努め、また1870年の著作権法改正により、米国内で著作権の保護を受けるためには議会図書館に著作物を2部納本するよう定められた。これによって、議会図書館は納本図書館としての地位を得、国立図書館としての性格を持つようになった。19世紀末には大英博物館と並ぶ国立図書館としてその地位を確固たるものとした。第二次世界大戦後は『全米総合目録』の作成や書誌情報の管理システムの構築などの面で世界的にもリードし、1990年代半ばからは「National Digital Library」という電子図書館プロジェクトの推進、2009年からは「World Digital Library
の公開といった形で「図書館」を牽引する役割をはたしている。
 以上、4ヶ国の「国立図書館」を紹介したが、これらは成立の年代などは異なるがいずれも国内図書館の中心として、国内出版物や情報を収集・保存するという機能、そしてそれをもとに国内全体へ図書館サービスを提供するという使命をはたしている。
 そして現代においては国内だけでなく、国際的にも図書館間相互の協力体制を形成する窓口、代表としての役割が期待され、またそれを担っているのである。国や時代が異なってなお、同様の機能を持ちうる「国立図書館」という制度が生み出されたのはなぜだろうか。それは、このような国立図書館の基本的な機能が「図書館」というものにおいて必要不可欠な要素たりうるからこそではないだろうか。このことは今後の図書館のあり方を考察するうえでの、ひとつの鍵となりうるだろう。

2 「公共図書館」の出現

 今日の図書館を語るうえで決して忘れてはならないのは「公共図書館」である。
 以前ユネスコの公共図書館宣言を紹介してふれたように「公共図書館」とは無償で知識や情報をもとめる人びとすべてに、それが提供なされる、そして国や地方自治体がそれを支えるという原則がある。こうした図書館のあり方は今では当たり前のものとして、我々はそれを享受している。しかし、それらがどのような歴史を歩んできたのかを知ることで図書館へのより深い理解となり、またこれからの図書館について考えていくうえでの大きな助けとなるはずである。以下は、「公共図書館」の成立とその周辺について述べる。
 世界初といわれる公共図書館が誕生したのは1833年のアメリカ、ニューハンプシャー州のピーターボロである。ピーターボロ図書館は「公的資金での運営」、「一般への無料公開」という今日における公共図書館の原則を体現していた。この小さな町の図書館の誕生は「公共図書館」にとっての大きな一歩となっただろう。
 その後1848年を契機に「公共図書館」についてさらに重大な出来事がボストンに起こり始める。初めは当時のボストン市長のクウィンシーはパリからの寄贈図書を受け入れるために公立の図書館設置を提案し、マサチューセッツ州にその権限を求めた。そしてそれが認められ、州法として制定された。これによりボストン市は住民利用のための図書館設置、年5,000ドル以内の市費支出が可能となった。1854年3月、この州法のもと「ボストン公共図書館(Boston Public Library)」が開館した。このことに大きく貢献した人物が2人いる。エヴェレットとチクナーである。彼らはボストンに公立の図書館を設立することを強く推進する内容の報告書を起草し、議会に提出した。その中で

 「読書環境の保証は、公共政策として……すべての人々に用意されるべきである。無料教育もまた同じ原理に従ってすべての人々に用意されなければならない。……情報の入手手段が広く浸透し、大多数の人々を……読書にいざない……

 このように、公共図書館の信条ともいえるべき理念、そして図書館が公教育に携わりそれを保証する機関であることを述べている。こうした背景から誕生したボストンの公共図書館は、特にアメリカにおいては公共図書館のモデルとして他を牽引し続けたのである。
 他のヨーロッパの国々においても、勿論多数の図書館を要していたし、公的機関が設立したもの、また市民らに開かれているもの、教育機関に付随、もしくは教育施設を備えているものなどは様々な形で存在していた。しかし、ボストンから生まれた公共図書館の「原則」に叶うものはそう多くはなかった。つまり、誰に対しても無料で開かれ、かつ教育に携わり、それを公共自治体が担うという今日の「公共図書館」を生み出し、現代の「図書館のあり方を規定したのである。

あとがき

 今回記事は比較的少な目の文章量でお送りしました。
 まあ、前回記事のヨーロッパ図書館史の近現代部分をかなり省略したものなので仕方ないのですが……

 今日、私たちがイメージする「図書館」の原型や理念はこのあたりから一般的なものとして国家・公共のものとして形成されていきました。
 以前の記事でもふれたように、図書館には大まかに5つの分類(国立図書館/
公共図書館/大学図書館/学校図書館/専門図書館)があり、それらの原型は古代から脈々と形作られてきたといってもいいでしょう。
 しかしながら、やはり現代の日本人にとって馴染み深い「公立の図書館」というものは近現代の社会や思想の変化の中で大きな転換を向かえていき、今日の図書館像を作り上げました。

 さて、やっとこさ次回は日本の図書館史について書いていきたいと思いますので、次回もよろしくお願い致します。

本記事参考一覧

参考文献
・『広辞苑 第五版』岩波書店、1998年。
・岩猿敏生『日本図書館史概説』日本アソシエーツ、2007年。
・大串夏身・常世田良『図書館概論』学文社、2012年。
・樺山紘一編『図説 本の歴史』河出書房出版、2011年。
・高山正也・岸田和明『図書館概論』樹村房、2011年。
・佃一可編『図書・図書館史』樹村房、2012年。
・丸山昭二郎ほか監訳『ALA図書館情報学辞典』丸善、1988年。
・ヨリス・フォルシュティウス『図書館史要説』日本アソシエーツ、1980年。
・リチャード・ルービン『図書館情報学概論』東京大学出版会、2014年。

参考雑誌
・『図書館雑誌 vol.107(No.1-12)』日本図書館協会、2013年。
・『図書館雑誌 vol.108(No.1-12)』日本図書館協会、2014年。

参考論文
・川崎良孝「最近の図書館研究の状況-批判的図書館(史)研究を中心として-」『京都大学生涯教育・図書館情報学研究 vol.8』2009年、1-10頁。
・三浦太郎「日本図書館史研究の特質-最近10年の文献整理とその検討を通じて-」『明治大学図書館情報学研究会紀要 No.3』2012年、34-42頁。

参考HP
・朝日新聞社「コトバンク」
https://kotobank.jp/word/%E6%9B%B8%E7%89%A9-80626 (2015年1月20日参照)
・日本図書館協会HP「図書館とは」
http://www.jla.or.jp/library/tabid/69/Default.aspx (2015年1月20日参照)
・文部科学省HP「図書館法」
 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO118.html (2015年1月20日参照)
・World Digital Library “About the World Digital Library”
http://www.wdl.org/en/about/ (2015年1月20日参照)

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